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23 ガルス爺さん

『まさか、断られるとは思わなかったな』

「ん」

『ギルドカード持ってても、子供だけじゃ泊められない、か』


 宿の女将さんにはそう言って断られたが……。


 明らかに、フランの身なりを気にしていた。ボロボロの布服とサンダルしかはいていない、どう見ても貧民か、逃亡奴隷の少女。まあ、厄介ごとの匂いしかしないよな。


 浄化の魔術でキレイにしているから、清潔なんだけどな。


『先に、装備を買って、身なりを整えよう』

「?」


 分かってないな。まあ、俺が選んでやるから、大船に乗った気持ちでドーンと任せとけ。


 冒険者ギルドのすぐそばにある広場へ向かう。そこに、冒険者用の店が軒を連ねていると聞いたのだ。


 広場には、たくさんの店と、露店があり、多くの冒険者で賑わっていた。武器鍛冶、防具鍛冶、裁縫屋、薬屋、錬金屋、酒場、料理屋、等々、多種多様だ。


 物価の勉強にもなる。


 鉄製のナイフが2000ゴルド、5級ライフポーションが1万ゴルド、4級毒消しポーションが2万ゴルド。


 5級は最低ランクのポーションらしいけど、結構な値段だ。まあ、深い傷なんかでも、一瞬で治るらしいし。日本にそんな薬があったら、もっと高いだろうから、高すぎるとは思わないが。


 並んでいる商品は見たこともない物ばかりで、妙にワクワクしてくる。


『おもしれー』

「うん」

『お! フランもそう思うか?』

「珍しい物たくさん。凄い」

『そうかそうか』


 俺には、フランが目を輝かせているのが分かった。表情にはあまり出ないけど、フランも楽しんでいるようで良かったね。


 さて、目的の店は何処だ? 実は、道を尋ねた時、耳寄りな情報を得ていた。


 何と、有名な鍛冶師が、アレッサに滞在しているというのだ。今は、店舗を借りて、鍛冶屋を開いているらしい。


 その鍛冶師に、フランの防具を作ってもらいたい。金銭面でも、条件面でも、無理かもしれないが、頼んでみるのはただだし。


『さて、どこだろうかね』


 見た感じ、鍛冶屋や防具屋はあるけど、そんな凄そうな店なんかないな。それだけ凄い鍛冶師の店なら、人だかりができていて、すぐに分かるんじゃないかと思ってたんだが。


『もしかして、今日はもう店じまいしちゃったのかね?』


 人気がありすぎれば、そういうこともあるかもしれない。


「そこのお嬢ちゃん。見てかないかね?」

「う?」

「そうそう、お主だ」


 すわ、ナンパか! と身構えたが、声をかけてきたのはドワーフの爺さんだった。でも、亀の仙人の様なエロジジイという可能性もあるので、まだ安心はしないぞ。


 変な真似しようとしたら、落ちたふりして足元に突き刺さって、ビビらせてやる。


「防具を探しておると見受けるが、どうだ?」

「なんで分かる?」

「わしぐらいになりゃ、見れば分かるのさ」

「……」

「そう警戒しなさんな。なーに、簡単なことだ。お前さんの足さばきを見るに、かなりの凄腕だと分かる。なのに、防具はお粗末だ。そして、視線はいくつかある鍛冶屋や防具屋に向いていた。つまり、防具を探しに来たんじゃないのかね?」


 この爺さんただ者じゃないな! いったい誰だ?


名称:ガルス  年齢:82歳

種族:ドワーフ

職業:魔法鍛冶師

状態:平常

ステータス レベル:33

HP:260 MP:273 腕力:152 体力:100 敏捷:56 知力:120 魔力:148 器用:95

スキル

解体:Lv2、火炎耐性:Lv7、鍛冶:LvMax、鍛冶魔術:Lv9、鑑定:Lv7、採掘:Lv3、裁縫:Lv5、槌技:Lv2、槌術:Lv7、毒耐性:Lv2、皮革:Lv4、火魔術:Lv9、不眠不休:Lv6、魔法鍛冶:Lv7、目利き:Lv9、火神の加護、気力操作

エクストラスキル

神眼

称号

放浪の鍛冶師、クランゼル王国名誉鍛冶師、鍛冶王

装備

魔鋼の鍛冶槌、火蜥蜴の革服、鳳凰樹のサンダル、体力回復の腕輪


 この爺さんが、噂の凄い鍛冶師だったのか。だったら、さっきの鋭い観察眼もありなのかね?


 まあ、いいや。向こうから声をかけてきてくれたんだ。ラッキーだと思っておこう。


「すごい」

「わはははは。これでも長生きしとるんでな。どうだ、わしの店を見ていかんか?」

「ぜひ」

「では、こっちだ」


 ガルスに案内されて、広場の隅にある店へと向かう。その間、周辺から凄まじい数の視線が飛んできた。かなり粘着質な、不快指数の高い視線だ。


『え? なんか、全員こっち見てるんだけど』

「敵?」

『いや、そうじゃないが……』


 特に凄いのは、商人風の男たちからの視線だ。フランが敵の気配と勘違いしてしまうほど、鋭い視線をこっちへ向けている。


 一体どうしたんだ?


「ああ、気にするな。がめつい商人どもに、武具を売れと迫られてな。力ずくで追い返してやったんだ。それ以来、わしの店で商品を買った者に、転売するようにしつこく迫っている様なんだ」


 いやいや、それって困るんだけど。


「なーに、帰りは裏口から帰してやるから安心しろ。それよりも、どんな物を探してる?」


 全然安心できないが、今は考えても仕方ない。それよりも、凄腕鍛冶師に声をかけてもらったこの幸運を、絶対に生かさねば。


「私には、売ってくれるの?」

「わしは、わしの武具を使ってくれる冒険者にしか売らん。お前さんは合格だ」


 頑固職人ね。嫌いじゃないぜ。


『先に剣を見せてもらおうぜ』

「まずは剣が欲しい」

「はあ? お前さん、立派な剣を背負ってるじゃねーか。インテリジェンス・ウェポンなんて、初めて見たぜ?」


 馬鹿な! なんでばれてるんだ? 鑑定? いや、俺は鑑定遮断を持っている。ばれるはずがない。


「……インテリジェンス・ウェポン?」


 いい演技だぞフラン。そのまま誤魔化せ!

 

「ああ、いや。別にどーこーしようって訳じゃない。確認しただけだ。わしの目は少々特別性でな。鑑定遮断スキルがあっても、少しは見れるのさ。特に武具に関してはな」


 そんな能力があったのか! そう言えば、鑑定以外に目利きと、神眼スキルを持ってたな。あれの効力か?


「ま、分かるのは攻撃力と魔力伝導率、インテリジェンス・ウェポンていう事だけだがな。どうだい、剣さんよ?」

『だったら、わかるだろう? この娘。フランには、きちんとした剣を使わせてやりたい』

「おお? 念話ってやつか? 本当に知性があるとはな! すげーすげー!」

『ガキみたいだな』

「時おり師匠もあーなる」

『え、うそ?』

「本当」

『あー、まあ。誰だって興味あることを前にしたら、童心に戻るものなんだよ』

「ん」


 はしゃぐガルス爺さんをみる。


『あれと同じか』


 今後は、少し自重しよう。


「おっと、すまねーな。ちっとばかし興奮しちまった。それよりも、お前さんの性能を見るに、わしの剣なんざ必要なさそうだが」

『いやいや。俺の性能を見たんだろ? 爺さんの剣の方が、強いじゃねーか。そこの剣とかさ』


 どうやら、街中で見かけた上質の鋼製の武器は、この爺さんが作ったもので間違いないようだ。店の中には。よく似た武器が、至る所に置いてある。どれも、俺と同じくらい強いし。


 俺はそんな武器たちを見ながら、血を吐く想いで、言い返した。なんで、自分の鈍ら加減を、わざわざ口にしなきゃいかんのだ。

 

「そりゃあ、単純に攻撃力だけみりゃそうだがよ。ああ、そうか。もしかして、魔力伝導率のことがよく分かってねーのか?」

『魔力伝導率? そういや、そんな項目もあったな』

「やっぱり分かってねーのか。勿体ねー」

『それって、重要なことなのか?』

「重要どころじゃねーよ! 剣を評価する際に、特に重要視される部分だ!」


 なんと! 知らなかったぜ。


「驚き」

『もっと詳しくプリーズ』

「おう。魔力伝導率は、いわば魔力を武器に纏わせた際の効率を示す項目だ。これによって、武器の性能は、大きく変わると言っていい」

『ふむふむ』

「例えば、この剣だが」


 ガルスが手に取ったのは、壁にかけてあった短剣だ。鋼鉄製で、魔力伝導率はEとなっている。


「魔力伝導率Eは、伝導効率が5%程度だな。100の魔力を使って、攻撃力を5上げることができる」


 さらにガルスの説明は続く。次にガルスが取り上げたのは、ミスリル製の短剣だ。魔力伝導率はC-。伝導効率は70%だという。つまり、100のMPを込めたら、70も攻撃力がアップするってことだ。それは確かに重要だな。ちょっとの性能差なら、簡単に覆る。


「伝導率が高い程、効率もいいし、魔力を長時間留めておける。つまり、効果時間も長いってことだな」

『ちなみに、ミスリルの伝導率C-は、結構高いのか?』

「あたりめーよ。ミスリルは、伝導効率に特に優れた金属だからな。市販されてる武器で、C-以上の伝導率を持つ武器は、無いと言っても過言じゃねー。あっても、伝導率を上げることを優先したせいで基本攻撃力が低い。お話にならねー品がほとんどだな」

「じゃあ、Aは凄い」

「おう。Aの武器なんか、完全に魔剣だ。伝導効率200%。はっきり言って、わしの武器とは比べ物にならねえ」


 200%ってことは、魔力を100込めたら、200も攻撃力がアップするってことか? メチャクチャ強いじゃないか! 俺の時代が来たんじゃね?


『込められる魔力に、上限はあるのだろうか?』

「素材によるな。お前さんの素材は……よく分からんな。ハルモリウムをベースに、魔鋼系の素材を混ぜてるようだが……」


 ガルスが、フランから手渡された俺の刀身をコンコン叩いて、確かめる。


「オリハルコンに劣ることはないだろうから、1000程度は問題ないと思うぜ。まあ、そんな膨大な魔力、個人で運用できねーだろうがな。なにせ、王都の宮廷魔術師でも、MP800がやっとだ!」


 がはははと笑うガルスを尻目に、内心で冷や汗をかく。俺。1000は行けちゃいます。つまり、攻撃力2000アップ? 実は今までも、少し変だなーとは思っていたのだ。苦戦しそうな相手も、1撃で倒せちゃったり。上手く急所に入ったり、念動での加速のお蔭だと思ってたのだが……。多分、無意識に魔力を纏わせていたんだと思う。


「効果時間はどのくらい?」

「まあ、素材にもよるが、伝導率Eで5分。あとは1ランク上がるごとに、2分ずつ長くなっていく感じだな」

『じゃあ、Aだと……』

「29~30分くらいだな」

「結構長い」

『短期決戦には十分か』

「ん」

『じゃあ、俺は鈍ら剣じゃないのか?』

「お前さんが鈍らだったら、この世の中の剣のほとんどが鈍らになっちまうわな」

『そうか、そうなのか……。うおーっ! よかったー!』


 本当に良かった。目があったら涙が出てるくらい嬉しい。俺ってば、身も心も剣になっちゃったんだな。他の剣よりも強くて、喜ぶようになるとは思ってなかったぜ。まあ、嫌な気分じゃないが。


「魔剣としても最高峰。神剣に足を突っ込んでるかもな」

「魔剣? 神剣?」

「おう。お前さんを作ったのは、神級鍛冶師かい?」

『いや、よく分からん。その辺の記憶がないんだよ』

「そうなのか……」

『何か知ってるのか? 知ってたら教えてほしいんだが』


 自分のルーツが分からないというのは、何となく気持ちが悪い。分かるものなら、知りたいよね。


「鍛冶師には、ランクがある。鍛冶師、上級鍛冶師、魔法鍛冶師、神級鍛冶師ってな具合だ。他にも派生する職業もあるから、全部じゃねーがな。そんな中で、間違いなく頂点に君臨するのが、神級鍛冶だ。過去、5人しか確認されていない、伝説の鍛冶師たちだな」

「伝説の5人。かっこいい」

「わしら鍛冶師からしても、憧れの存在よ。神剣を鍛えられるのは、神級鍛冶師だけだ」

『俺を作ったのは、神級鍛冶師だと?』

「だと思うが、どうかな……。お前さん、神剣というには、弱いんだよな。でも、魔剣にしちゃ強すぎる。ちょうど中間くらいなんだよな」

『なんだそれ。じゃあ、凄腕の魔法鍛冶師が作ったかもしれないんだな?』

「ま、その可能性もあるな」

『神剣ていうのは、どのくらい強いんだ?』


 ここまで言われちゃ、興味がある。自分よりも強い剣っていうのが、どれほどの物なのか。


「神剣は、天を裂き、地を割ると言われるほどの、超絶兵器だ。実際、過去の戦争で使用された神剣により、数時間で1万人の命が失われた記録もある」

『それって、剣なのか?』

「神級鍛冶師が作った武器が、名目上神剣と呼ばれるんだ。中には、剣の形をしてない奴もあるらしい」

「らしい?」

「わしも、実際に見たことがあるのは、炎剣イグニスだけだからな」

『ほほう。そのイグニスさんとやらは、どれくらい強かったんだ?』

「当時のわしは、まだ鑑定スキルが低くてな、全部は分からなかったが」


名称:炎剣・イグニス

攻撃力:1800 

魔力伝導率・SS

スキル

火炎魔術付与、神炎付与、不明


「ってな具合だ」

『ああ、そう。対抗心なんか持ってすいませんでした。俺なんかが神剣様であるわけないな』

「そう言うな。お前さんも、十分良い剣だぜ?」

『こんな駄剣を慰めてくれるのか? いい奴だな爺さん!』

「良いってことよ。お前さんみてーな、面白い武器に会えて、こっちも嬉しいんだからよ!」

『ガルス爺さん!』

「剣よ!」


 そんな俺たちを尻目に、飽きたフランは店内を物色している。


「ん。この胸当てはいいもの」



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