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296 決意と準備


 グリンゴートからウルシの背に乗って再び夜の空へと飛び立った俺たちは、今後の事を相談していた。


 軍も、冒険者も、すぐには動けない。だが、このまま座して見ていれば、黒猫族たちは魔獣の軍勢に追いつかれ、飲み込まれることだろう。


 どう考えても、黒猫族の移動速度より、魔獣の足の方が速い。


 例えば、若い者だけを馬車などに乗せて輸送すれば逃げ切ることもできるかもしれない。残った者たちの死と引き換えに。だが、フランがそんな選択をする訳が無かった。あの村はフランの夢の1つなのだ。


 確かに村は、村の建物は破壊されてしまうかもしれない。だが、村人さえいれば幾らでも再建できる。


『……それでも、今回はな……』

「どうしたの? 師匠」

『フラン。黒猫族を逃がすには、俺たちだけで戦うしかない。援軍は、どこからも来ない』

「ん」

『それは、危険だってことは分かるな?』

「わかってる」


 フランが真剣な顔で頷いた。


『俺は、できれば今回だけはフランを逃がしたい。今すぐに獣人国から脱出して欲しい』

「ごめん。師匠。それはできない」


 俺の言葉に間髪容れず、即答するフラン。その眼差しは、この世のどんな物よりも真っすぐな気がした。


『はぁ。どうしてもか?』

「ん!」

 

 分かっている。フランが絶対に黒猫族を見捨てる訳がないと。それでも口に出さずにはいられなかった。


 恐ろしかったのだ。黒猫族のためだったら、フランが命を懸けて戦うだろうという事実が。怖いのだ。フランを失うかもしれないという事が。


『済まないな。馬鹿なことを言った。忘れてくれ。ダメだな俺は』


 何をフランの決意を鈍らせる様なことを……。


「ううん。師匠はダメじゃない。凄い剣!」

『フラン……』


 そうだ。俺は、フランの剣。フランのための剣だ。フランが戦うと決めた。ならば俺がすべきことは、その決意を叶えるために、全力を尽くすことだけである。


『済まなかった。もう大丈夫だ』

「師匠が私の事を考えてくれているのは分かってる。ありがとう。でも、私は仲間を助ける! 師匠も力を貸して」

『おう。任せとけ!』

「ん!」

『とは言え……全ての魔獣を殲滅するのは難しいだろう』

「わかってる」


 相手が全てゴブリンだったりすれば分からんが、そんな甘くはないだろう。さっき見た魔獣の軍勢の中には、明らかにゴブリンを超える体躯を持つ影がいくつもあった。


 むしろ、最悪を想定しておくべきだ。それこそ、脅威度A、Bの魔獣が複数交じっている可能性もある。


『まずは先頭を混乱させる。どれだけ数が多くても、先頭が足を止めれば、一旦停止せざるを得ないからな』


 まあ、全く立ち止まらず、前の魔獣を踏み越えて進んでくると言う可能性もあるが……。そこは上手く足止めをするしかないな。魔術で壁を作るなり何なり、方法はあるだろう。


 それに、肝心なのはその後だ。魔獣たちの進軍を邪魔すれば、当然こちらの排除に乗り出してくるだろう。


 その時に、どれだけ持ちこたえられるかが重要である。理想は魔獣の軍勢を操っている者を混乱させ、軍勢を一旦引かせることだが……。さすがそこまで上手くは行かないだろうな。


 また、押しとどめきれなくなった場合、黒猫族の避難民に向かう魔獣の殲滅に切り替えなくてはならない。その時に、黒猫族たちを守りながら、どれだけ戦えるだろうか。


 俺たちは攻撃する事には慣れていても、守りの経験はあまりない。どれだけやれるか、自分たちでも未知数であった。


「それでもやる。絶対にやらないといけない」

『ああ、そうだな!』


 フランが望むなら、俺はその望みをかなえてみせる。


「みんないた」

『よし、無事に避難を始めているな』


 俺たちの眼下を、黒猫族の避難民たちが固まりながら移動しているのが見えた。俺たちは彼らの前に降り立つ。


「おお、姫様! お戻りになられたのですね!」

「ん。皆いる?」

「勿論ですじゃ」


 先頭を歩いていた村長たちが、ホッとした表情でフランを出迎えてくれる。フランが居なくて不安だったのだろう。あとは、フランの身を案じてもいてくれたらしい。


 しかし、俺の想像以上に避難するのが速いな。最悪、まだ村にいるかと思ってたのに。


 話を聞くと、黒猫族たちは夜明け前には避難準備を済ませ、村を出発したらしい。誰もが大きな家財道具など持たず、背負えるだけの財産と、数日分の食料だけを背負っている。子供たちは大人の壁の内側に入れ、魔獣たちから守っているようだ。本当に逃げることに慣れているようだな。


 とは言え、老人や子供も混じったその歩みは非常に遅い。グリンゴートまで何日かかるか分からなかった。


「私は一緒には行けない。大丈夫?」

「平気ですじゃ。姫様から頂いた武具も既に配り終えておりますからな」

「これがあれば、この辺の魔獣程度なら何とかなります!」

「安心してください」


 男衆は確かに武具で武装している。未だに個人個人の能力は低いが、やる気はあるのだし、下位モンスターを追い払う程度は問題なさそうだった。


「私は行く」

「……お気を付けて」


 村長も村人たちも、どこへ行くのかとは聞かない。分かっているのだ。フランが魔獣と戦ってくれなければ、自分たちが逃げ切ることができないと。そして、フランが決死の覚悟を固めていることも理解している。


 だから彼らは静かにフランを見送った。自分たちがフランを止めたりするのは、その覚悟に水を差すことだと分かっているからだ。


 

 黒猫族たちと別れた俺たちは、さらに北上した。


 眼下には火の消えた様に静かな、無人のシュワルツカッツェが見える。まるでゴーストタウンの様だな。つい数時間前まで、この村で皆と一緒に飲んで歌っていたとは思えない。人々の笑い声に包まれていたはずの村には、今はただ風の吹き荒ぶ寂しげな音だけが響いていた。


「……私たちが皆を守る」

『ああ、そうだな』

「オン!」

『少し準備をするぞ。いくらなんでもこのまま突っ込むのは無謀すぎる』

「わかった」


 とは言え、先制攻撃は魔獣たちが平原にいるうちに行いたい。森林地帯にまで入り込まれると、どうしても見逃す奴らも出てくるからな。隠れる場所のない平原であれば、魔獣どもの動きを把握しやすい。


 問題は俺たちが隠れる場所もない事だ。だが、考えようによっては隠密性の高い魔獣からの不意打ちに対処しやすい場所でもある。何せ、どこにも身を隠せないのだから。


『魔獣どもの気配が大分南下してきているな』

「急ぐ」

「オン!」


転生したら剣でしたのコミックスが、4月24日に発売予定です。

自画自賛になってしまいますが、メチャクチャ面白いですよ!

ぜひコミカライズ版もよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
黒猫族の守護姫
[一言] 黒猫族を馬車で輸送するぐらいならディメンションゲート使えばいいのでは…
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