297 ハリボテ
魔獣の軍勢に挑む前に、俺たちは作戦を練っていた。どうやって奴らを足止めするか。戦闘に突入する前に何かできることはないのか?
「どうする? 壁を作る? それとも穴?」
『うーん』
一番良いのは土魔術で魔獣でも飛び越えられない堀と壁でも作れればいいんだが……。それが出来ると言う大地魔術の使い手は、バシャールとの戦争に参加しているらしい。
俺たちの土魔術じゃ、そこまで大きな堀を作ることはできないからな。深さも、幅もだ。全力で術を使って、精々が深さと幅が3メートル、左右に5メートル程度だろうか。下手な物を作ると迂回しようとした魔物たちが左右にばらける恐れがあった。
連続で発動し続ければ長い堀も作れるが、かなり時間がかかるし、相当消耗するだろう。激戦の前には命取りになりかねない。そもそも、何時間も土木作業をする時間もない。
地球だとどうするんだ?
軍事知識などほとんどない俺が唯一思い出した言葉が、ゲリラ戦術という単語だった。たしか、大軍に少数で罠などをしかけて、警戒させることで敵の動きを鈍らせると言う戦術だったはずだ。
兵士はいつ襲ってくるか分からない相手に恐怖を覚え、士気も下がるという。まあ、ラノベと映画の知識だが。
ただ、俺たちは罠作成スキルのレベルが低いし、大量の罠は作れそうもない。土魔術も使えば落とし穴は作れるか? 穴を掘って、再度土魔術で表面に蓋をするだけだからな。
いや、それは危険か? 魔獣の軍勢を撃退した後、戻って来た黒猫族たちが残った落とし穴の被害を受けるかもしれない。ベトナムの地雷は有名だし、俺たちが考え無しに同じことをする訳にはいかない。
『やっぱり俺たちが派手に暴れて、奴らを引きつけるしかない』
「わかった」
とは言え、何もしないのも考え物だ。そこで俺たちは、ある物を作ることにした。
「ストーン・ウォール。ストーン・ウォール」
『ストーン・ウォール! ストーン・ウォール! ストーン・ウォール!』
「師匠、これでいい?」
『お、良い感じだぞ。窓にちゃんと見える』
「ん」
『よし、俺も。アース・コントロール!』
ストーンウォールで作り上げた石壁を綺麗に積み上げ、アース・コントロールで適当に繋ぎ目を結合させる。
厚さを犠牲にすれば、ある程度大きな壁も作ることができる。薄いので強度はかなり弱いが。俺たちが村の北部にある森林地帯に大急ぎで作りあげたのは、そこそこの大きさの建造物だった。凱旋門っぽく見えなくもない大きな門と、一見すると砦に見えなくもない石造りの建物だ。まあ、外から見るとそう見えると言うだけで、中は張りぼてだが。
これを土魔術を使って速攻で作り上げた。本当に外見だけなので、防衛の役には全く立たない。そもそも、中は空洞だしね。
だがそれでいいのだ。別にこれに立てこもって戦おうと思っているわけではないし。だが、平原で魔獣たちを殲滅できず、森林地帯に入り込まれてしまった時に役に立つはずだった。
もし、魔獣たちがこれを発見したら? 無視できないだろう。背後からの挟撃を防ぐためにも、落とそうとするのではなかろうか? 森林に入った魔獣の軍勢の動きをこちらで予想できると言うのが重要だからな。どこまで効果があるかは分からないが、ある程度意識させることは出来ると思う。
『こんなものかな』
あとはここに兵士を配置すれば完璧だ。そんな物がどこに居るかって? 今から作り上げるのだ。
『じゃあ――ウルシ。頼む』
「オン!」
俺は以前から次元収納に仕舞ってあった、賊やゴブリンなどの死体から比較的状態が良い物を10個取り出す。ウルシがそこに死霊魔術をかけて、ゾンビに仕立て上げた。
ゴブリンよりも弱いが、こいつらにボロい弓を持たせ、魔獣の軍勢が側に来たら矢を射かけるのだ。弓は5つしかないので、残った奴らには折れた槍や剣を持たせる。偽砦の上で動けば、兵士がいるっぽく見えるだろう。
あくまでも砦に見せかけるための偽装なので、これで十分だった。
『砦はこれでいいだろ』
「じゃあ、行く?」
『おう。いよいよだな』
俺たちは魔術での強化など、思いつく限りの準備を行い、再び飛び立った。魔獣に気づかれない様に、かなり高度を取って近づく。
『うじゃうじゃといやがるな』
「ゴミのよう」
『よし、先制攻撃は派手に行くぞ。それで出鼻をくじく』
「ん!」




