219 寄ってくる奴ら
「フェルムスありがとう」
「いえいえ。私も似たような経験がありますから」
「魔術師ギルドに騙されそうになった?」
「というか、注目を浴びてしまい、色々と不快な思いをした経験ですね」
フェルムスも若い頃、同じ様に武闘大会で優勝し、同じ様に様々な人間に目を付けられたことがあるらしい。
各地の魔術師ギルドや傭兵ギルド、貴族に大商人に裏組織。フェルムスも様々な勢力から勧誘を受け、時には強引に従わせようとする者もいたと言う。
「少々他人事とは思えなくてね」
「どうやって対処した?」
「私はひたすら逃げましたね。言質を取られないようにして、各地を放浪しました」
ある意味一番いい手段かね? 痕跡さえ残さなければ、追いつかれることもないだろうし。
「まあ、最後はディアス殿に助けられたわけですが」
「ディアスに?」
「はい。年代が近いこともあり、彼とは当時から親交がありましてね。当時、彼は既にギルドマスターでしたから、色々と便宜を図ってもらいました。彼の側近扱いにしてもらい各勢力の勧誘を躱したのです」
ギルドマスターの腹心ともなれば、木端貴族程度では無理な勧誘も出来ないだろう。少なくとも個人で対応するよりは楽なはずだ。
「フランさんの場合は、私以上に注目されているでしょうし、かなり厄介な輩も近寄ってくると思いますよ? 金目当ての犯罪組織程度なら潰せば済みますが、貴族などは国際問題に発展する恐れもありますから本当に厄介です」
なんか、実感がこもった声だな。すごいしみじみした口調だし。
「経験談?」
「ははは。そうです。他国の貴族と少しばかり揉めましてね。その国から名指しで追われる事態になりましたよ」
「仕官を断っただけで?」
「まあ、相手が少々居丈高と言いますか、態度が悪くてですね。言い合いの末に当主と家臣含めて50人ばかりを……」
「殺ったの?」
「いえいえ、病院送りにしただけです。ただ、その人物が王族に連なる血筋だったと言うだけで」
それは相手の国も怒るかもな。面子の為にもタダで済ませる訳には行かないだろうし。
「どうやって対処したの?」
「送られてくる追手を全員捕まえて、相手の国王に直談判に行っただけですよ? まあ、少々夜分での訪問になりましたが」
それって脅迫って言わないか? 幾ら強いと言ってもそんな真似可能なのか?
「まあ、相手が非常に小さい弱小国の王であるから可能な手段でしたね。国で一番強い人間でも私より弱かったですし。例えば、クランゼル王国級の相手では逃げるしかなかったでしょう」
「なるほど」
「なので、困ったら短慮を起こさず人を頼ることです。ギルドや、アマンダ殿でも良いでしょう。仲が良いのでしょう?」
「ん。でもアマンダ?」
「おや、知らないので? 彼女に育てられた元孤児の中には冒険者として頭角を現している者が非常に多くてですね、彼女が本気で声をかければ小さな国くらいは亡ぼせる戦力が集まると言われているのですよ」
俺たちが想像していた以上にアマンダの人脈が凄まじかった!
「アマンダ凄い」
「武力に頼らずとも、彼女の人脈だけでも大きな力になるでしょう。アマンダ殿が睨みを利かせているだけで、レイドス王国がクランゼル王国に手を出せないと言われているほどですから」
何十年も各地で孤児院を開いているって言うしな。アマンダがどういう教育をしているのかわからないが、彼女に憧れる子供たちが冒険者を目指すのは当然だろう。そして、少しでもアマンダの鍛錬を受けたのであれば、基礎はバッチリだ。そんな子供たちが冒険者として大成する可能性は高いのかもしれない。
「まあ、貴方は獣人国の後ろ盾もありますし、大丈夫だとは思いますが」
「獣人国の後ろ盾?」
「おや、獣人国に仕えているのではないのですか?」
「仕えてない」
「一緒に決勝戦を観戦されていたので、てっきり獣人国の所属なのだとばかり……。ですが、そうですか。獣王殿に気に入られましたね」
「そうなの?」
「ええ、自分と一緒にいるところを見せて、他国への牽制にしたのでしょうね。それに知人の獣人の反応を見ましたが、獣人内でのフランさんの人気はかなり高そうです。貴方と仲が良いと示せば獣人へのアピールにもなるんでしょう。あわよくば獣人国に取り込もうと考えているんでしょうが」
それはあるかもな。ここでフランに恩を売っておけば最終的にまた獣王を頼るかもしれないし、獣人国へ所属するのはそうおかしな流れでもない。最終的にフランが獣人国に来る確率が上がる様に、色々と考えているんだろう。
獣王がそんな細かいことを考えられるとも思えないから、ロイスやロッシュの助言かもな。
決勝戦を観戦している時にも思ったが、今のところはギブアンドテイクな関係だし、利用できるなら利用させてもらおう。
「おっと、少々長話になってしまったね。私はもう行きます」
「ありがとう」
「またバルボラに来た際にはぜひ私の店に寄ってください。カレーを取り入れた新たなレシピを研究中ですので」
「楽しみにしてる」
「ええ、期待しておいてください」
フェルムスは優雅に一礼して去って行った。
『でも、今後も魔術師ギルドみたいなやつらに絡まれ続けるのは勘弁してほしいな』
「ん」
この会話がフラグになってしまったんだろうか。先程グラークマたちに絡まれた場所で、俺たちは再び声をかけられていた。
「そこの少女、少々待ちたまえ」
「ん?」
「そう、君だ」
剣士風の格好をした男を先頭に、複数の人間が近寄って来る。すると、彼らを見た周囲の冒険者たちが微かにざわつく。
「おい、セルディオだ」
「なんで奴がここに」
「ちっ、相変わらずムカつく面だ」
「今日は最悪な日だな」
パーティーと思われる4人の冒険者たちが、歩いてくる。周囲の冒険者たちの空気が急激に悪くなったな。嫌われているっぽい。
見た感じ、小奇麗な身なりで、遠目には騎士に見えなくもない感じなんだけど。
名称:セルディオ・レセップス 年齢:30歳
種族:人間
職業:魔剣騎士
状態:平常
ステータス レベル:40/99
HP:409 MP:398 腕力:207 体力:199 敏捷:167 知力:201 魔力:190 器用:167
スキル
威圧:Lv3、詠唱短縮:Lv3、騎乗:Lv7、恐怖耐性:Lv4、剣技:Lv7、剣術:LvMax、剣聖術:Lv2、強奪:Lv6、指揮:Lv4、浄化魔術:Lv2、精神異常耐性:Lv5、精神耐性:Lv5、属性剣:Lv6、魔力感知:Lv3、目利き:Lv8、異性好感、異性誘引、オークキラー、気力操作、呪い無効
ユニークスキル
武器支配
称号
オークキラー、女殺し、子爵、収奪者、魔薬常用者、ランクA冒険者
装備
天馬の剣、バジリスクソード、聖光銀の特製全身鎧、六角王鹿のマント、次元の指輪、生命のペンダント
普通に強かった。パーティ全員レベル30を超えているし、ステータスも高い。剣士、盾士、魔術師、盗賊とバランスもとれている。ただ、リーダーっぽいセルディオだが……。ランクAに届く程か? アマンダに比べたら断然弱い。ランクBのジャンやコルベルトと比べても、弱い程だ。能力のバランスが取れていることは確かだが……。
そのセルディオが気障ったらしい声で話しかけてきた。
「君」
うわっ。声を聴いただけで好感度がマイナスに傾いた! 冒険者たちがこいつを嫌う理由が一発で分かったぜ。超スカシてる!
しかも、スキルにある異性好感と異性誘引に、女殺しの称号! イケメンで女にモテモテとか、ろくな野郎じゃないな。子爵の称号もあるから貴族だし。絶対に好きになれそうもない。正直フランと会話すらしてほしくないんだが。
『フラン。貴族だし、ろくな奴じゃなさそうだ。聞こえなかった振りして行っちまおう』
(わかった)
色々な意味で有名人らしいランクA冒険者の脇を抜け、さり気なく逃げる――つもりだったのだが。
「待ちたまえ」
スカシ野郎はフランの行く手を遮ると、偉そうな態度で話しかけてきた。くっ、近くで見ると超イケメンだな! 余計に嫌いになった。
「君は、黒雷姫フランだね?」
分かってて話しかけてきたか。
「ランクC冒険者フラン」
「名乗るまでもないだろうが、一応言っておこう。ランクA冒険者にして子爵のセルディオ・レセップスだ」
「? 知らない」
「何? 本気で言っているのかね?」
「ん」
「勉強不足だな」
うわー、自分を知らない=勉強不足って。どんだけ自信過剰だよ。嫌いだわー。
それにしても、何の用だ? わざわざフランを名指しで話しかけてくるってことは、何かしら用があるんだろうが。
パーティへの勧誘か? それとも子爵として何か用があるのだろうか? どちらにせよろくな話ではなさそうだが。
「何か用?」
「その魔剣を僕に渡すんだ」