211 アマンダ戦決着
微笑みながらも睨み合うという器用な真似をするフランとアマンダ。互いの間で闘気が高まっていく。
改めてアマンダを鑑定する。何でも出来る万能タイプだ。冒険者としての経験では勝てる気がしないが、武器スキルのレベルでは勝っている。この武闘大会では付け入るスキが必ずあるはずだ。
名称:アマンダ 年齢:58歳
種族:ハーフエルフ
職業:神鞭士
状態:平常
ステータス レベル:71/99
HP:651 MP:808 腕力:330 体力:298 敏捷:457 知力:383 魔力:406 器用:359
スキル
威圧:Lv7、詠唱短縮:Lv6、隠密:Lv8、解体:Lv8、火炎耐性:Lv6、格闘技:Lv4、格闘術:Lv7、風魔術:LvMax、危機察知:Lv9、気配察知:Lv8、剛力:Lv5、採掘:Lv7、採取:Lv8、瞬発:LvMax、瞬歩:Lv7、睡眠耐性:Lv6、属性剣:Lv7、投擲:Lv8、毒耐性:Lv6、氷雪耐性:Lv5、鞭技:LvMax、鞭聖技:Lv4、鞭術:LvMax、鞭聖術:Lv6、暴風魔術:Lv5、麻痺耐性:Lv8、魔力感知:Lv5、雷撃耐性:Lv7、オークキラー、気力操作、ジャイアントスレイヤー、身体強化、デーモンスレイヤー、ドラゴンキラー、敏捷大上昇、暴風強化、魔力操作、鞭強化
固有スキル
鞭天技
ユニークスキル
精霊の寵愛
称号
オークキラー、子供の守護者、ジャイアントスレイヤー、ダンジョン攻略者、デーモンスレイヤー、ドラゴンキラー、疾風の如き者、風術師、魔獣の殲滅者、ランクA冒険者
装備
天龍髭の魔鞭、老多頭蛇の全身革鎧、魔毒蜥蜴の外套、魔眼王牛の靴、身代りの天輪、雷霆鳥の羽飾り、防壁の指輪、魔痺梟の羽手裏剣×24
そう言えば職業が以前見た嵐闘士から神鞭士に変わっているな。鞭スキルのレベルも上がっている。これは闘技大会に向けた転職なのか? 固有スキルも見たことが無い物だ。
鞭天技:消費を増大させる代わりに、鞭技の発動を早める
どれくらい早くなるのかね? 神の字を冠する上位職の固有スキルだ。甘く見る訳にはいかない。ただ、消費を増大させるともある。連発は出来ないだろう。そこが付け入る隙になるかもしれない。
武器を抜いた2人を見て、準備が整ったと判断したようだ。解説者が叫ぶ。
「試合、開始ぃ!」
試合開始と共に、俺たちは魔術を放った。
「ヘキサゴナ・トルネイド」
『サンダー・ボルト!』
『サンダー・チェイン!』
『トルネード・ランス!』
竜巻を起こす風魔術で鞭を絡めとって封じ、速さと感電力を重視した雷鳴魔術で動きを封じる。そういう作戦だ。
雷鳴魔術はLvMaxまで上げてある。ルミナに、黒天虎の真骨頂は雷鳴魔術を併用する戦い方にあると助言されたためだ。
おかげで雷鳴強化も入手できた。新たに入手した術の中で、特に使い勝手が良かった術の1つがサンダー・ボルトだった。発動が早く、感電後にさらに帯電し、相手の動きを封じる効果が非常に高い術だ。スタン・ボルトの上位互換の術と言えるだろう。サンダー・チェインはさらに攻撃力が低いが、雷が鎖のように相手に絡みつく、より拘束向きの術である。
これで倒せるとは毛頭思っていない。なぜならアマンダには最強の鎧、ユニークスキル精霊の寵愛があるからだ。自動発動し、敵の攻撃を一発だけ防ぐ防御スキルである。
まずは一撃加えて、その鎧を剥すところから始めなければならなかった。この魔術は足止めに加え、精霊の寵愛を使わせるための攻撃でもあった。その後、閃華迅雷を使って押し切る。無駄に攻撃を仕掛けて消耗する前に、最強のスキルで勝負を決める作戦だ。敏捷では俺たちが勝っているからな。接近してしまえば、俺たちが有利なはずだ。
物理攻撃無効も装備済みである。鞭は連打性も高いが、アマンダの戦法はどちらかというと一撃必殺だからな。その一撃を防いで、攻撃だ。
魔術を放った直後、フランは魔力を集中させる。
『フラン、行くぞ』
「ん! 閃華――」
フランが閃華迅雷を発動させようとしたその時。俺には確かに聞こえていた。アマンダの力ある言葉が。
「絶招・毘沙門堕とし!」
「迅雷!」
その直後、俺たちの放った魔術が弾け飛ぶ。そして、俺たちの周囲を竜巻の如き颶風が襲い、舞台が強風で舞い上がる砂のように、驚くほどの勢いでガリガリと削れていった。同時に、俺たちの魔力も凄まじい速さで減っていく。
「むっ!」
『ちっ!』
その攻撃の正体はあまりにも速すぎるため、時空魔術で加速していても影しか捉えることが出来ない。超神速で繰り出され続けているアマンダの鞭だ。
やばい、物理攻撃無効が延々と発動し続けている。しかも一発一発の威力が高いのか、その魔力の減り方が異常だった。
躱すとか言うレベルの攻撃ではない。狭い結界内を、逃げ場がない程の激しさで鞭が暴れ回っている。さらに、鞭から発せられる衝撃波が見えざる刃となって襲ってきていた。
うろ覚えだが、達人の振るう鞭の先端は音速を超え、ソニックブームが発生するらしい。地球でそれなのだ。魔力のあるこの世界でアマンダが振るう鞭はどれほどの速度になっているのか、想像もできない。
このままでは閃華迅雷によって回復した魔力もアッと言う間に削られてしまうだろう。
(師匠、転移!)
『ショート・ジャンプ!』
フランが転移を指示する。このまま物理攻撃無効で消耗し続けるよりも、転移の消費の方がましだと考えたのだろう。
だが、真後ろに転移したはずの俺たちの視線の先に、アマンダの姿はなかった。既に舞台の反対側に逃げていたのだ。
俺たちは転移魔術を大勢の前で使ってしまった。アマンダの耳にも入っていたのだろう。このレベルの相手であれば、転移を読んでいれば転移にかかる一瞬のラグで、十分移動が出来るようだった。
「バーニアァァ!」
転移で近寄ることが不可能だと分かったフランは、アマンダに向けて一気に加速する。そもそも、まだ精霊の寵愛さえ使わせていない。ここで黒雷を放ったところで、防がれてしまうだろう。まずは一撃入れる!
「はぁぁ!」
鞭の暴風の中を、フランが一直線に突き進む。この突進速度は予想外だったようだな。アマンダはフランの攻撃を躱しきれない。
ギィイイイィィン!
よし、ようやく届いたぞ! 精霊の寵愛に剣が阻まれたが、これでいいのだ。フランはそのまま返す刀で俺を振り上げる。
喰らえぇぇ!
アマンダの眼前に俺が迫り、その顔が驚愕に見開かれる。
『はぁぁぁぁ!』
だが、フランの攻撃がアマンダに届くことはなかった。
アマンダが繰り出し続ける舞台全域への広範囲無差別攻撃によって魔力が減りすぎてしまい、物理攻撃無効が発動するだけの魔力がもう残っていなかったのだ。
『がぁっ!』
魔力が無ければ物理攻撃無効は発動せず、障壁を張ることもできない。
俺の刀身は半ばから砕け散っていた。そして、直後に襲って来た凄まじい衝撃によって、フランと共に結界に叩きつけられる。
「ぐふぅ!」
刀身の再生――いや、そんな事よりも今はフランだ!
俺の刀身に大量の生温かい液体――血液が掛かっているのが感じられる。噴き出しているのは、フランの全身からだった。
『ヒール!』
間に合え! 即死じゃなければ、どうにかなる!
だが願いも虚しく、俺の目には時の揺り籠によって時間を巻き戻されるフランの姿があった。
「試合開始僅か10秒! なんと決着だー! 何が起こった! フラン選手が魔術を放ったと思った直後に凄まじい衝撃音が鳴り響き、魔術が消し飛んだ! その後の攻防はあまりも速すぎて何が何だか分からない!」
攻撃を当てれば、勝つ自信はあった。だが、アマンダの鞭は俺たちの想像を遥かに越えて速く強かった。
「しかし、その両者の攻防の凄さは、舞台を見れば一目瞭然だ! なにせ大部分が砕け散り、原形を留めていない! わずか10秒でこれだ!」
実況の言う通り、舞台は半分以上が砕けてなくなり、残っている部分も傷だらけだった。アマンダの使った武技の凄まじさがよく分かるな。
「……負けた?」
『ああ』
フランが未だに理解しきれていない顔で立ち上がると、俺を拾い上げる。何もできなかったからな。
「もう?」
『そうだな』
呆然としているフランに、アマンダが近づいてきた。
「フランちゃん! 大丈夫?」
かなり息を乱している。ランクA冒険者のアマンダが、たった1発の鞭技を放っただけで息を切らしているのか? アマンダから感じられる魔力が半分以下になっていた。直ぐに息は整ったが、やはり魔力の消耗は治らない。
だが自分の消耗などお構いなしに、アマンダはフランの全身をペタペタと撫でまわし「怪我はない?」「どこも痛くない?」と聞いてくる。
子供好きなアマンダだ。フランを殺しかけたことが余程不本意なんだろう。その顔には悲壮感さえ浮かんでいた。
そんなアマンダを慰める為、フランがラジオ体操にも似た動きで無事をアピールする。それを見てようやく落ち着いてきたようだな。
「フランちゃんも強くなったわね。結構危なかったわ。でも、まだ私の方が強かったわね」
「ん」
「とは言え、鞭はこんなになっちゃったけどね」
アマンダが持つ鞭が半ばから千切れ飛んでいた。アマンダクラスの冒険者が使う鞭が、こんな状態になるとは。それだけの技を使ったってことか。
まあ、一発で舞台にでかい穴を穿つような攻撃を何十発も放つ技だ。俺だって、フランにあんな技を使われたらあっと言う間に耐久値がゼロになるだろう。
これはどう見ても修復不可能である。フランに勝つために愛用の武器を捨てたのだ。アマンダはそれだけフランを認めてくれてるってことだろう。
「準々決勝戦を見ていて分かったわ。フランちゃんは既に私よりも武器の扱いが上。しかも、あの速度と攻撃力。普通に戦うのは得策とは言えなかった」
あの一戦でそこまで見抜かれていたのか。
「それともう一つ。これも準々決勝を見て気づいたけど、フランちゃんは物理攻撃無効か、それに近い能力を持っているんじゃない?」
「それは――」
「あ、言わなくていいわよ。でも、そう考えれば、コルベルトとの戦いも理解できる。ただ、そんな破格の能力を使い続けるのは不可能だわ。使い続けさせれば、かならず破綻する」
全部織り込み済みだったってことか。接近戦を避け、遠距離から攻撃を加え続け、俺たちの魔力を枯渇させる。最初からアマンダの作戦通りだったのだ。
くそっ! さすが経験豊富なランクA冒険者ってことか。
「私の完敗……」
「そんな落ち込まないで」
「修行が足りなかった」
「フランちゃん……」
俺の柄をギュッと握り、俯いてしまったフランを前に、アマンダがオロオロしている。フランが落ち込んでいるとアマンダは勘違いしている様だ。
だが、フランはそんなタマじゃない。
「でも、次の3位決定戦は、絶対に勝つ!」
残念な気持ちはある。落ち込んでもいる。だが、負けは負けとして反省し、落ち込むよりも次の試合への糧とする。
ポジティブと言うか、前向きというか、フランはそういった意味では戦闘者に向いた性格をしているのだ。
それに、俺には解るがフランはどこか楽しげだ。別にアマンダが師匠とか先生って訳ではないんだが、先達が変わらず高い壁であってくれたことが嬉しかったんだろう。その気持ちは分からなくもない。目標としてきた頂きが、間違っていなかったんだと思えるからな。
「頑張って!」
「アマンダも優勝して」
「ええ、誓うわ!」
精神的にかなり消耗はしているが、明日の3位決定戦のためにも、俺たちはそのまま試合を観戦することにした。ただ、いるのは客席ではなく、豪華な個室である。
実は運営側に頼んだら、観戦用の個室を用意してくれたのだ。アマンダが一緒に来たがったが、明日の決勝の打ち合わせがあるということで、運営に引きずられていった。ご愁傷様である。
部屋からは、舞台を見下ろすことが出来た。
フランはワクワクした様子でフォールンド対フェルムスの試合が始まるのを待つ。強者同士の戦いだからな。俺も楽しみだ。
どちらも人気者だが、現役のフォールンドの方が人気が高いかな?
第2試合は俺たちの試合とは打って変わって、長時間の激闘となった。
フォールンドの放つ無数の剣をフェルムスが躱し。フェルムスの糸を剣が断ち切る。
次第に手数に勝るフェルムスが押し始めたかに見えたんだが――。
最後、フォールンドが同時召喚した100近い魔剣が闘技場内を乱舞し、あっと言う間に形勢をひっくり返したのだった。そのままフォールンドが乱舞する剣を操り、フェルムスを追い詰めていく。結局フェルムスは形勢を再逆転することはできず、フォールンドに屈したのだった。
『3位決定戦は、フェルムスが相手か』
どちらが相手でも強敵だが、ちょっとホッとしたのも確かだ。フォールンドは触れた魔剣をコピーできる能力を持っている。奴に触れられたらどうなってしまうのか。ちょっと怖いのも確かだからな。
『とは言え、強敵だ』
「糸が凄い」
『今日の教訓を生かして、絶対勝つぞ』
「ん!」




