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226 ガルス爺さんの行方

 ロイスから身分証を貰い、これで獣人国に行く算段もついた。あとは出発前にやり残したことは何だ?


『そうだ、ガルス爺さんに会いに行かなきゃな』


 武闘大会までに戻ってくると言う話だったが、もうウルムットに帰ってきているだろうか? ガルス爺さんの知人は、戻ってきたら知らせてくれると言ってたんだがな……。


 とりあえず鍛冶屋に行ってみるか。大会中は遠慮して会いに来なかっただけかもしれんし。


「鍛冶屋?」

『ああ、行ってみようぜ。ガルス爺さんがもう戻ってるか聞こう』


 まだ日が落ちたばかりだ。この時間ならまだ寝ていると言うことはないだろう。一応手土産でも持っていくか?


 道すがら、酒場で一番強い酒を購入する。ドワーフと言えば酒だからな。売ってもらえるか心配だったが、酒場の主人もフランの顔を知っており、全然問題なかった。握手してやったら割引までしてくれた程だ。


 俺たちはその酒を片手に、ガルスの知り合いの鍛冶屋――ザドーの許を訪ねてみた。


「よう、嬢ちゃん! 入賞おめでとうよ!」

「ん、ありがとう」 


 ザドーも闘技場に試合を観戦しに来ていたらしい。


 手土産を渡すと大喜びで迎え入れてくれた。あまり気にしてなかったが、結構な高級酒だったようだな。


 俺たちはガルスの事を聞いてみたんだが、まだウルムットに戻って来ていないと言うことだった。


「ガルスと一緒にバルボラの援助に入った奴らは、もう戻って来てるんだがな」

「ガルスだけ戻ってない?」

「そうなんだよ。バルボラで、ガルスにしかできない仕事でも請け負っちまったのかもしれんな」

「そう」

「とは言え、闘技大会前には戻ってくると言っておいて、何の連絡もよこさないような奴ではないんだがな」


 まあ、俺たちも獣人国行きの船を探すためにバルボラに向かうからな。そこでもう一度探してみよう。獣人国に行っちまったら、次会えるのがいつになるか分からないし。


 聞くことを聞いたんで帰ろうとしたんだが、ザドーに是非にと引き止められた。


「そ、その剣なんだが……」


 ザドーの視線が、確実に俺を見ている。フランの黒猫シリーズを初めて見た時と同じ目だった。


 まあ、武闘大会に来ていれば、実況が俺の事を魔剣魔剣と連呼していたしな。それに優秀な鍛冶師だったら、見れば魔剣であると簡単に見抜くだろう。


「ちょ、ちょっとでいいんだ、見せては貰えないか?」

(師匠?)

『まあ、ちょっとならな。だが、絶対に装備するなと言うんだぞ? 危険だからな?』

「わかった。はい」

「おう、ありがとうよ」

「でも、装備したら呪いで死ぬから」

「は?」

「私以外が装備したら、死ぬ呪いがかかってる」


 その言葉を聞いて、ザドーは俺に伸ばしかけていた手をピタリと止めた。その顔には確実に恐怖が浮かんでいる。


 まあ、装備したら死ぬ剣なんて、普通は持ちたくないよな。舐めなければ触っても平気だよって言われても、毒を触りたくはない。それと一緒だろう。


 自分で言うのもなんだが、俺がそこらの魔剣とは一線を画す存在だと言うのはザドーも分かっている。だからこそ、フランの言う死の呪いが本当の事だと分かっているに違いない。


「さ、触っても平気なのか?」

「触るだけなら」

「そ、そうか……」


 自分で見せてほしいと頼んだ手前、やっぱ止めるとも言えないんだろう。ザドーは意を決した顔で、俺の柄を握った。


 だが、一回覚悟を決めれば、そこは腕利きの鍛冶師だ。真剣な表情で俺の刀身や鍔を見つめている。


「ふーむ、凄まじい魔力を感じるな。それに、この刀身の丁寧な造り。さらにこの金属の配合は……」


 何やらブツブツと呟いているな。


「お嬢ちゃん、この魔剣の出どころは聞いちゃまずいのか?」

「出所?」

「ああ。製作者、もしくは発見された場所だな」


 やっぱり鍛冶師としてはそこが気になるんだな。でも、製作者なんか俺にも分からんし。発見場所も、どこって言えば良いんだ? 魔狼の平原? でも、それを正直に教えて良いのかも分からない。


「よく分からない」


 結局無難に言わせておいた。


「そうか……。もしかしたら、オレイカルコス合金と思ったんだがな……」

「オレイカルコス? その剣は、それで出来てるの?」

「いや、分からん。単に、俺が知らない金属だったから、その可能性があるのではないかと思っただけだ。ちょっと待ってろ」


 ザドーはそう言って、鍛冶場の隅にある棚をゴソゴソと漁り始めた。そして、薄汚れた本を持ってくる。


「これは武闘大会中に手に入れた、過去の鍛冶師の手記だ」


 大会中は多くの商人が集まってくるため、掘り出し物が手に入りやすいんだとか。


「なんと神級鍛冶師の弟子の弟子だった人物の手記だぜ? その中に、神級鍛冶師が用いていた金属として、オレイカルコスという名前が出てくる。どんな物かは分からんが、神級鍛冶師の加工に耐えうる、唯一の金属らしい」


 そんな金属があるんだな。でも、自分で言うのもなんだが、俺はその金属じゃないと思うな。


 悔しい話だが、結構な頻度で折れたり欠けたりするからな。再生能力のおかげで新品同然だが、伝説の金属がそんなに柔ではないだろう。


「まあ、俺の知らない金属なんざごまんとあるだろうから、可能性は低いな。だが、この剣からは品と言うか、妙な存在感を感じる。一級品の魔道具ではあるのだろうな」


 品があるね。良いこと言うじゃないか! そうそう、俺ってばやっぱり隠しきれない気品があるじゃん? 神剣には及ばないけど、神級鍛冶師に作られた可能性はまじであるかも?


 その後、ザドーに別れを告げた俺たちは、宿に戻っていた。


 ただ、まだ食事して風呂入って就寝とはいかない。


 一つやらなきゃいけない検証を思い出したのだ。


『じゃあ、いくぞ』

「ん」


 俺は部屋の中で複数分体創造を発動した。


 今までだったら、布の服を身に纏った人間の俺が生み出されていたのだが――。


『やっぱり、剣だな』

「ん、師匠が沢山」


 やはり複数分体創造で生み出される俺の分体が、剣の姿になっていた。これは何故なんだ?


 その後、生み出す際にイメージを変えてもう一度発動してみると、念じれば人の姿も生み出せると分かった。剣と人間を同時に生み出すことも可能なので、戦略の幅が広がったとも言えるだろう。


 ただ、人間姿の分体にも変化があった。顔や体型が微妙におかしいと言うか、俺ではあるんだが、俺ではないと言うか。そっくりだけどちょっとだけ違う兄弟とでも言おうか。


 剣の分体を生み出せるようになった代償なんだろうか?


 まあ、剣として生きる決意も遥か前に固めて、今さら人間の姿に未練もない。能力的に何か変化があったわけではないし、特に問題はないだろう。


『さて、あいさつ回りも済ませたし、準備もできてる。そろそろかね?』

「ん。獣人国に行く」




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― 新着の感想 ―
[一言] 分体創造が剣になってるのは師匠の剣化が進んだ伏線だったのかな
[一言] >これは武闘大会中に手に入れた、過去の鍛冶師の手記だ  武道大会?武闘大会?  お時間のあるときにでも統一しておいたらいかがでしょうか。
2022/10/19 23:16 退会済み
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