24 防具入手
「がはははは。嬢ちゃんを放っておいてすまなかったな!」
「いい」
『武器は、俺でいいや。鞘だけ作ってもらいたいんだが、いいか?』
「おう、最高の鞘を作らせてもらうぜ!」
『あまり多くは払えんのだが……。防具も欲しいし』
「そうだな~。予算はどの程度を考えてる?」
『宿代と薬代も残すと、15万ゴルドくらいかな~』
安い防具なら問題なく買えるだろうけど、ガルスは超有名な魔法鍛冶師だ。むしろ、15万じゃ安すぎるとおもうんだよな。
「そうか。いいぜ、お前たちのことは気に入ったからな。その値段で、防具一式と鞘を売ってやる」
『いいのか? 助かる』
「良いってことよ。じゃあ、防具はどうするかね? わしは鍛冶師だが、革製品も作ってる。どっちでも構わないぜ」
『うーん。どうする?』
「軽い方がいい」
「じゃあ、革だな。重要部分に鋼を使って、強度を上げたタイプがお薦めだ」
「じゃあ、それで」
「頭はどうする?」
「ない方がいい。視界も悪くなるから」
「じゃあ、獣人用の耳輪にしとくか。穴を開けなくても良いタイプがある」
「ん」
「じゃあ、ちょっと待ってな」
ガルス爺さんが、倉庫から色々と持ち出してくる。色々あるな。
「ほれ、ちょっと着てみろ」
名称:炎角牛の改造胸当て
防御力:88 耐久値:330/330
効果:火炎耐性小付与
名称:麻痺爪猫の改造篭手
防御力:39 耐久値:160/160
効果:衝撃耐性小付与、麻痺耐性小付与
名称:毒劣飛竜のブーツ
防御力:52 耐久値:200/200
効果:毒耐性小付与
名称:ミスリルの耳輪・猫族用
防御力:10 耐久値:100/100
効果:魔術耐性小付与
合計防御力は189。予想以上に良い装備だ。ギルマスたちの装備に比べたら大分弱いが、街中の冒険者たちに比べたら、少し強いくらいだろう。
しかも、黒を基調に色が統一されており、予想以上にフランに似合っている。さらに、防御力はないが、仕立の良い布服も2着つけてくれた。
『こんなに強いのを、いいのか?』
「いいってことよ。強い冒険者は、強い装備を装備しとけ。なにより、魔剣に比べて俺の装備が劣るなんて言われたら、悔しいじゃねーか。まあ、赤字にはなってねーから、心配するな」
『フラン、良かったな』
「ありがとう」
「だったら、今後も顔を出してくれよ。インテリジェンス・ウェポンを解析する機会なんて、そうそうないからよ」
『変なことするなよ?』
「大丈夫だって。鑑定と目利きをするだけだからよ」
『まあ、それくらいお安い御用だけど』
「あと、素材の持ち込みも歓迎だぜ? 材料持ち込みなら、安く作ってやれるしな」
その言葉に、次元収納の中にしまってある、強い魔獣素材を思い出した。ギルドに売るのは目立つからやめたけど、ガルス爺さんに渡して防具を作ってもらえば、目立たずに済むんじゃないか?
「素材、ある」
『そうだよな。爺さんに渡して、防具を作ってもらえば、目立たず処分できるんだよな』
「ほう。そこまで言うからには、相当なもんなんだろ?」
『雑魚魔獣ではないな。脅威度D、Cだし』
脅威度Cと言うのは、国が動いてもおかしくないレベルである。町のそばに出現すれば、軍隊の出動が有り得る。
冒険者なら、冒険者ランクD以上が3パーティ、15人以上で挑む難易度だ。
『空き部屋はあるか?』
「おう、そっちの部屋が空いてるぜ。持ってくるか?」
「もう持ってる」
「アイテム袋も持ってるのか? でも、どこに……」
フランの姿を見ても、どこにもアイテム袋なんか持ってない。服と剣とサンダルしか身に着けてないんだからな。
『俺の能力だよ』
「ほほう。面白いな。剣にアイテムボックス能力ね……。その発想はなかったぜ」
何やらブツブツと呟く爺さんを置いて、俺は空き部屋に移動した。元々は倉庫なのだろう。土間になっており、天井も高くて、申し分ない広さだ。
『じゃあ、出すぞ』
タイラント・サーベルタイガーの毛皮と牙と爪。ドッペル・スネイクの毒牙と鱗。ブラスト・トータスの甲羅と皮。素材だけで、部屋がいっぱいになってしまった。
グラトニー・スライムロードの素材は、出さないで、口頭で伝えるだけにしておいた。ここで出したら、部屋中が粘液まみれになっちゃうからな。
「こりゃ……! お、お前さんたちが仕留めたのか? C、Dランクの高位素材だぞ?」
『まあね』
「1人で?」
『正確には、俺だけだ。念動でぴゅーと飛べるんでな』
「はははははは! 凄まじいなおい。その能力の多彩さは何だよ」
『基礎能力が低い分、多芸じゃなきゃやってられないんだよ』
「いいぜ、これだけあれば。かなりの防具が作れる。それこそ、ブロンズランクじゃ手が出ないようなレベルの装備がな」
さすが、上位の魔獣の素材だけあるぜ。
「ただ、これだけの革素材、わしだけじゃ扱いきれんな。奴と奴にも協力させよう。あとは、あいつにも――」
『あの、爺さん?』
「おっと、すまなかったな。久々の面白そうな仕事に、興奮しちまってな。まったく、お前さんらはわしを何回驚かせれば気が済むんだ!」
と言いつつ、その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「じゃあ、作ってもらえる?」
「当たり前よ!」
『ただ、爺さんクラスの職人にオーダーメイドとなると、結構いくだろ?』
「そうさな……基本素材を持ち込みでも、普通だったら、200万ゴルドは下らないだろうな」
『まじかよ。絶対無理だ』
「この素材、全部俺に預けてくれるってことで、いいのか?」
『ああ、いいよ』
「だったら、話は簡単だ。お嬢さんの装備を作るのに、この素材は多すぎる。余った分はわしが買い取るぞ。それで、代金は相殺ってことで、どうだ?」
『それは、本気で助かる』
「じゃあ、商談成立だな」
「いつできる?」
「ひと月はかかるぞ」
『思ったよりもかかるな』
「何言ってる。十分早い方だぞ! まあ、これだけの素材だ。半端な仕事はしたくねーしな。足りない素材の仕入れもあるから、それくらいはかかっちまうだろうな」
『仕方ないか。フランもそれでいいよな?』
「ん。楽しみにしてる」
「おう。任せとけ!」
その後、ガルス爺さんが用意した鉄製の樽に、スライムロードの粘体を千切って入れた。これも、色々な用途があるらしい。
「あと、魔石が見当たらないが、ないのか?」
「ない」
「そうか。そりゃ残念だ」
『魔石も防具に使えるのか?』
「おう。作成時に、混ぜ込むのよ。例えば、このドッペル・スネイクの牙だが、防具に使えば毒耐性中は確実に付く。武器にすれば、猛毒効果が見込めるだろう。だが、ドッペル・スネイクの魔石と組み合わせれば、毒耐性大、王毒効果は確実に付く。他の魔石でも多少の効果はあるが、やはり素材の主の魔石が、親和性が高くて一番だな」
魔石にそんな使い道があったとは。残念だが、魔石はもう吸収しちゃったしな。今後、スキルを全部持っている魔石を手に入れたら、少し残しておいてみようかな。収納しておけば、吸収はいつでもできるし。
『今後は、気を付けるよ』
「おう、そうすると良いぜ」
『じゃ、今日はここでお暇するかな』
「ばいばい」
『色々騒がしくしてすまなかったな』
「はっはっは。出来上がりを楽しみにしてろよ! お前さんの鞘は、3日後くらいに取りにきな」
『分かった』
素材の処理もできたし、強い防具の発注もできた。いやー、いい出会いに感謝だな。
『フランも似合ってるぜ。どっからどう見ても、駆け出し冒険者だ』
「ありがと」
『あとは……。肌着とか、必要か?』
「? 別にいらない」
『そ、そうか?』
本人がいらないって言ってるんだから、いいかな?
いや、ダメだ。確かに、肌着とか下着と、俺にはハードルが高すぎる。でも、ここで逃げたら、ずっと逃げつづけるぞ! そして、フランは女の子らしさを失っていってしまうだろう。
ここは、攻めるんだ!
『だめだ。し、下着を買いに行くぞ!』