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280 グリンゴート

「グエン、またね」

「ああ、あの時は本当に申し訳なかった」

「ん。もういい」

「すまん」

「ほう? 何かあったのか?」

「いや、えっと――」

「グエンに絡まれた」

「ほう?」


 焦るグエンダルファをスルーし、フランが2人の出会いをキアラに語る。聞き終わると、キアラが深いため息をついた。


「まったく、まだ伯父離れができていないのか」

「伯父離れとはどういうことですか! おれはあんな裏切り者のことなど別に――」

「それがそもそもガキだと言うんだ。20歳も過ぎてまだ反抗期とは、情けない。そもそも犀族のなかでゴドを裏切り者と言っているのはお前だけだろうが。他の奴らは獣王に仕えるのは栄誉なことだと喜んでいると聞いたぞ?」

「それは……」

「結局、大好きなゴド伯父さんがお前に相談もなく犀族の長の座を退いてしまって、拗ねているだけだろう」

「ぐっ」


 グエンダルファを黙らせたキアラが、フランをガバッと抱きしめて、別れを惜しむ。


「フラン。また来いよ? 絶対にだ」

「ん。キアラも無理しないで」

「はははは。今無理をせずにどうする! 進化せねばならないんだぞ!」

「ん。そうだった。じゃあ、死なない様に無理して」


 別にキアラは進化する絶対的な必要性はないと思うんだがな。彼女らにとって、何を置いても目指すのが当然であるらしい。まじで無理しないで欲しい。キアラが死んだらフランが本当に悲しむからな。


「老いてこれだけ充実した気持ちを味わえるとは思ってもみなかった。感謝している」

「ん」

「あー、はやく邪人どもを狩って狩って狩りまくりたい! こうなったら――」

「キアラ様、あまり興奮なさらないでください。お体に障ります」

「ええい! 離せミア! なぜいる! グエンがおるから付き添いはせずとも良いと言っただろう!」

「このままですと、やっぱりついて行くとか言い出しそうですから」

「む……!」


 あ、やっぱりついて来るつもりだったのね。だが、王宮の召使いの目は欺けなかったらしい。


 その後、キアラはフランのことを大分引き留めていたが、フランはその誘いを静かに断っていた。ここならキアラに修行も付けてもらえるし、フランの幸せを考えるならこのままここに留まるのも悪くないとは思うが……。


 フランはガルスとの約束を守ると言って聞かなかった。

 

 城から出る前に宰相からは神級鍛冶師への紹介状ももらったし、シュワルツカッツェへの行き方も教えてもらっている。


「じゃあ、行く」

「オン!」

「また来いよ!」


 見送りの声を背に、俺たちは王都ベスティアを旅立った。まずは北にあるシュワルツカッツェへ向かい、そこからさらに北にある神級鍛冶師の庵へと行く予定だ。


『黒猫村への地図は貰ったけど、結構複雑なんだよな』


 まあ、北の国境にある大山脈の麓にあるって言うし、最悪は道を無視して北に直進してれば近くまでは行けると思うけどね。


 かなりの距離があるようだが、ウルシの足であれば1、2日で着くと思う。まずは、中継地となるグリンゴートを目指そう。複数の街道が交差する、獣人国でも有数の商業都市であるらしい。


「ウルシ、ゴー」

「オオン!」




 王都を出発した日の夜。


「では、お、お通り下さい! 黒雷姫殿!」

「ん」


 俺たちは問題なくグリンゴートにたどり着いていた。入り口で騒ぎが起きることもなく、すんなり町にも入れる。


 道中に狩った雑魚魔獣の素材を冒険者ギルドで売る時にも、ギルドで聞いた宿にチェックインする時にも、なんの問題も起きない。


 ここまで何もないのは珍しいんじゃないか? いわゆる大都市では初めてかもしれない。逆に不安になるんだけど。


 いやいや、待てよ。これは嵐の前の静けさかもしれん。きっとグリンゴートを揺るがすような大事件が――起きませんでした。


「師匠、どうしたの?」

『いや、何でもない』

「そう?」


 何かが起きるに違いないと身構えてソワソワしているのをフランが感じ取った様だ。町を出るために門へと向かっている途中、不思議そうに尋ねられたよ。


 結局、グリンゴートを出発するまで、何も起きずに済んでしまった。いや、済んでくれたと言っておこう。



 だが、それは町を出てすぐにやって来た。


「何かいる」

『冒険者か?』


 門から20メートル程度の場所。道の左右に2人の冒険者が、何をするでもなく立っている。どうも、街道を監視しているらしい。


 かなりこっちを見ているので速度を落として警戒していたんだが、特に何も起こらなかった。まあ、フランは目立つし、獣人に注目されるのは当然なんだが……。この冒険者たちは人族だったのだ。


 軽い違和感を覚えていると、再び冒険者が現れる。今度は流石に無視できないな。何せ通せんぼをするように、道に立ちふさがっているのだ。


「なんとか、周り込めたか」

「なんだその狼は!」

「速すぎるんだよ!」


 馬上の冒険者たちは何やら怒声を上げながらフランとウルシに近づいて来る。


「おい、黒雷姫のフランだな?」

「ん」


 どうやら無差別な物取りではなく、フランを狙っていたらしい。


 となると、あの監視役も共犯かな? グリンゴートからはいくつもの街道が伸びている。フランがどこを通るか分からないため、複数の街道を監視していたんだろう。そして、この道を通過したと言う連絡を受けて、慌てて移動して来たようだった。


「早速で悪いが、死んでもらう」

「恨むなら、ケダモノに生まれたことを恨みな!」


 いきなりか。殺気を隠そうともしていなかったから、そう来るとは思っていたが、随分とせっかちだな。


 しかし、随分と強気だ。鑑定をしてみても、どいつもこいつも雑魚ばかりで、とてもフランを殺せる強さではない。


 鑑定偽装などで誤魔化されている可能性もあるので、転移と念動の準備は怠らないが、動きを見る限り鑑定の結果に間違いはなさそうだ。


 相手の強さを感じ取る程度の腕もないだろうし、フランを侮るのは理解できる。だが、今のフランはウルシに乗っているんだぞ? こんな巨大狼に怯えずに強気な態度でいられるのはなぜだ? ゴブリンにさえ苦戦しそうなのに。


 その強気を支えているのが、懐から取り出したボールの様な物であるらしかった。それを構えて、ニヤニヤと笑っている。


『フラン、ウルシ、弱い毒の霧を生み出す魔道具だ。大した魔力は感じないが、フランは念のために俺が転移させる。ウルシはリーダーっぽい奴を残して適当にぶちのめせ』

(オン!)


 そして、男たちが魔道具を投げた直後、フランの姿が搔き消える。場所は上空だ。他に仲間が居れば探そうと思ったんだが、どうやらフランの行く手を塞いだ5人と、街道を監視していた2人だけだったらしい。


 眼下では、毒無効を持つウルシが毒霧を物ともせず、冒険者たちを一瞬で蹴散らすのが見えた。


 ウルシの下に戻ると、尻尾を振って駆け寄ってくる。


「よしよしよしよし」

「オウン!」

「ん」


 フランがムツゴロウさんばりにウルシを褒めている間に、男たちの状態を確認する。5人中3人はすでに事切れていた。ウルシも手加減したはずなんだが、相手が弱すぎた様だ。


 残り2人も瀕死である。あと3分も放っておけば死んでしまうだろう。


 俺たちは冒険者にヒールをかけて、背後関係を聞き出そうとした。だが、こいつらは碌な情報を持っていない。


 元々は獣人にコンプレックスを持つただのチンピラで、素性もよく分からない男に金で雇われただけだった。その時に与えられた魔道具も、敵だけを殺す魔毒を発生させる超強力な道具だと嘘を教えられていた様だ。


 何だろうな、この使い捨て感。これだけの雑魚にフランを襲わせる理由が分からん。命を狙っているのではなく、単なる嫌がらせなのかもしれないな。ちょっとでもフランの事を知っているなら、こいつら程度でフランが殺せるとは絶対に考えないはずだ。むしろ、失敗することが前提だったと言われる方が余程納得できる。


 とりあえず生きている2人は町に戻って、衛兵に突き出そう。


『にしても……』

「どうしたの師匠?」

『い、いや、なんでもない』


 フランが何者かに狙われているかもしれないと言うのに、一騒動起きてちょっと安心したと言うのは内緒だ。


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― 新着の感想 ―
『師匠、あなた  疲れているのよ ・・・ ・・・』(爆笑)
[一言]師匠さん?土壇場ハラハラに慣れすぎですよ?警戒は大事ですけどね?
[一言] 主人公、もしくは読者の願望が作り出した幻覚じゃないのか? 実体のある幻覚 何も起きないと盛り上がらないからな
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