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218 色々と群がってくる奴ら

 フランが冒険者ギルドを出ると、変な奴らがいきなり近寄って来た。


 どれくらい変かと言えば、4人全員が同じ灰色のローブを頭からすっぽりと被っており、顔が上手く判別できない。手には節くれだった木の杖を持ち、完全に魔術師としか思えない恰好をしている。


 しかも、お伽噺に出てくるタイプの古典的な魔術師だ。ここまで完璧だと、魔術がある世界なのにコスプレっぽく見えてしまうな。


 それに、動きの統制が異常に取れており、その息の合い過ぎた動きが彼らの胡散臭さを逆に高めていた。


 鑑定してみたら、それなりの魔術師だと言う事は分かったんだけどね。とは言え上位属性を使える者はおらず、一番高レベルな奴で水魔術がレベル7だな。


「なに?」


 見るからに変な奴らだが、敵意や悪意は特に感じられないので、どう対応すればいいのか一瞬迷ってしまった。


 すると、4人がサッと左右に割れ、杖を天に突き上げる様に掲げる。そして、真ん中から一人の男が進み出てきた。


 地味な4人と違って、一人だけ金の縁取りがされた紫のローブに、先に宝石の埋め込まれた豪華な杖を持っている。顔も出してるし。


 目鼻立ちの整った。青髪のイケメン野郎だ。胡散臭い。いや、イケメンだから胡散臭いとか言ってるわけじゃないよ? ホントだよ?


「お待ちしておりました。フラン様!」

「ん? 誰?」

「私の名前はグラークマ。エイワース魔術師ギルド、ウルムット支部長でございます」


 グラークマは芝居がかった仕草で優雅に一礼をする。絵にはなってるな。


 しかし魔術師ギルドね。名前は聞いたことあったけど、関わったことはなかったな。ウルムット支部長ってことは、この国のトップってことか?


 うーん、弱くはないけど、これで支部長か? だって、この町の魔術師ギルドのギルドマスターってことだろ?


 俺たちにとってのギルドマスターってなると、クリムトやディアスレベルなんだが……。


 目の前にいるグラークマという魔術師は基礎Lvも20しかないし、精々ランクD冒険者程度のステータスしかなかった。魔術だけは火炎:Lv3、暴風:Lv1、雷鳴:Lv2とまあまあの実力だが、それ以外が壊滅的だ。本当に魔術の鍛錬だけを続けたんだろうな。


 しかし、こいつらにフラン様とか呼ばれる覚えはないが……。


「素晴らしい試合の数々、拝見させていただきました」

「そう」

「試合の中で使われた数々の大魔術! このグラークマ、不覚にも涙するほど感動してしまいました!」


 まあ、魔術師から見たら、高位の魔術をばんばん使いまくった高度な試合に見えたか。カンナカムイなんか俺が撃ったから、無詠唱で撃ったみたいに見えただろうし。


「大魔術師フラン様」

「? 魔術師じゃない」


 尊称みたいなものなんだろう。でも、考えてみたら職業の変更をしばらくしてない。今のフランなら相当増えたんじゃなかろうか。


 グラークマはフランの呟きを無視して、何やら小箱のような物を懐から取り出した。そして、小箱を開くと、フランの前に片膝をついて小箱の中身を見せる様に掲げる。


 その動きに合わせて、灰ローブの魔術師たちが掲げていた杖を前方に傾け、俺たちを囲む様に移動した。


 何やら怪しい儀式っぽくも見える。魔力の動きはないが、こいつらの動きには注意しておこう。少しでも怪しい動きをしたら、念動でぶっ飛ばしてやる。


「こちらをどうぞ」

「これは?」

「我がエイワース魔術師ギルドより、大魔術師フラン様に贈らせていただきます。第一位階章です」

「位階?」


 位階ってなんだ? よく分からないが、グラークマは箱をズズイと勧めてくる。


(師匠?)

『うーん、どうすっか』


 周囲の魔術師たちも、グラークマにも魔術を使う気配はないが、本当にこの勲章みたいなものを受け取っても平気なのか?


「ささ、こちらをお受け取り下さい。大魔術師たるあなたに相応しき証となっております」


 敵意は感じられないし、今の言葉に嘘はないが……。だからと言って信用できる感じでもない。


『でも怪しいし、受け取るのは止めておこう。いきなりだし。魔術師ギルドとやらの事を調べてからでもいいさ』

「ん。いらない」

「な、何故ですか!」

「なんか怪しい」

「いえいえ、我らには――」

「はい、そこまでだ」

「な、何奴!」


 引く様子の無いグラークマを力ずくで黙らせようか迷っていたら、フランとグラークマたちの間に割り込んでくる人影があった。


「エイワースのところは相変わらずですね」

「フェルムス?」

「やあ、昨日ぶりですね」


 そう、フランを庇う様に立ち塞がってくれたのは、フランと激闘を演じた元ランクA冒険者、糸使いのフェルムスだった。


「なにをする! 冒険者風情が出しゃばるな! 今は重要な儀式の最中であるぞ!」

「その馬鹿な儀式を邪魔するために来たのですよ」

「どういうこと?」

「今のはですね、こいつらの常とう手段なんですよ」


 なんと、今行われているのは、エイワース魔術師ギルドの正式な入団儀式らしい。周囲の魔術師たちの動きはやはり儀式的な物だったのだ。


 あとは高位魔術師から位階章を授けられることで儀式は完了し、フランは魔術師ギルドに加入したことにさせられてしまうらしい。


「魔術的な縛りなどは特には有りませんが、一回受け取ってしまえば今後色々と煩いことは間違いないでしょう」


 なるほど。既成事実を作ってしまい、あとはそれを盾に粘着してくるわけね。知らなかったと言っても「でも受け取ったじゃないか」と言い続けるという、詐欺師の常とう手段だ。


「でも、騙されるの?」


 それはそうだよな。例えば、高位の魔術師を怒らせれば報復されるかもしれないし、自分たちの評判だって落ちるだろう。


「そこが彼らの嫌らしいところでして。才能のある子どもなどにしか、こういう手は使わないのですよ。フランさんは外見だけは幼いですからね。どうとでも言いくるめられると考えたのでしょう」


 それに普通の子供なら魔術師ギルドと言う組織と敵対するのを怖れて、力ずくで対処しようとはしないだろう。


 つまり、儀式を済ませてしまったと言う既成事実に組織の圧力。さらに舌先三寸で言いくるめて、子供を組織に従属させているというわけか。性質が悪いな。


「複数ある魔術師ギルドの中で、こんな過激な真似をするのはエイワース魔術師ギルドだけですがね。彼らは力ある魔術師による世界制覇を唱える、地下組織に近い団体ですから。フランさんの力を見て、組織に取り込もうと狙ってきたんでしょう」

「なるほど」

「フランさん。あなたは各方面から注目の的なのですよ。もう少し危機感を持ってください」

「ん。ありがとう」

「さて、この馬鹿どもの処分はどうしましょうか」

「ば、馬鹿と言うのは我らのことか! 直ぐに暴力に訴える事しか考えない野蛮な冒険者風情が!」


 冒険者にそういう輩が多いのは確かだが、完全に色眼鏡だね。少なくともフェルムスの外見と喋り方だけを見たら、野蛮とは思えないだろうし。冒険者って言うだけで馬鹿にしているな。


「自分たちの末路さえ想像できず、自分本位な論理を振りかざす間抜けな人間を馬鹿と呼んで何が悪いのです?」

「はあ? 何を――がっ!」


 フェルムスさん、分かっていらっしゃる。こちとら直ぐに暴力に訴える野蛮な冒険者だからね。自分を騙そうとした相手に容赦しないのだ。


 フランの前蹴りでグラークマが吹き飛ばされ、地面に寝転がる。


「うごあぁぁ……」


 フランは全く本気じゃないんだけどな。ぶっちゃけ、体勢を崩すために牽制で放った蹴りだったんだが……。


 グラークマは蹴られた腹を押さえながら、ゴロゴロと転がって、上からも下からも色々と撒き散らしている。


『弱っ!』

「ん」


 これから地獄を見せてやるつもりだったのに、あっさりと倒せてしまったので拍子抜けしてしまったようだな。フランがこんな風に驚いている顔なんか久し振りに見たぞ。


「な、なにをフラン様!」

「なぜこんな野蛮な真似を!」

「なんかムカついたから」

「そ、そんな理由で!」


 フランは冒険者稼業を気に入っているし、冒険者にはアマンダやエルザの様に仲の良い人間も多い。フェルムスの言葉が嘘だったとしても、冒険者を馬鹿にしたこいつらをただで済ますことはあり得ないのだ。


「くそ、逃げ――なんだ?」

「体が動かない!」

「くそ!」

「あなた方ごときでは私の糸からは逃げられませんよ」


 便利だわフェルムス。糸でいつの間にか魔術師たちの動きを封じていたらしい。糸に巻きつかれた男たちが、身動きが取れずもがいている。


「いつの間に」

「元々はこういった隠密性に優れている武器なのですよ? 正面から戦うよりは、相手を待ち伏せするような状況に適していますね」

「なるほど」


 そもそも闘技大会のような場所での戦闘には向かない武器ってことか。確かに、ダンジョンや森などでフェルムスと戦いになったら、いつの間にか巻付かれ、切り刻まれるような未来もあり得る。糸の罠と結界でゲリラ戦を展開されたら、相当に厄介だろう。


「まあ、それでもフランさんに勝てるとは思えませんがね」

「なんで?」

「最後に撃たれたような超威力の攻撃であたり構わず無差別攻撃をされたら、防ぎようがありませんから」


 ただ、場所によってはそんな戦法が使えない場合だってあるだろう。素直には喜べないな。やはり正攻法で勝てるくらい強くなりたいぜ。


「さて、少し話が逸れましたが、彼らをどうしますか?」

「どうしよう?」

「私としては冒険者ギルドに任せてしまうのが良いと思いますが?」

「そう?」

「ええ。相手も組織ですし。貴女程の実力を秘めた冒険者の為ならば、ギルドも労を惜しまないでしょう」


 フェルムスがそう言うなら、任せちゃっていいかな? これからこいつらを引きずって魔術師ギルドに乗り込んで、他の魔術師にも痛い目を見せて、そこから――なんてやっていたら、時間がいくらあっても足りない。


「じゃあ、任せる」

「では、連れて行きますか」

「ちょっと待って」

「どうされました?」

「ん。お仕置きは必要」


 と言う事で、魔術師たちの腹にワンパンずつ入れて悶えさせてから、冒険者ギルドに引き渡したのだった。


 ディアスとエルザに頼めば悪い様にはならないと思っていたが、フランとフェルムスの話を聞いたディアスは大喜びだった。


「これを機に、あの薄気味悪い魔術師ギルドを大手を振って潰せるよ! 冒険者ギルドに正面から喧嘩を売った報いを受けさせてやる!」


 と言う事で、小躍りするディアスを尻目に彼の部下に魔術師たちを引き渡したのであった。


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― 新着の感想 ―
雉も鳴かずば打たれまい。 まぁ、命が有るだけマシな方①
[気になる点] ウルムット支部長ってことは、この国のトップってことか? 町のトップでは?
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