275 意外な再会
王都ベスティアの冒険者ギルドに併設された安宿。
朝食を食べ終わったフランは、ギルドの受付にやって来ていた。
「おはようございますフラン様」
「おはよ」
「王城に行かれるのですか?」
「ん」
「そうですか。では案内役の冒険者を呼んでまいりますので、少々お待ちください」
ギルドカウンターの前にある椅子に腰かけて待つ。
他の受付を見たら、どの受付さんも蓮っ葉な感じだ。
「今日、晩飯でもどう?」
「他の子にも同じこと言ってるでしょ?」
「おいおい、こんなに安いのかよ!」
「傷が多いんだから仕方ないじゃない」
冒険者と軽いやり取りをしながら、軽快に仕事をこなしている。丁寧な受付だと思っていたら、どうもフランが相手だから丁重な態度であるらしい。
他の冒険者がチラチラとフランを見ているのだが、近づこうとすると受付の女性たちに止められていた。ヒソヒソ話しているのをこっそり聞いてみると、ギルドからフランに話しかけないようにと通達が出ているようだ。
お茶を出しに来てくれたギルド職員さんに聞いてみたら、理由を教えてくれた。
「あー、ギルドマスターからの指示ですね。進化した黒猫族ともなれば、話を聞きたがる者が多いだろうけど、フラン様のお手を煩わせるなと」
また、実力差を理解できない下位の冒険者がフランに絡んで、怪我するのを防ぐためでもあるらしい。どちらにせよ俺たちには良い事なので、ギルマスには感謝だな。
特に、馬鹿にちょっかい出されないのは楽でいい。フランは暇つぶしが出来なくて不満かもしれないけどね。
しばらくお茶を飲みながらまったりしていると、受付さんが戻って来た。その後ろにいるのが案内役だと思うんだが……。
「グエンダルファ?」
人の名前を覚えるのが苦手なフランも、さすがに1日じゃ忘れなかったか。
「昨日の話は聞いております。もし、彼を拒否なさるのであれば、他の案内役を用意いたしますが、いかがなさいますか?」
そう言われてもな。昨日の事件を知っていて、なぜこいつを連れて来たんだ? 疑問に思っていたら、グエンダルファがいきなりフランの前で土下座をした。
その巨体のせいで、額を床に擦りつけた状態でもフランよりもデカい。
「昨日は済まなかった! 黒雷姫殿には不快な思いをさせてしまった」
昨日の態度が嘘であったかのように、殊勝な態度である。
「こんなことで詫びになるとは思っていないが、王都にいる間、お役に立たせていただけないだろうか?」
何があったんだ? 復讐するためにフランに近づこうとしているとか?
でも、フランを見上げるその瞳には、恨みや敵意は全く感じられない。真摯に、フランの役に立とうと思っている感じがした。
「悪い物でも食べた?」
「あんたにブッ飛ばされ、ブラスの兄貴に説教され自分のダメさ加減を思い知った」
「ブラス?」
「門の衛兵をしてる俺の兄貴分だ」
「牛族の?」
「そうだ。これからは心を入れ替えてやっていくつもりだ。だが、まずは俺の目を覚まさせてくれた黒雷姫殿の役に立ちたい」
驚きの変わり様だった。うーむ、どうするか。
『フランはどうだ? 嫌じゃないか?』
(ん? 別に?)
一晩経って、昨日のムカつきは綺麗に消えたらしい。グエンダルファに対して負の感情はないようだ。
フランが悩んでいると思ったのだろう、受付さんがこっそりと教えてくれた。
「犀族は武人の一族です。自分を負かした相手に敬意を払うのは、彼らにとっては当たり前のことですので。それに、フラン様は進化しておられますし、彼の態度もおかしくないと思いますよ?」
脳筋で、強い相手に従う性質ってことか。それと兄貴分であるブラスに説教もされて、目が覚めたんだろう。
「それに、彼は犀族の族長の息子なので、方々に顔も利きます。案内役として彼ほど適した人物はそうはいないかと」
結局、グエンダルファに案内役を頼むことにした。心を入れ替えたっていうのも本当そうだし、代わりの案内役を用意してもらうのも時間がかかりそうだしね。
「よろしく」
「こちらこそ、よろしく頼む」
「ん」
「王城に行かれるということだが、その前に王都の観光などはしなくていいのか? 俺はベスティア育ちだ。大抵の場所には案内できると思うが」
「いい。早く会いたい人がいる」
「王城に?」
「ん。黒猫族のキアラ」
「キアラ師匠か。なるほど、わかった」
「知り合い?」
「ああ、幼い頃、ご指導いただいたことがある」
小さい頃はゴドダルファに懐いていたって言ってたし、一緒にキアラの指導を受けたことがあってもおかしくはないか。
「分かった。キアラ師匠のところに案内しよう」
「お願い」
「任せておけ」
グエンダルファがドンと自分の胸を叩いて、自信満々にうなずく。まあ、ここまで自信ありげなんだし、任せておいて大丈夫かな?
黒雷姫はコクライキです。




