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242 乗船決定

 俺たちは、港に停泊する一隻の船に向かって歩いていた。遠目から見ても巨大な、獣人国の紋章を掲げた船だ。あれだけ大きければ、外洋での航海も問題ないだろう。


『さて、どうやって船長に接触するか』

「あの人たちに声かける?」

『下っ端船員が、フランの事を知ってるかどうかだよな』


 冒険者でも商人でもなく、長い間陸から離れて海で暮らす船員たちがフランの情報を正確に把握しているだろうか? とてもそうとは思えない。


 そんな彼らに幼女であるフランがいきなり話しかけて、船長に会わせろと言ったところで、取り次いではくれないだろう。


 身分証だって、偽造と言われればそれまでだし。船長クラスになれば、身分証の見分けくらいはできると思うんだが……。


『少し観察して、偉そうな奴が来るのを待つか?』

「ん……。とりあえず話しかける」

『ま、フランがそうしたいならいいんじゃないか?』


 それも1つの手だろうし、そもそも特に作戦がある訳でもないからな。フランがすぐに行動したいのは、サッサと船を見つけたいからだろうが。何故って? 今日の夕食はイオのカレーだからな。それに遅れたくないのだ。


「いく」

「オン!」


 フランとウルシがタタッと船に駆け寄り、何やら打ち合わせの様な事をしていた船員たちに声をかける。


「ねえ」

「お、お嬢ちゃん、どうし……っ」

「なんだい――えっ?」


 近寄って声をかけて来たフランを見て、気軽に返そうとした船員たちが、急にその動きを止めて固まってしまった。フランとウルシを交互に見比べている。


 その顔に浮かんでいるのは驚愕の表情だ。そんな船員たちに構わず、フランは声をかける。


「私は冒険者のフラン。船長に会いたい」


 おいおい、もうちょっと言い方ってものがあるだろう。これじゃ追い払われても仕方ないぞ?


 だが、俺の心配をよそに、船員たちの対応は意外なほどに丁寧なものだった。


「わ、わかりやした! 少々お待ちください!」

「お、俺船長に言ってくる!」


 もしかして、フランが黒雷姫だと分かっているのか?


「お、お名前は、フランさんと言われるので?」


  やはり分かっているみたいだ。想像以上に噂が広まっているらしい。


「ん」

「も、もしかして、噂の黒雷姫殿なんでしょうか?」

「そう」

「まま、まじか! いや、すいません! しかし、黒雷姫殿は進化しているって言う噂だったと思いやすが……」


 そうか。俺には馴染みの無い感覚だから忘れていたが、獣人同士には相手が進化しているかどうか、感じ取れる能力があるんだったな。フランも、白狼のオーレルや、獣王と初対面でも、相手が進化していると判別できていた。


 噂では進化した黒猫族と言われているのに、実物に会うと進化隠蔽の効果で進化しているかどうか分からないため、戸惑っているんだろう。


 まあ、詳しいことを教える必要はないだろう。ここは男性の質問はあえて無視して、話を進める。


「進化した黒猫族は、見たことない?」

「そ、そうっすね。俺は獣人国の出なんですが、初めてお目にかかりましたね。仕事柄、結構多くの獣人にも会いますし」


 やはり進化できた黒猫族は、フラン以外にいないか。呪いを解くための条件は、前情報なしで達成するのが相当厳しいしな。邪人を千体、もしくは脅威度A以上の邪人を倒すこと。


 まあ、個人で脅威度A以上の邪人を1体倒すと言うのは、完全におまけだろう。普通には無理だ。何かしら奇跡が起きたら達成可能かもしれないが。


 本命は邪人1000体の方である。もしこの条件が今でも伝承されてれば、黒猫族は種族を上げて邪人を狩っているはずだ。その中で、特に強い個体には黒天虎への進化のチャンスがあるだろう。


 そして、黒天虎が数人でも揃えば? 種族全体の呪いを解く条件である、脅威度S以上の邪人を討伐するというのも可能かもしれない。少なくとも可能性はゼロではないだろう。


 そうやって邪人を積極的に狩る種族は神々にとっても有益なはずだ。本来であれば、そうやって邪人を狩りつつ、罪を償うはずだったに違いない。それが、過去の獣王家の企みによって全てが歪められてしまったわけだ。


 でも、現獣王が呪いを解くための条件を広めてくれれば、少しは状況が変わってくる。俺たちも獣人国では黒猫族に会って、積極的に話をしないとな。


 そんなことを考えていると、先程の船員に連れられて、貫禄のある男性がやって来た。全身を筋肉の鎧に包まれた、縦にも横にも大きい男性だ。


 頭にはいわゆる船長帽子と言うのだろうか? 海賊の船長なんかが被っている様な帽子をかぶっている。違うのは、髑髏マークの場所に、王冠をあしらった獣人国の紋章が描かれていることだろう。


「ほほう。もしかして、黒雷姫殿か?」

「ん」

「そうかそうか! お前さんの話は、出入りの商人たちから聞いてるぜ!」


 かなり厳つい顔をしているが、フランが頷くとその相好を崩して大きく頷いた。笑うと、途端に人懐っこそうな顔になるな。


「で、俺に用だって?」

「ん。獣人国に行くための船を探してる」

「と言うことは、うちの船の護衛についてくれるってことで良いのか?」

「ん」

「はっはっは! こりゃあ心強い護衛が手に入ったな!」

「じゃあ、乗せてもらえる?」

「当たり前じゃねーか! こうやって前に立ってるだけで、凄まじい実力はよーくわかるからよ!」


 船長は戦士としても一流らしい。フランの実力を見抜いた様だ。さらにフランは獣王からもらった身分証を船長に見せた。


「ほう、陛下の名入りの身分証か……」

「本物、だよ?」

「黒雷姫が持ってるなら本物だろうよ。まあ、後できっちり確かめさせてもらうが」

「ん」

「とりあえず、冒険者ギルドを通さねーと色々煩いからよ。一旦、ギルドで正式に依頼を発行させてもらうが、構わないか?」


 どうやらここで雇用契約というわけにはいかないらしい。まあ、ギルドを通せば身元確認もできるしな。


「構わない」


 他にも冒険者を雇うつもりらしく、俺たちは船長とともにギルドに戻ることにした。冒険者ギルドで船長が出した護衛依頼をその場で受ける。


「出発はいつの予定?」

「問題なければ三日後となってるな」


 嵐や、魔獣の出没で予定が変更されることはよくあるそうなので、そこはどうなるかまだ分からないらしい。


「分かった。じゃあ、三日後に船に行く」

「おう。よろしく頼むぜ」

「ん。こちらこそ」


 フランは船長と握手を交わして、一旦分かれる。次に訪ねるのは3日後だな。あの巨大な船に乗れるなんて、今から楽しみだ。



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