1 剣、だと?
初投稿です。よろしくお願いします。
1章
ここはどこだろう?
目覚めて最初に目に飛び込んできたのは、美しすぎる光景だった。薄暗い空の下、見渡す限りの地平線。その淵から、後光のように光が差している。太陽が昇ろうとしているのだ。立ち昇る来光は、まるで虹の様に煌めき、俺はガラにもなく感動してしまった。
反対側に目をやると、こちらでは地平の向こうに月が沈もうとしている。見たこともない程、巨大な銀の円盤。その天辺が、今まさに地平の向こう側に消えようとしている。
圧倒される光景だ。30年間生きていて、これほど美しい光景は見たことがなかった。涙が出ないのが、不思議な程だ。
いや、待てよ。30年間生きていて? 俺、今も生きてるのか? っていうか、俺、死んだよな?
俺が最後に見た光景は、猛スピードで突っ込んでくる、趣味の悪い真っ赤なオープンカーだった。運転席の男は、スマホ片手に、明後日の方を向いて何やら馬鹿笑いをしていた。
はい、ながら運転ですねー。楽しそうに笑っていますねー。でもこっちは全然楽しくないんだよこのクソ野郎!
という、心の叫びをあげたところまでは覚えているんだが……。あれは死んだはずだ。いや、死んだよな?
『うーむ。どういうことだ……?』
『よう。ようやくお目覚めかい?』
『うおっ! 誰だ!』
突如響いた声。周辺に、姿は見えない。いや、なんか、頭の中に響いてないか?
『これから大変だろうが、がんばれよ』
『え? え?』
『じゃあ、またな――』
そうして、男の声は聞こえなくなった。
『あれ? もしもーし?』
呼びかけてみるが、返事はない。一体なんだったんだ? 幻聴? にしてはハッキリと聞こえたが……。
そして、周辺を見渡すために、身じろぎしようとして気が付く。
体が動かん。
『む? なんでだ? というか、俺どうした?』
縛られているのかと思ったが、そんな単純なことじゃなさそうだ。
体の感覚がおかしい。まず、手と足の感覚がない。いや、そもそも、足と手と、それ以外の全感覚がおかしい。
『目蓋もないな。目も……。目の感覚がないのに、どうやって物を見てる?』
俺は自分の体を見下ろした。少し不安だったが、視線は動かせる。
『……剣だな』
視線の先にあったのは、台座に突き刺さった、一本の剣だった。
何故か、その剣が自分の体であると、俺は自然と理解できてしまった。理解の範疇を越えている事態。なのに、剣=自分であると、疑う余地もなく、理解できた。
目――っぽい何かは、刀身の根本。鍔と刀身の間ほどにあるようだった。
『死んで……剣に転生とか?』
どこのトンデモラノベだ。夢だと思いたいが、この体ではほっぺをつねることもできやしない。
『一応、皮膚感覚?的な物はあるが』
自分の刀身が、下にある台座に突き刺さっていることは、理解できている。皮膚の触覚とは違うが、触れた感覚があるようだった。
『異世界か』
それは間違いない。
何せ、月がたくさん浮かんでいる。さっき沈んでいった巨大な銀の月とは違い、もっと小さい月だ。赤、青、緑、紫、黄、桜色の6つの月が、天で薄っすらと輝いていた。あまりにも幻想的で、地球では考えられない光景だ。
『普通、異世界転生物のラノベなんかだと、チート能力が身に付いたりするんだけどな』
剣に転生した俺が、そもそもスキル的な物を扱えるのか。まさか、剣に転生っていうこと自体が、チート扱いとかないよな。いや、そもそも、転生したらチート能力を得るとか、そんなご都合展開が俺にもあるとか考えること自体が甘いのかも。
『転生チートの定番は、鑑定眼なんだが……。おぉ、まじで?』
どうやらご都合展開だったらしい。
自分のステータスがばっちり確認できてしまった。
名称:不明
装備登録者:なし
種族:インテリジェンス・ウェポン
攻撃力:132 保有魔力:200/200 耐久値:100/100
スキル
鑑定:Lv6、自己修復、自己進化、自己改変、念動、念話、装備者ステータス小上昇、装備者回復小上昇、スキル共有、魔法使い
なんか、凄そうだ。個別に確認できそうなので、見てみる。
鑑定:Lv6:目にしたものの情報を、表示する。
自己修復:武具自身の破損を自動的に修復する。完全破壊されない限り、復元可能。
自己進化:武具でありながら、多様に進化する。
自己改変:自身を改変し、最適化する。
念動:魔力を使い、肉体を使わず物体に干渉する。
念話:魔力を使い、精神で他者と会話する。言語を越えて意思疎通可能。
装備者ステータス小上昇:装備者の全ステータスを、5上昇させる。
装備者回復小上昇:装備者のHP、MP、スタミナ、魔力の回復速度を2割上昇させる。
スキル共有:現在セットしているスキルを装備登録者と共有し、付与することができる。
魔法使い:魔力の流れを感じ取る。魔法使いの証。
俺って、結構凄いんじゃないか? 少なくとも、ただの武器じゃない。レア武器とか、ユニーク武器に分類されてもいい能力だ。ただ、名称が不明なのは、どうしてだろう? 鑑定のレベル不足か、元からないのか。
まあ、よくわからんし、今はいいや。
次は外見のチェックだ。刀身は、白く輝く不思議な金属に、青い縦線が入った、贔屓目だが美しい外見をしている。形は、いわゆるロングソードってやつだろう。
抑えた色合いの上品な金色の鍔には、勇ましい狼の彫り物と、赤い飾り紐。柄には、赤と白の組み紐で、格子模様が編みこまれている。
自画自賛だが、どう見てもただの量産品ではない。相当に価値のある剣だと思う。ただ、攻撃力132っていうのがどれくらい強いかわからないな。ただの装飾過多な成金ソードという可能性だって、ゼロではないのだ。スキルもあるから可能性は低いとは思うけど。
もしそうだったら、最悪だな。成金ソードだったら、自分から炉に飛び込んで、死のう(?)。
しかし、豪華な剣だよな。RPGだったら、相当後に登場する感じの、神秘的な姿である。
『ただ、剣なんだよな』
心の中で、ため息を吐く。
生前、美形だったわけじゃない。と言って、目立つほど不細工だったわけでもない。まあ、どこにでもいる、モブオタだったわけだ。なので、生前の肉体に未練はない。むしろ、転生して、違う体になったとしても、特に文句はなかった。むしろ、生まれ変わり希望だったのだ。
とは言え、剣はないだろう。剣は。
もう、食事もできないし、ゲームもできない。童貞だって、捨てられない。
そ、そうだ。俺ってば、賢者確定だ! もう一生、この十字架を背負って生きていかねばならないのだ。
『……』
絶望だ。手足があったら、嘆きの五体投地確定コースだったろう。
というか、スキルの魔法使いって、そういう事なのか? そう言えば。あのスキルだけ他と毛色が違う感じだし……。ふざけんな! 笑えないんだよ!
どれくらい落ち込んでいたか、自分でも分からない。5分だったのか、1時間だったのか。暫く呆然としていると、なんか馬鹿らしくなってきた。
『今の俺は剣なんだから、そんなこと気にする必要ないよな? なにせ剣なんだし』
それに、転生しなければ、あの場で死んでいたことも確かだ。よくよく考えてみれば、運が良かったのかもしれない。死んでいたはずなのに、こうして意識だけでも残せたわけだからな。
そうだ。剣になるなんて、誰でもできる経験じゃない。楽しまなきゃ、損じゃないか?
そう思ったら、何か色々吹っ切れた気がする。決して現実逃避ではないのだよ?
降ってわいた第二の人生。いや、剣生。どうせなら、剣として頂点を目指してみるのもいいかもしれない。
剣としての頂点とは何か? まあ、まずは誰かに使ってもらわないと、話にならないよな。例えば、勇者とか? でもな、勇者の剣とか、苦労も多そうだ。魔王なんかと戦ったり。場合によっては折れちゃったりして。伝説の鍛冶師に直してもらう訳だ。それに、勇者って言ったら、正義馬鹿の暑苦しい細マッチョ。多分イケメン。俺とは対極の存在だな。正直、仲良くできるとは思えない。
どうせなら、女性に使ってもらいたい。可愛かったらベストだが、不細工じゃなければいいや。脳筋勇者よりは数段ましだ。
あとは、剣の腕だな。凄腕の剣士で、俺を使ってバッタバッタと敵をなぎ倒し、英雄になってもらう。そして、その愛剣として、数百年後の教科書に載ったりするんだ。
……まあ、夢なんだし、語るだけならタダなんだ。でかくてもいいよな? とりあえずは、この平原からどうやって脱出するかだけど。
男性の声は、どうやっても聞こえないし、今は置いておこう。
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