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244 乗船

 船の出航までの3日間。俺たちは食べ歩きしたり、ゴロゴロしたりと、まったり過ごした。久しぶりにゆったりとした時間だったね。


 因みに、孤児院にはもう一度遊びに行った。あえて時間を外して行ったので、お茶と焼き菓子しか出てこなかったけど。でも、それでいいのだ。その時に、お茶のお礼として色々と置いてくることが目的だったからな。口にすることはしないが、先日のカレーのお礼分も一緒に置いてきた。お金は恐縮させてしまいそうだったので、小麦粉や砂糖、香辛料の詰め合わせだ。


 そして約束の朝。俺たちは船へと向かっていた。


『ようやく獣人国に向かえるな』

「ん。楽しみ」

『前回と違って、今回はガッツリとした護衛依頼だ。船旅を優雅に楽しむとは行かないだろうけどな』

「腕が鳴る」


 あれから随分と腕を上げたからな。雑魚魔獣程度であれば問題ないだろう。ミドガルズオルム級の相手が出たらやばいかもしれんけど。


 船の前では船長たちと、役人の様な者たちが何やら打ち合わせの様なことをしているな。フランが近づくと、話を切り上げて向こうから話しかけてきた。


「よお、黒雷姫殿。今日からしばらくよろしく頼む。俺はアルギエバ号の船長、ジェロームだ」

「ん。ランクC冒険者のフラン。よろしく」


 がっしりと握手を交わす2人。妙に波長があうのか、互いに笑顔である。フランは見る人が見なきゃ笑顔だって分からないだろうけどね。


「おう! そこのお前! フラン殿を副船長の所まで案内しろ!」

「うっす」

「詳しい話は副船長から聞いてくれ。俺は出航手続きがあるんでな」


 ジェロームと話していた役人は、港湾局の人間らしい。出航するには色々な手続きが必要なんだろうな。地球だって、船が勝手に出航したりすることはできないし、湾内では航路や優先順がきっちり決められていたはずだ。


 異世界とは言え、港のルールは似ている様だった。特に俺たちが乗るアルギエバ号は大型船だ。勝手に動き出したら凄まじい混乱が起きることだろう。


「こっちっす」

「ん」


 船に乗船するためだけに、100段近くにも及ぶ階段を上る。それだけでも船の巨大さが分かるな。


 広い甲板の上では、多くの船員が作業をしていた。船員がその監督をしている1人の男性に声をかける。


「副船長!」

「はい? おや、最後の方ですか?」

「うっす。こちら、冒険者のフランさんです」

「ランクC冒険者のフラン。護衛依頼を受けてきた」

「副船長のバフェトです」


 副船長は、ヒョロッとしたいかにもひ弱そうな男性だった。その動きを見ても、戦闘力が低いと分かる。鑑定して見ると、やはり非戦闘員である様だ。戦闘系のスキルが弓術、槍術Lv1ずつしかない。その代わり、商売や話術、算術や測量など、副船長に必要そうなスキルが軒並み高レベルだった。


 俺が一番気になったのが種族だ。山羊の獣人らしい。何が気になるって? だって白山羊さんだぞ? 重要な書類とか食べちゃわないのだろうか?


「話は聞いていましたが、噂の黒雷姫殿がこのようなお嬢さんであるとは……。やはり直に見ても信じがたいですね」

「でも、船長が間違いないって言ってましたよ?」

「ん。本物」

「私も疑っているわけではないですよ? ただ、私の様な非戦闘員には、どうしても駆け出し冒険者の様に見えてしまうのでね。気分を害されたのであれば申し訳ない」

「平気。よくあること」

「ははは。良かった。では、他の冒険者と顔合わせをしてもらいましょう。できれば仲良くして頂けるとありがたいですね」

「善処する」

「そうしてください。では、少々お待ちください」


 副船長が部下に指示して、他の冒険者を呼びに行かせる。俺たちが最後の到着だったらしい。


「何人くらいいるの?」

「貴女を含めて12名ですね。この船にも戦闘員はいますが、冒険者を乗せないと色々と煩いので」


 国やギルド間のしがらみのせいで、冒険者を一定数雇うのが慣例の様になっているらしい。また、有事の際には経験豊富な冒険者が役に立つことは確かである。なので、大抵の船は自前の戦闘員に加え、冒険者を雇うのが当たり前となっている様だった。


「ソロ冒険者はフラン殿だけですね」

「強さは?」

「私には腕前の判断はできませんが、ランクで言えばランクCパーティが1つ。ランクDパーティが1つ、ランクEパーティが1つですね。特にランクCパーティのリーダーは個人ではランクBの冒険者だということです」


 へえ。ということは、結構な手練れがいるってことか。にしても、ちょいと面倒か? 有事の際にはそいつらの指示を仰がなきゃいけないかもしれないし、顎でこき使われるのは嫌だぞ? 俺はともかく、フランが大人しく従うとは思えないし。


「来た様ですね」

「……強い」

『そうだな』


 先程の船員に連れられて、船内から冒険者たちがゾロゾロと歩いてくる。その中でも特に目を引いたのが、先頭にいた戦士風の男だ。かなり強い。こいつが唯一いるランクB冒険者で間違いないだろう。


 でも、どっかで見たことがある気がするな。男の青い鎧は絶対に見覚えがあるんだが……。うーん、思い出せん。冒険者ギルドですれ違ったりしたかね?


「モルドレッド殿、こちらです」


 青い鎧の男はモルドレッドと言うらしい。なんか裏切りそうな名前だが、大丈夫だよね?


「最後の護衛者がいらっしゃったので、ご紹介させていただきます」


 副船長に応えたのはモルドレッドではなく、その横にいた小柄な男だった。


「おい。小娘一人紹介するのに、モルドレッド兄貴を呼びつけたのか? こいつが挨拶に来るのが礼儀だろうが」


 ムカつくが、正論とも言える。だって普通に見たら、小娘のフランよりも、ランクB冒険者のモルドレッドの方が格が上だしね。


 モルドレッドのパーティメンバーと思しき男たちも、小男に同意する様に頷いている者が多いな。


「兄貴、こいつら兄貴のことを舐めて――」


 だが、いきり立つ小男を制したのは、当のモルドレッドであった。


「おい、恥をさらしたくなければそこまでにしておけスルニン」

「え?」

「格下が格上に挨拶に行く。当然だな。だからこそ、俺が頭を下げるべきだ」

「な、何言ってるんですか兄貴!」


 突然の兄貴分の言葉に、スルニンと呼ばれた小男が驚きの声を上げる。だが、モルドレッドはそれに構わずに、フランに向かって軽く頭を下げた。


「すまない、部下が失礼をした」

「ん。気にしてない」

「改めて名乗らせてもらおう。俺はランクCパーティ、鉄神の息吹のリーダー、モルドレッドだ」

「ランクC冒険者、フラン」


 フランの自己紹介を聞いて、スルニンたちが再び声を上げようとした。ランクCだからな。彼らよりは上位の冒険者ではあるが、どう考えてもモルドレッドよりも格上とは考えられないからだ。だが、彼らがフランに突っかかる前に、モルドレッドが再びフランに話しかける。


「黒雷姫殿で間違いないか?」

「最近はそう呼ばれることも多い」

「やはりな。武闘大会は全て拝見させてもらった」

「ウルムットにいたの?」

「参加するために、俺だけな。俺は2回戦でフェルムス殿に負けてしまったが」


 あ、こいつとどこで会ったか思い出した。武闘大会だ。会ったというより、こいつの試合を観戦したんだ。俺がそう教えると、フランもモルドレッドを思い出したらしい。


「溶鉄魔術使い?」


 溶鉄魔術をかなり巧みに扱う姿を見て、感心したのを思い出した。そうか、あの参加者か。


「ほう? 覚えて?」

「ん。強かったから」

「俺を完封したフェルムスに勝った君に、そう言ってもらえるとは光栄だ」

「えっと、兄貴?」

「お前らは水晶の檻に籠ってたせいで知らないだろうが、彼女は武闘大会で3位に入賞した強者だ。未だにランクCだが、戦闘力だけはランクAと遜色がない」

「ええ!」

「まじか!」

「うっそ……!」

「本当だ。俺よりも遥かに強い」


 モルドレッドがそう言った直後だった。


「「「すんませんしたー!」」」


 冒険者たちはフランの前にダイブし、一斉に土下座を決める。まあ、潔い奴らは嫌いではないよ? フランも怒っていない様で、むしろ大の男たちが土下座している光景を興味深げに眺めているのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これは見事な兄貴と舎弟 [一言] 海上での溶鉄魔術は有効なのか?
[良い点] あー。いたいた溶鉄魔術使い 主人公が戦い方に感心してて、 できればそのスキル欲しいとか言ってた様な気がする [一言] フランを護衛として雇うのは微妙な気がする コナンや金田一が探偵であると…
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