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259 水竜の最後

 巨体をくねらせながら、凄まじい速度で海中を泳ぐミドガルズオルム。その向かう先がアルギエバ号ではないのだけが救いか。


 ミドガルズオルムは明らかに水竜艦に向かっていた。そのまま水竜たちに襲い掛かるかと思ったんだが――。


「あれ? ミドガルズオルムの姿が消えた」

『海中に潜行したのか……?』


 水竜たちに向かっていたんじゃないのか? 首を傾げていたら、再びミドガルズオルムが姿を現す。


「ギャゴゴゴゴオオオオオオォォォォ!」


 なんと、未だに絡み合っている水竜とクラーケンを真下からかち上げるように、海中から襲い掛かったのだ。本能の成せる業なのだろうか。


 ミドガルズオルムのパワーを証明するかのように、水竜たちの巨体が十数メートル持ち上げられた。海上へ突き出したミドガルズオルムの巨体が水竜艦に圧しかかり、大型船が悲鳴を上げて真っ二つにへし折られる。


 ミドガルズオルムの体が海面に叩きつけられた衝撃で高波が発生し、アルギエバ号が嵐の中に居るかのように大きく揺れた。


「うわわわ!」

「絶対に海に落ちるなよ!」


 再度海面に現れたミドガルズオルムのイソギンチャクに似た口は倍以上に膨張していた。口からはクラーケンの触手と、水竜の首だけが顔をのぞかせている。


「クオオーン……」


 時には大都市さえもあっさり滅ぼす大魔獣とは思えない、か細い鳴き声が水竜から漏れた。ああなってはさしもの水竜もどうしようもないんだろう。


「ギョオオオオォォ!」


 勝ち誇るかのようなミドガルズオルムの咆哮が海上に響き渡る。


「やばいな……おい、早くこの海域から離れろ!」

「あいさー!」

「船長、ミドガルズオルムから逃げ切れますか?」

「分からん。速さでは相手にならんが、奴がこっちではなく、他のクラーケンにでも襲いかかってくれれば時間も稼げるんだが……」


 ミドガルズオルムは咀嚼するのではなく、飲み込んで体内で消化するタイプの構造をしている。そのため、獲物を食べている間、動きが止まったりといったことが無いらしい。その場にいる獲物を次々と飲み込み、腹の中に収めてから。ゆっくりと全てを消化するのだ。


 それでも、この近辺に集まって来ているクラーケンや、海に投げ出された海賊たちに先に向かって行ってくれれば、多少は時間が稼げる。


 しかし、そう都合よくはいかない様だった。


「こっち見た」

『デカい方に向かって来るのか』


 ミドガルズオルムが頭部を巡らし、周囲を見る。そして、その頭をこちらに向けた。


 この辺りで最大の獲物。それはアルギエバ号だ。ミドガルズオルムの本能として、やはりこの船に向かって来るのは仕方ない事であるようだった。


 あっと言う間に距離が近づいて来る。


「黒雷姫殿! また飛んでもらいたい!」


 ジェロームが大急ぎで近づいてきた。その後ろには大きな樽を担いだ船員たちが居る。


「どうするの?」

「この樽は、ミドガルズオルムの好む匂いを発する薬品が入っている。これをアルギエバ号の進路とは逆側に投下してきてほしいのだ」

「ん。わかった」

「これで奴の眼を逸らせればいいんだが」


 ジェローム曰く、本来であればもっと離れた状態で使用するらしい。それが、水竜艦やクラーケンに気を取られている間に接近を許してしまった。ジェロームにもどこまで効果があるか分からない様だ。


『とにかく、この樽を落としてみよう』

「ん。ウルシ、行くよ」

「オン!」


 フランは樽を収納すると、ウルシに乗って全速力でミドガルズオルムの背後に回る。そして、上空から樽を海へと投下した。海面に落下した衝撃によって樽が砕け、中の薬液が海中へとばら撒かれる。


『どうだ?』

「ん……だめ」

『ちっ』


 どうやら薬品の匂いよりも、近くにいるアルギエバ号の気配の方がお好みらしい。


 ミドガルズオルムはその巨体をくねらせながら、アルギエバ号へと一直線に向かっている。上から見ると、マジで大怪獣だよな。


『攻撃で注意を引いてみるか』

「ん! サンダー・ボルト」

「グルルル!」

『フレア・ブラスト!』


 ミドガルズオルムの背に向かって、魔術を放つ。こうやって奴の注意を引き、樽の匂いを意識させるのだ。


 そう思ってたんだが……。


『ガン無視かよ!』


 あの巨体では、多少の攻撃など意味が無いらしい。


『ならこれだ! トール・ハンマー!』


 ドォオオン!


 雷撃がミドガルズオルムの背に直撃し、爆発が起きる。だが、それでもその進撃が止まることはなかった。敵からのちょっかいよりも、食欲優先ってことか?


(師匠、どうする?)

『どうするったってな……。一か八か、奴にかますしかないか?』


 ミドガルズオルムを倒せるとは言い切れんが、もうそれしか方法が無い。無視できない程の大ダメージを与えて、足を止めるのだ。


 俺たちは即座に船に戻った。そして、ミドガルズオルムに対して、攻撃を仕掛けると伝えた。その代わり、フランが力を使い果たすので、しばらく戦闘に出れなくなるとも。


「馬鹿を言うな! ミドガルズオルムに勝てるわけがないだろう!」

「足止めくらいにはなるかもしれない」

「だが……いや、今は黒雷姫殿に頼るしかない……」

「任せて」

「……絶対に生きて帰って来てくれよ?」

「冒険者は自分の命が一番だから」

「がはは、そうだな! じゃあ、頼んだぜ!」

「ん!」


 やることは単純だ。全身全霊を込めた最強の攻撃を叩き込む。後はウルシに乗って逃げ帰ってくればいい。


『ウルシはフランを無事に帰すことだけを考えろ』

「オン」


 最悪、俺だけなら自力でどうにでもなるからな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 以前と同じ撃退方法使えないの? つまり大量の土石はもう残ってないのかな こういう時のために、 常にどっかの山から大量の土石を収納しといた方がいいかもね
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