20 素材売却
「早速依頼を受けますか?」
受付嬢、ネルさんが聞いてくる。その言葉で思い出したよ。ギルドカードを発行してもらいに来たら、色々ありすぎて、忘れてた。そうだ、素材を売らないと、宿にも泊まれない。
「ゴブリンの角が少しある」
「ああ、それでしたら、依頼報告カウンターで受け付けをしております。こちらへどうぞ」
冒険者となったフランに、ネルさんが丁寧に対応してくれる。さすが冒険者ギルドの顔である受付嬢。しっかりと教育が行き届いているな。
「買い取ってほしい素材もある」
「でしたら、素材買取カウンターへお持ちください。まずは、ゴブリンの角の精算をさせていただきますね」
「ん」
「8組で、160ゴルドですね。ご確認ください」
ぶっちゃけ、まだ宿代に足りない。最低の宿でも200ゴルドだ。できれば、もう少しましな宿に泊まらせてやりたいしな。
素材買取カウンターへ移動する。
「素材は解体済みですか? あまり大きかったり、未解体の場合は、カウンター横のスペースに持ってきて頂きたいのですが。それよりも大きい場合は、特別室を使います」
ネルさんが説明してくれる。どうしよう。ゴブリンや蟲の値段を見るに、下級の魔獣は安いんだよな。なら、中級以上の素材も一緒に売るか。となると、少し大きい物もあるな。
「ちょっと大きい」
「では、そちらの買い取りスペースにお願いします。それで、今は宿などに置いてあるのですか? 高価な素材などは、慎重に管理された方が良いですよ」
ああ、一見すると、何も持ってないように見えるな。それはそうか。ただ、道々の鑑定で、アイテムボックスを持っている人間は結構いたし、空間収納が伝説級の能力という事はなさそうだ。ここで取り出しても大丈夫だろう。
「今出す」
出すのは俺だけどな。これは、スキル共有の欠点の1つだった。次元収納スキルをフランも使えるが、それはフランの収納だ。俺の収納の中身まで共有されるわけではなく、俺が仕舞った物を、フランが取り出すことはできなかった。
フランが自分で取り出した風を装い、素材を買い取りスペースに出していく。
まずは、少しだけある初級の素材を全部出しちゃおう。
フランが倒した記念すべき初の獲物、ツインヘッド・ベアの毛皮と爪。内臓も薬になるので売れるが、ただ次元収納に突っ込んであるだけだ。ここで出すと色々酷いことになるので、今日はやめておこう。あとは、ポイズンファング・ラットの毛皮と毒牙が2匹分だ。
「これは、どうされたんですか?」
「町に来る途中で倒した」
「解体も、ご自分で?」
「そう」
周りで野次馬していた冒険者たちが少しざわついた。チラッと見てみると、何か笑ってるな。うーん、下級の素材をもったいぶって出すなってことか?
なら、次はもう少しましなのを出そう。
平原なら、エリア2と3の間くらいに出る魔獣の素材だ。
ジャイアント・バットの翼膜に毒牙、共鳴骨。クラッシュ・ボアの牙と毛皮、頭骨。ロック・バイソンの甲殻と角。
それほど強い魔物じゃないが、これだけ売れば、数日分の宿代と、安い防具を買う資金くらいは手に入るだろう。
タイラント・サーベルタイガーやドッペル・スネイクの素材を出せば、目標は達成できるだろうが、それはやめておいた。フランの武具を作るのに使えるかもしれないという事と、目立ちすぎる可能性があるからだ。
ギルマスの分体創蛇の鱗服はドッペル・スネイク、ドナドの暴牙虎のマントはタイラント・サーベルタイガーの素材を使った装備だった。つまりは、上位の冒険者が身に着けるレベルのモンスターという事だ。それをここで売ったら騒ぎになってしまうのは確実だろう。
ネルさんが何やら難しい顔をしている。さすがに、幼いフランが売るには、この魔獣たちは強かったか? 成人男性でも、倒すのが難しい魔獣たちだしなぁ。
でも、下級の魔獣の素材なんか、大した稼ぎにはならないだろうし。ここで、それなりに資金を手に入れなければならないしな。目立つことは、1回で終わらせた方が良いだろう。
となると、中級、下級魔獣の素材は、全部売っちゃうか?
『なあ、どう思う?』
(1回で済ませた方がいいと思う)
『だよな! じゃあ、他のも出しちゃおう』
俺はさらに、ストーン・スパイダーの糸袋、毒牙、甲殻。穴掘りモグラの爪と毛皮。麻痺爪猫の毛皮と爪を、買取スペースに並べた。
肉はフランの食事に回すので、売らないでおく。
「これで全部」
「……はっ。わ、分かりました。今鑑定をいたしますので、少々お待ちください」
ネルさんは、素材の鑑定と目利きまでできるのか。凄い多才だな。他の受付嬢も呼ばれて、3人で素材をチェックしている。
鑑定は10分ほどで終了した。
「お待たせいたしました」
「ん」
「全て合わせて、195000ゴルドでの買取となります。いかがですか?」
は? 195000! まじでか。高すぎないか? 30000くらいになれば御の字だと思ってたのに。
「すごい高い?」
「いえいえ、適正価格ですよ。何せ、脅威度FやEの魔獣の素材ばかりですし。また、素材の状態が非常に良かったので、割増しとなっております」
素材の状態なんて気にしてなかったな。でも、そうだよな。傷だらけの毛皮と、綺麗な毛皮の値段が、同じはずがない。
「例えば、ツインヘッド・ベアの毛皮は、普通は6000ゴルドでの買取です。しかし、フラン様の持ち込まれた毛皮は、傷一つない上に、解体も完璧で、全身が揃っています。なので、買い取りは18000ゴルドとなります」
3倍かよ。すげー。他の素材もそうだとすると、この値段も納得なのか? まあ、もらえる物はもらっておこう。
「こちらが代金です。ご確認ください」
「ん」
フランが即座に次元収納に仕舞いこむ。
「じゃ」
そして、フランが受付カウンターに背を向けた時だった。
「ちょっと待てや、ゴラァ!」




