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303 長城


 自己進化ポイントをどこに費やすか、フランと相談する。


「火炎魔術?」

『そうだな……』


 雷鳴魔術の次にレベルも高いし、殲滅力も高い。悪くはないか? ただ、森林火災などを気を付けなきゃいけないだろう。炎が燃え広がって、避難民まで巻き込んだりしたら本末転倒だからな。


『火事さえ気を付ければ行けるか?』

「じゃあ、暴風魔術は? きっと範囲が広い」


 確かに風魔術は範囲が広い術が多いし、広域殲滅には役立ちそうだ。だが、本当にそれでいいのだろうか?


 これが、単に魔獣の数を減らして、追い散らせればミッション達成というのであれば、火炎魔術や暴風魔術でも良い。


 ただ、今回は避難民たちを守ることが目的の戦いだ。極端な話、魔獣を1匹も倒せずとも、避難民たちがグリンゴートに逃げ込むことができるまでその場に釘づけにしていれば俺たちの勝ちだった。


 なので、迂闊に攻撃を仕掛けて、魔獣の軍勢がバラバラに逃げ散ってしまうのはまずい。特に今の魔獣たちは、俺たちに強い魔獣を倒され、脅威度が低い魔獣ばかりだ。中途半端な手出しは、逃散を誘発させてしまうかもしれない。


 そうなっては、個別に追う事も難しくなり、避難民たちが逃げて来た魔獣に襲われる可能性が上がるだろう。


「む」


 フランが腕を組んで悩んでいる。だが、俺はあることを思いついていた。


『なあ、大地魔術はどうだ?』

「大地魔術?」

『ああ、レベルを上げれば、壁や堀を作れると思うんだよな』


 グリンゴートでマルマーノも言っていた。この国には、敵を防げるほどの大地魔術の使い手は1人しかいないと。つまり、大地魔術には大軍に対して足止めに有用な術が存在していると言う事だった。


「ん! なるほど」

『今のポイントなら、最高レベルにも出来る。習得するなら今の内だと思うんだよ』

「それでいい」


 フランも賛成なようだ。


『じゃあ、とりあえず土魔術を上げよう』

「ん」


 ポイントを4費やし、土魔術をLvMaxに上げた。フランの称号に土術師が加わり、俺は大地魔術と砂塵魔術をゲットする。そうか、風と土で砂塵だったな。だが、今は置いておこう。本番はこの次だ。


『大地魔術のレベルを上げるぞ』


 とりあえず4まで上げてみる。だが、目当ての術は覚えない。かなり強力そうな術たちは覚えたが。


 さらにポイントをつぎ込む。残り自己進化ポイントが25となった時、大地魔術Lv6でそれらしき術を習得できたのだった。


『きた! 多分これだ』


 Lv6大地魔術、グレイト・ウォール。大きな壁と堀を生み出す術だ。魔力を最大限まで込めれば、かなり巨大な物も造り出せそうな気がする。


『これで魔獣どもを足止めできる!』

「ん!」


 すでに森に入り込んだ魔獣の軍勢は、だいぶばらけ始めていた。多分、周辺の村を襲うために軍勢を分けようとしていたんだろう。


『まずい!』

「どうする? 攻撃する?」


 だが、どうも様子がおかしい。魔獣の群れはそれ以上に広がることなく、その場で何故か足を止めていた。何が起きた? 疑問に思っていたら、思い出した。というか、すっかり忘れていた。俺たちが作ったハリボテだ。魔獣の軍勢はあれを囲んで、待機しているらしい。


 想像以上の効果を発揮してくれたな。ここで一瞬でも魔獣の軍勢が侵攻を止めてくれたおかげで、壁を作る時間が稼げる。


 俺たちは偽砦のやや後方に降下した。ここを起点に、壁を生み出す。


『まずは試しに1つ作ってみよう』

「ん」

『最大限魔力を込めて――グレイト・ウォール!』

「おおー!」

「オフー!」


 フランたちの驚きももっともだ。俺も集中してなかったら同じ様に驚きの声を上げていただろう。


 なんと一瞬で高さ15メートル、厚さ5メートル、長さ50メートル程の壁が生み出されたのだ。しかも、この術の素晴らしいところは、生み出すために使った土の分、壁の前に堀が生み出されているところだろう。


 巨大な堀と壁を同時に生み出す術なのだ。これは凄まじい。最大限魔力を込めたため、一回で100以上の魔力を消費したが。俺たちなら1km以上の壁でも作り出せる。


 普通の高位魔術師でも、300メートル程度の壁なら作りだせるだろう。確かに上手く使えば、大軍を相手どれる。


 ただ、壁自体に魔力が込められているわけではないし、自動で補修するような機能もないただの壁なので、高位の魔獣や魔術師が相手だと意外と脆そうだ。


 少なくとも俺たちなら、魔術の一撃で破壊できる。魔獣でも、脅威度D以上の強さを持っているときついかもな。


 ただ、今の魔獣の軍勢には、脅威度D以上の魔獣はほとんどいないはずだ。俺たちを足止めするために向かって来ていたはずだからな。だとすると、質より量の魔獣たちに、このレベルの壁を突破することは難しいだろう。


 これは俺たちに風が向いてるんじゃないか?


『一気に壁を作りまくる。ただ、今のお試しで魔獣たちには気づかれているだろう。時間はかけられない』

「じゃあ、どうする?」

『詠唱破棄と、並列思考を強化する。そうすれば複数の魔術を同時に操れる上、それらを同時に起動できる』

「なるほど」


 詠唱破棄は、どうしても術の名前だけは口に出す必要がある。だが、無詠唱なら? 多分、呪文名さえ不要になるのではなかろうか? それを並列思考の上位スキルで同時に使用すれば、長大な巨壁を一瞬で作り上げる様な真似も可能になるかもしれない。


『あくまでも可能性の問題だが、どうだ?』

「ん。それでいい」

『よし!』


 まずは詠唱破棄に10ポイント使い、狙い通りの無詠唱をゲットする。こちらは俺の予想通り、念じるだけで術が使えるスキルだった。


 さらに残っていた15ポイントを全て使う事になったが、並列思考が進化し、同時演算となる。こっちは、俺の予想を上回る能力であった。あまりにも強力過ぎる。同時に10程の思考を行っても、全く問題がない。これならカンナカムイの同時起動が出来るんじゃないか? ただ、逆にフランにとっては大分使いづらくなったらしい。軽く使っただけで、頭を押さえて蹲ってしまった。脳が酷使され過ぎてしまうんだろう。


「むぅ……」

『フラン、無理するな』

「ん……」

『壁は俺が作るから、フランは周囲を警戒していてくれ』

「わかった」

『よし! ――グレイト・ウォール!』


 俺がグレイト・ウォールを同時起動した直後、一瞬で壁と堀が出来上がっていた。まさに長城と呼んでも差し支えない様な、巨大な壁だ。


 これはマジでやばいな。ただ、魔術の効率はかなり落ちる様だ。1つ1つの消費量が上がり、効果は少し落ちている。計算よりも相当多くの魔力を消費してしまった。しかも、起動した後のため、途中で止めることもできない。考えて使わないと、一気に魔力枯渇に陥るだろう。


 グレイト・ウォールのもう1つの欠点としては、直線の壁しか作れなかった。また、複雑な形も無理だ。あくまでも大きな壁を作るための術であるらしい。


 夜の闇の中に突如現れた巨壁は、圧倒的な存在感を醸し出している。俺はその後、移動してはグレイトウォールを同時起動すると言う事を2度繰り返した。


 完成した壁は、あえて中央に隙間を作ってある。壁は東西に500メートルずつ伸び、中央には15メートルほどのラッパ型の隙間をあえて作ってある。いわゆる隘路という奴だ。


 夜で良かったかもしれない。闇のおかげで、壁が東西にどれほど伸びているのか分からないのだ。魔獣たちも先が分からない迂回路よりも、中央の隘路を抜けようとするはずだ。少なくとも、全く攻めずに、いきなり迂回するような真似はするまい。


 魔獣には夜目が利く奴もいるだろうからどれほど有効かは分からないが、夜目スキルを持つフランでも終わりが見えないと言う程だ。期待はできるだろう。後は、この狭い道に殺到する魔獣たちを、俺たちで防ぎ続ける。長坂の張飛の様に。


 もし、この隘路を警戒して迂回された場合は? ここを塞いで、追えばいい。軍勢を割って、隘路組と迂回組に分ける可能性もあるが、その場合はここである程度戦い、その後この隘路をグレイトウォールで塞いで迂回組を追う。


 もっとも厄介なのが、隘路、東西の3方向に軍を分けようとした場合だが、その場合は隘路を塞いでから、東西どちらかを全力で殲滅するしかないだろう。


 まあそれも魔獣たちがどう動くかだ。


『よし、このまま魔獣を迎え撃つぞ』

「ん!」


199話に登場した自己進化ポイント66の使い道が分かりにくかったようです。

一応、時系列的に並べると、コルベルト戦で物理障壁に18ポイント、物理耐性に18ポイント。

その後、ゴドダルファ戦の前に、雷鳴魔術に18ポイント、魔力吸収に12ポイントです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 三國志も出て来るんですね!
[一言] 戦中に城壁を築くとか、これはもう神剣に片足突っ込んでますね…
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