307 鉄壁の盾
「確実に取ったと思ったのだがな! やるな!」
「そっちも」
「腕を失いかけた直後にその言葉。強気ではないか。いいぞ! ただ蹂躙するだけではつまらぬからな!」
ワルキューレは楽し気に叫びながらも、次々と矢を放ってくる。例の神速の矢ではないのだが、剣で払っただけで爆発する矢、透明な矢、大きく弧を描く軌道の矢など、簡単には躱せない物ばかりだ。3本に1本はかなりのダメージを受けてしまう。
ここに、あの神速の矢を織り交ぜられたら、かなり危険なはずなのだが、撃っては来ない。簡単には撃てないようだな。
とは言え、このまま防御だけをしていてもいつかはやられる。
『またせたな!』
フランが稼いでくれた時間を無駄にすることは出来ん!
『――食らえ! カンナカムイィ!』
無詠唱をゲットしたはずなのに、思わず叫んでしまった。その方が気合が入るからか? これで決める! その決意の下、俺は全身全霊を込めてカンナカムイを二重起動した。
さすがにカンナカムイの同時起動は無理があったのか、形態変形を無理に使った時と同じような――いや、それを上回る凄まじい悪寒に襲われる。
『ぐが……っ!』
だが、俺は歯を食いしばる――ような気持ちで意識の集中を切らさずに、何とか術を放った。かなり遠いが、魔力制御スキルのおかげで射程も延びている。今の俺ならここから奴らも狙うことができるのだ。
術は問題なく発動し、ワルキューレの頭上に巨大な雷が降り注ぐ。奴が弓を引き絞った瞬間を狙ってやった。少しでも反応が遅れてくれれば!
しかし、俺が気付いた時にはすでにデュラハンがワルキューレの背後にいた。身長が160センチそこそこのワルキューレに対して、デュラハンは180以上ある。その状態で大きな盾を頭上にかざせば、ワルキューレを完全に守ることができるだろう。
デュラハンが空に向かって盾をかざした瞬間、カンナカムイがワルキューレごとその巨体を飲み込んだ。
両方、一気にやれた――とは毛頭思わない。デュラハンの硬さは凄まじかった。盾聖術に加えて、魔術耐性、抗魔鋼の盾、鎧、障壁の指輪。しかも俺たちに合わせたのかっていうピンポイントで雷鳴耐性も持っていた。
それだけ揃っていれば――こうなる。いや、まじか? 想像を遥かに上回りやがった。
『ヒュドラを一撃で葬る最強の術だぞ? それをあっさり防ぎやがって……!』
デュラハンの全身からブスブスと白い煙が上がっていた。HPも半減している。だが、瞬間再生であっさりと回復されてしまった。
武闘大会の時の様な、カンナカムイを使えるようになった直後とは違う。今は雷鳴魔術を使う事にも慣れ、魔力制御スキルも得ている。あの時よりも遥かに威力が上昇しているのだ。しかも、それを2発だぞ?
武闘大会で糸使いのフェルムスを倒した、カンナカムイと黒雷招来の重ね掛けと遜色ない威力だったはずだ。直撃すれば、ワルキューレでも葬れる自信があったのに……。威力をかなり殺されてしまったようで、周辺への被害も少なく、爆発も起きなかった。
『くそ! いくらなんでもあの程度っていうのは――』
「師匠、あれ」
『む?』
フランが何かに気づいたようだ。指差す方を見てみる。すると、ミノタウロス・ダークパラディン、ハイオーク・シールダーたちが黒焦げになって倒れるのが見えた。ハイオーク・シールダーは全て死んでいる。ミノタウロス・ダークパラディンは2体が死に、残った2体も瀕死だ。
どういうことだ? デュラハンによって威力を殺されてしまい、オーク達まで巻き込んだはずはないんだが。それに、他のオークやミノタウロスたちはピンピンしている。
『もしかして、ダメージを移したとかそういうことか?』
どんな仕組みかは分からないが、邪人たちの一部が、カンナカムイの雷撃を肩代わりして受けた様だった。厄介な邪人を100匹以上減らせはしたが……。無理して大魔術を放った割には、納得できない戦果でもあった。
「ふ、ふは、ふははは。まさか、まさか極大魔術を使うとは! やるではないか!」
「――」
ワルキューレが冷や汗をかきながら、恐怖を誤魔化す様に哄笑を上げる横で、デュラハンは無口に佇んでいる。そして、そのまま近くにいた魔獣に手を伸ばした。
「ギョォ? ガヒャ……!」
「――」
どうやら魔力を吸収しているようだ。さらにもう一体に手を伸ばす。拙いな、魔力吸収をもっているデュラハンにとったら、魔獣共は魔力タンクみたいなものだ。これで、闇雲にカンナカムイを連発して魔力枯渇を狙う訳にもいかなくなった。
それに、もうカンナカムイを当てることは難しいだろう。
ワルキューレとデュラハンが先程までとは違い、一所には留まらず常に動き始めたのだ。カンナカムイの発動工程は、術の起動、僅かな溜め、発動という感じだ。そして、一度放たれれば避けるのは難しい。なにせ雷だからな。
だが、術の起動直後の僅かな溜めを感じ取り、逃げることは不可能ではなかった。俺たちならできるし、ワルキューレやデュラハンにも出来るだろう。カンナカムイは威力は最強クラスだが、逃げ回る小さい相手に当てるのは難しい術だった。
『遠距離じゃ話にならない。近づこう。そうすれば弓もある程度封じられる』
(わかった)
フランもワルキューレたちのように、的を絞らせない様に小刻みに動き始める。
そして、そのまま前傾姿勢でワルキューレに向かって駆けた。邪人たちの攻撃は斬り払い、厄介なワルキューレの矢は俺の転移ですり抜ける。
このレベルの相手だと、転移を見せすぎると対応されるからな。あまり頻繁には使いたくないんだが、邪人たちの攻撃をかわしながらワルキューレの矢までかわすとなると、近づく余裕はなくなってしまう。全く使わないのは無理だった。
だが、近づいてしまえば超接近戦で弓は使えないはずだ。いや、使えても、遠距離程危険な相手ではなくなるはずだ。問題は、あのレベルの敵を相手に、接近戦を挑んで勝ち目があるのかだが……。遠距離では活路を見いだせない以上、近距離戦に希望を求めるしかなかった。
一瞬、雷鳴魔術以外の魔術をカンストさせて、一か八か有効な術を覚える可能性に賭けようかとも思ったが、さすがにこの局面で貴重な自己進化ポイントを使って賭けに出る程無謀ではない。
試すなら剣に関係あるスキルだろう。いや、待てよ。剣王術のレベルは上げられないか? そう思ったんだが、剣王術をレベルアップさせることはできなかった。指定はできるんだが、無情のアナウンスが聞こえてくる。
〈スキルの取得条件を満たしていません〉
剣王術の上のスキルは存在しているようだが、俺では獲得することができないらしい。となると剣聖技だが……。これはワンチャンある。
先程のワルキューレの攻撃は弓聖技だと思われる。ならば、剣聖技もかなり期待は持てる。
フランに提案してみると、賛成してくれた。フランも同じことを考えていたらしい。
『じゃあ、剣聖技に18ポイントをつぎ込む!』
「ん!」
その瞬間だった。
《剣聖技がLvMaxに達しました。剣技強化がスキルに追加されます》
《条件を全て達成しました。ユニークスキル、剣王技がスキルに追加されます。また、全ての剣技スキルが剣王技に統合されます》
《剣王技、剣王術を獲得しました。ユニークスキル、剣神の祝福を獲得します》
《フランが剣神の祝福を獲得しました。職業、剣王が解放されます》
凄まじい勢いでアナウンスが流れる。やばい、聞き逃しそう! だが、重要なことは1つ。剣神の祝福を得たということだろう。
その瞬間、明らかにフランの剣の腕が進化したことが分かった。より剣の理に近づいたというか、フランの手に俺の柄が吸い付く様な感じがする。これは、剣じゃなきゃ分からない感覚だろう。とにかく、剣としてフランがより良い使い手になったことが理解できたのだ。
剣神の祝福:剣を握っている際、戦闘行為に関して祝福が得られる
なんかアバウトだ。だが、とにかく戦闘中に強くなるってことだろう。どれくらいなのか分からないので当てにはできないが、今は有り難い。それに、神様の祝福だ。お粗末な効果ではないだろう。
「なんだ? 急に動きが良くなった?」
「はぁぁ!」
「我が僕どもよ、その娘を倒せ!」
少なくとも、ワルキューレが驚く程度には強化されたらしい。
「剣聖技・サークル・インパクト」
まあ、その場で一回転して周囲全てに攻撃する技だ。似た技は剣技にもあった。だが、剣聖技になって凄まじく強化されていた。回転速度、範囲、威力。全て倍といった感じだ。
剣技強化も相まって、想像以上に強かった。周辺にいた20匹ほどの魔獣が一撃で上下真っ二つだからな。
「ソード・ソニック」
こちらも、剣技・ソニック・ウェイブの上位互換技だった。範囲は変わらないものの、射程は長くなっている。衝撃波で魔獣たちが吹き飛ばされ、道が出来た。魔獣がその隙間を埋めようと向かって来るが、フランが一足早い。その道に身を躍らせ、一気に魔獣たちの群れを突破したのだ。
目の前には邪人の軍隊。
『よし、このままワルキューレに突っ込むぞ!』
「ん!」
フランが俺を振りかぶり、さらに加速した。




