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301 幻の恐ろしさ


「バルオォ!」

「うざい」


 アダマス・ビートルの謎の攻撃に備えたいが、悪魔が嫌らしいタイミングで攻撃してくる。


「ギイイイィィ!」

「くぅっ」


 そして、再びアダマス・ビートルのぶちかましをもらってしまった。今度は警戒していたので、念動と障壁で直撃を避けることに成功するが、それでも凄まじい衝撃で吹き飛ばされる。再び折れた左腕にヒールをかけつつ、俺は直前の攻撃を思い返していた。


 やはり、直前まで気配は感じ取れなかった。これは、気配を探ることに全神経を傾けなくては回避できないだろう。


『フラン、一度ヘイストを切るぞ』

(わかった)

『そのかわり、フランを頼ることになっちまう。すまないな』

「ん。へいき。閃華迅雷!」


 俺たちは敏捷で大幅に上回る魔獣を相手にするために、時空魔術で加速しているんだが、これにはデメリットもあった。周囲との時間差のせいで音が上手く聞こえなくなり、他の感覚も多少のずれが生じてしまうのだ。当然、気配察知系のスキルの精度も下がる。


 今のような察知スキルの精度が必要になる場合には邪魔であった。できれば短期決戦用のスキルである閃華迅雷は温存しておきたかったんだがな。ヘイストのない状態で、この2匹を相手にするのは難しかった。


「シャイイィイ!」


 悪魔が再び攻撃を仕掛けてくる。その斬撃を俺で受けようとするフラン。だが、まるで俺の刀身をすり抜けたかのように、悪魔の毒剣がフランの体を抉った。


 さすがに強力な魔獣だ。障壁を突破された。どうやら毒剣に一瞬だけ魔力を巡らせ、貫通力を高めたらしい。


 傷自体は大したことないが、猛毒に侵されてしまった。激痛にフランの動きが鈍る。そこに三度攻撃を仕掛けて来たアダマス・ビートル。だが、すでに2回も同じ攻撃にやられているフランは、ただではやられない。


 背後から心臓を狙って繰り出された角だったが、フランは体を捻ってポイントをずらしていた。右肩を抉り取られた上に右腕が吹き飛んだが、フランは歯を食いしばって残った左腕をアダマス・ビートルの右目に叩き込む。


「がぁ!」


 バギンという硬い物が割れる音と共に、フランの左腕が肘まで蟲の目に突き入れられた。そのまま雷鳴魔術をアダマス・ビートルの脳天に叩き込む。


「ライトニング・ブラスト!」

「ギギチイイィィ!」

『ちっ! 高位の魔獣は本当に厄介だな!』


 悲鳴を上げて体をよじるアダマス・ビートル。だが、硬い頭殻の内側を雷で焼かれたにもかかわらず、アダマス・ビートルは死んでいなかった。生命力は大幅に減ったが、まだ動いていやがる。


「ギギギガィイイイイイィッ!」

「うぁっ……!」

『フラン!』


 今度はフランの左腕が千切れ飛んだ。アダマス・ビートルが暴れた時に、固い殻に挟みこまれて切断されてしまったのだ。


『グレーター・ヒール! アンチドート! グレーター・ヒール!』

「……はぁはぁ」


 両腕を失ったフランを念動で支えながら、回復魔術を唱え続ける。フランも即座に瞬間再生を使用し腕が生えてくる。だが、魔力も体力も消耗が凄まじい。


 フランを回復しながら、俺は今の攻防に違和感を覚えていた。アダマス・ビートルもそうだが、悪魔の毒剣がおかしい。


 相手は魔術師タイプの悪魔で、剣術はLv6。多少の隙はあったとしても、フランが防げないわけがなかった。そして、悪魔を再度鑑定して気づく。


『そうか! 幻像魔術だ!』


 悪魔は幻像魔術:Lv4のスキルを持っていた。多分、俺たちの想像以上に強力な幻術なんだろう。それこそ、視覚以外の感覚まで騙されてしまうほどに。もう、そうとしか思えなかった。


 敵として出くわすのは初めてだったので、そこまで強力な術だとは思いもしなかったのだ。まずはこの予想を確証に変えないとな。


 再び襲って来る悪魔をスキル全開で観察してみる、すると、俺の違和感の正体がハッキリと分かった。やつの体は本物でも、腕から先が幻像魔術で作り出された物だ。


 これが凄いところは、本来の腕が完全に隠蔽されている上、気配まで偽装できている点だ。風切り音なども、偽の腕から聞こえてくる。フランはまたも騙されかけているが、俺の念動が悪魔の毒剣を弾いた。


(師匠?)

『防御は俺がやる、このまま攻撃しろ!』

「ん!」


 フランが悪魔に猛攻を仕掛けた、当然反撃してくるが、それらは俺が叩き落とす。黒猫族の村でフランやウルシが違和感を感じ取った時に、俺は反応出来なかった。やはり野生の勘的な物ではフランたちに負けるらしい。


 だが、こういった五感を騙す様な、幻覚などを相手にすることに関しては俺の方が得意らしかった。まあ、いわゆる五感という物が俺にはないからな。物を見ているのも目じゃないし、触覚は弱いし、どうやって音を聞いているのか自分ではわからない。味覚、嗅覚に関してはそもそも存在していないし。


「ギイイイィィ!」

『それも見えてるんだよ!』

「ギギィッ?」


 アダマス・ビートルの謎の突進も、悪魔が幻像魔術で気配を隠していたのだ。幻像魔術は単に偽の映像を見せるだけではなく、隠蔽や透明化もお手の物らしい。


 だが、種が割れれば対処のしようもある。実体が無くなる訳ではないのだ。押された風の僅かな動きなどをスキルで察知すればいい。フランに目を潰されて動きを鈍らせた今のアダマス・ビートルの動きなら、何とか察知することができた。


 そして、アダマス・ビートルに対して俺は魔術を放つ。やつは魔術耐性を持っているので、攻撃魔術ではない。


『ターン・シールド!』


 空間を歪め、敵の飛び道具などを逸らす術だ。


 アダマス・ビートルの巨体が相手だが、魔力を限界まで込め、念動と併用すれば突進を僅かにズラす程度の事はできた。


「グアアア!」

「ギイイ?」


 その先には、悪魔の姿だ。別にこれで倒そうとは思っていない。隙を作れればよかった。俺の狙い通り、突然自分に向かってきた仲間を見て、悪魔が慌てた様に距離を取る。


 だが、その隙を見逃すフランではない。


「はぁぁ!」


 雷と化したフランの斬撃に反応する事ができず、悪魔の上半身と下半身が物別れした。返す刀で、幻輝石の魔剣から持ち変えられていた俺によって魔石も砕かれる。単純な斬り合いになれば、フランが圧倒的に強いからな。当然の結果だ。


「これで――っ!」


 残ったアダマス・ビートルが、今まで以上の速さで突進してきた。いわゆる、奥の手って奴なのだろう。しかも悪魔ごと串刺しにする軌道だった。こいつ、蟲のクセに状況判断が的確だな!


 だが、悪魔の援護を失ったその巨体は、最早俺たちから逃れることはできない。再び突進をいなされ、俺の転移念動カタパルトで倒されたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 師匠の毒吸収とかどこ行ったの? 天然の毒と魔術系の毒は別個扱い?
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