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306 神速の矢


 再びのランクアップで自己進化ポイントを75も入手した。だが、今は魔獣を殲滅するのが先だ。


『ちっ……これ以上、形態変形を維持するのは難しいか』


 しかし、最後にもう一発、ぶっ放してやる。


『はぁぁっ!』


 俺は糸状に広がる組紐を通して、50発ほどのスタン・ボルトを同時に放った。それにより、糸に貫かれていない魔獣たちも、麻痺してその場に倒れ伏す。


 エカト・ケラウノスの連発からの、鋼糸攻撃。そして最後の広範囲スタン・ボルト。一連の攻撃によって1000匹近くの魔獣が倒され、1000匹以上が行動不能に陥っていた。


『なんとかなったか……』

(師匠、大丈夫?)

『……あ、ああ』


 全身から力が抜ける様な感覚があった。剣の体になってから久しく覚えていなかった、虚脱感とか倦怠感と言った感覚に近いだろう。


 スキルや魔術の多重起動によって、限界を超えた反動なのだろうか? これは、同時演算に頼り過ぎると手痛いしっぺ返しを食らうかもしれないな。本当なら、同時演算の詳しい検証をしたいところだが……。


『今はそんなこと言ってる場合じゃないしな。使える物は全部使って、限界くらいは越えてみせないと』


 じゃないと、フランが俺の代わりに無理してしまうだろう。


「ギャギャウゥ……」

「ヒィン……」

「バロオォオ……」


 フランの周辺からは魔獣が排除され、ぽっかりと空白地帯が出来ている。だが、残った魔獣たちは怯えた様な悲鳴を上げるだけで、向かって来ようとはしなかった。それどころか、フランが軽く目を向けるだけで、後ずさりする。


 残った魔獣たちとは離れすぎていて、こちらから攻撃しにくいな。もう1度、魔術攻撃をするしかないか?


 俺が攻撃の準備を整えていると、不意にワルキューレの声が響いた。風魔術で拡声しているのか、戦場に響き渡っている。

 

「さすがだな! さしもの我も、少々驚いたぞ?」


 一撃で魔獣たちが壊滅状態に陥ったはずなのに、ワルキューレは未だに余裕だった。邪人たちの被害が少なかったからか? ただ、怒りが無いわけではないらしい。その怒りはフランではなく、味方である魔獣たちに向いているようだが。


「雑魚ども! 貴様らには失望しかないわ! 単なる露払いとは言えこの体たらく、ミューレリア様の配下として恥ずべき惰弱さ!」


 容赦ないワルキューレの言葉に、魔獣たちが項垂れる。


「貴様らには、最早何の期待もせぬ! せめて、無駄に死ぬ前に強敵に一矢報いて死んでいくがいい! それがミューレリア様の御為である!」


 配下に死ねという酷い言葉だ。だが、魔獣たちは逆らうどころか、雄叫びを上げてやる気をみなぎらせていた。ミューレリアの為という部分に反応した様だ。その言葉を聞いた瞬間、明らかに気配が変わったからな。


 魔獣たちの目にはフランに対する強い憎しみと、決死の覚悟が見て取れた。


「ゴオオオォォォ!」

「ギャウウウゥゥ!」

「ブラァァァァァ!」


 魔獣たちが一斉に向かって来た。魔術で先頭を攻撃するのだが、その歩みは一切止まらない。死兵となった魔獣たちの足を、恐怖で鈍らせるのは無理そうだな。


 包囲が少しずつ狭まり、その直後に一気に魔獣たちが駆け寄って来た。フランを自分たちの質量で圧殺するつもりなのか、闇雲に突っ込んでくる。


 俺たちは転移や空中跳躍で移動しながら、魔獣たちを切り捨てていった。魔獣だけならどうにでもなるんだが――。


 そこに邪人たちが弓を射かけて来たのだ。さすがに上位種族なだけあり、その矢嵐はかなりの威力があった。しかも、仲間の魔獣ごとフランを射ている。魔獣を足止めに使うつもりらしい。


「はぁ!」

『障壁が削られるな――フラン!』

「がぁ――!」


 邪人たちから降り注ぐ矢を切り捨てながら、魔獣を薙ぎ払っていると、フランに飛びかかっていた魔獣の胴体と、フランの左肩が爆ぜ飛ぶ。


「うぐぅ……」

『ちぃっ!』


 俺は咄嗟に念動を使い、吹き飛んだ左腕を掴むと、フランを連れて転移で逃げる。


『フラン、今治す!』

(何、された?)

『ワルキューレの矢だ!』


 ワルキューレが魔獣をブラインドに使い、矢を放ったのだ。それも、山なりではなく、一直線に。射線上にいる10体近い魔獣を貫通して来たのに、全く速さが落ちなかった。それこそ、俺たちがほとんど反応出来なかった程の速さだ。


 だが、フランは咄嗟にヒットポイントをずらしたのだろう。心臓を狙っていた矢が、ギリギリ逸れて肩に当ったのだ。くそっ、今日だけで何回目だ!


『良く反応したな!』

「……なんとなく?」


 やはりフランの勘は凄いな。だが、これはヤバい。今の神速の矢を連発されたら、近づくことさえできずに遠間から穴だらけにされてしまうだろう。


 俺はワルキューレに狙われない様にディメンジョン・シフトと転移を小まめに発動させながら、フランに提案した。


『フラン、感覚系のスキルを上げよう。反応速度を上げないと、何もできずに殺されるぞ』

「ん。任せる」

『上げるスキルは俺が決めていいのか?』

「師匠の好きにして」


 よし、さすがに魔力を大量消費するディメンジョン・シフトを長時間発動しながら相談する余裕なんかないからな。俺はすぐにスキルを選び、ポイントを費やした。


 危機察知に16ポイントをつぎ込んでLvMaxに。察知強化のスキルを得ることも出来た。さらに警戒に12ポイント費やし、LvMaxに上昇させる。どちらも、自らに迫る危険を察知するためのスキルだ。


 だが、これで終わりではない。先程、クリムゾンウルフから手に入れたばかりの、反応速度上昇:Lv1にも18ポイント使用する。残りポイントは29に減ってしまったが、俺の予想通りのスキルを得ることができた。


 フランが閃華迅雷使用時にも発現する、超反応のスキルだ。察知能力を上げ、超反応で矢に対応するという作戦だった。


『見える!』


 直後に、ワルキューレの放った矢を念動で叩き落とすことに成功する。かなり集中していなければならないが、先程の様に全く見えないというレベルではない。


 これで、ようやくスタートラインに立ったという感じだが。


『反撃開始だ』

「ん!」



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