209 いよいよアマンダ
アマンダとエルザの試合が終わった後。
闘技場が修復されている間、フランは串焼きをほおばりながら、トーナメント表を見ている。
「次はフォールンド対フィリップ」
『これは、普通に考えたらフォールンドの勝利だろうな』
2人とも戦っている姿を見たことがあるし。フォールンドはアマンダレベルの化け物だからな。
『フィリップが粘って、フォールンドの能力を引き出してくれるとありがたいんだがな』
「ん。頑張れフィリップ」
という俺たちの応援も虚しく、フィリップはあっさりと敗北したのだった。
ただ、彼は満足げだ。フィリップの目的はほぼ達成されたからな。
フィリップは戦闘開始前、観衆に向かってバルボラの現状をアピールし、支援を呼びかけたのだ。準々決勝からは貴族も多く観戦に来るので、彼らに訴えるのが目的らしかった。
最終戦は、竜膳屋のオーナーシェフ、フェルムス対獣王の護衛ロイスの戦いだ。
これが想像以上の激戦になった。
ロイスの基本戦術は、次元門と転移、兎獣人としての敏捷力で相手を攪乱し、大地魔術で攻撃するというものだ。悔しいが、転移の使い方は俺よりも上手だろう。
時折、月光魔術による無効、反射を駆使してカウンターを狙っている。わざと単調に見せかけてからの反射は、凶悪極まりないな。
だが、フェルムスはロイスに輪をかけて驚きの戦い方を披露した。
名称:フェルムス 年齢:63歳
種族:人間
職業:操魔糸士
状態:平常
ステータス レベル:68/99
HP:436 MP:669 腕力:231 体力:201 敏捷:412 知力:327 魔力:339 器用:691
スキル
隠密:Lv5、解体:Lv8、火炎耐性:Lv8、風魔術:Lv3、危機察知:Lv8、気配察知:Lv6、鋼糸技:LvMax、鋼糸術:LvMax、拘束:Lv7、採取:Lv6、消音行動:Lv6、状態異常耐性:Lv6、商売:Lv5、振動感知:Lv8、振動衝:Lv6、双剣術:Lv8、操糸:LvMax、短剣術:Lv3、投擲:Lv9、投げ縄:Lv4、魔糸生成:Lv7、魔獣学:Lv3、魔術耐性:Lv5、魔力感知:Lv5、水魔術:Lv6、料理:Lv8、罠解除:Lv5、罠感知:Lv5、罠作成:Lv8、糸強化、オークキラー、気力操作、痛覚無効、分割思考、魔力操作
固有スキル
糸巻
ユニークスキル
ドラゴンジェノサイダー
称号
鱗の天敵、鋼糸使い、オークキラー、ダンジョン攻略者、ドラゴンジェノサイダー、魔糸使い、魔獣の殲滅者
装備
王鯨髭の戦糸、竜喰蜘蛛の戦糸、雷竜牙の短剣、逆鱗の全身鎧、竜翼幕の外套、毒無効の腕輪、消臭の耳環
鑑定したステータスから、糸を使って戦うのだろうとは予想していたが……。あれほど万能な武器だとは思いもよらなかった。
そもそも、10指で10本の糸を扱うのだとばかり思っていたが、見た限り100本以上を同時に操っているだろう。魔力のおかげなんだろうな。
フェルムスの操る糸の束は、時には剣となり、時には壁となり、時には網となり、ロイスを追い詰めていく。また、闘技場に張り巡らされた糸の結界は鳴子の様な役割も果たすらしく、ロイスがどれだけ転移しても、フェルムスはその位置を見失うことはなかった。
無論、フェルムスもダメージを受けている。幾ら糸が強靭だとは言え、高速で飛来する巨岩を完璧には受け止められないし、時には接近戦で殴られてもいる。身体能力ではロイスに軍配が上がるからな。
だが、狭い闘技場内で糸から逃げ切ることは難しく、ついにはフェルムスの糸がロイスを捕え、その身をズタズタに引き裂いて試合は終了したのだった。
「勝者、竜狩りのフェルムス~! すでに冒険者を引退したと聞いていましたが、3連覇して大会殿堂入りしたその腕前は錆びついてはいなかったー!」
フェルムスが観衆に手を振りながら、優雅に一礼している。そんな行為が気障ったらしく見えないのは、そういう行動が様になっているからだろうな。
『強いな』
「ん」
『狭い結界内でどう戦うか……』
ただ、これで準決勝への進出者が出そろったわけだ。
明日の第一試合はフラン対アマンダ。第2試合がフォールンド対フェルムスである。
『相手はアマンダだな』
子供好きのアマンダだが、以前の模擬戦の様子では手を抜くことはないだろう。むしろ、フランを尊重して、手抜きは失礼と考えるタイプだと思う。
あのアマンダと本気でやり合う日が来るとはな。同格であるゴドダルファに勝利したものの、アマンダに勝つ自信があるかと言われれば……。やはり、まだ弱かった頃にその強さを見せつけられたことが影響しているのかね? アマンダに対しては圧倒的な強者のイメージが強い。
「勝つよ?」
『分かってるよ。目標は優勝だからな』
「ん!」
「オンオン!」
「ウルシも頑張ろうね」
ウルシが自分も忘れるなとばかりに、声を上げる。
そうやって明日の試合の事を考えていたら、他の観衆が帰り始めた。今日の試合は全部終わったしね。
『俺たちも行こう』
「ん。エルザのお見舞いに行く」
『そうだな』
色々良くしてもらってるしな。結構派手に負けたし、見舞いくらいは行ってみようか。
係員に聞いてみると、エルザは医務室で寝ているらしかった。医務室に向かうと、まだ意識を取り戻していないらしく、ベッドに寝かされている。
近寄って見ると、何故か幸せそうな顔で布団に包まっているな。
「あっふーん」
色っぽい顔で寝返りをうつエルザ。
「うふーん。ぐふふふ」
だらしない笑みを浮かべ、涎を垂らしている。負けた悲壮感とか全くないな。
『フラン、大丈夫か? 気持ち悪くなってないか?』
「なんで?」
『いや、平気ならいいんだ』
「どうする? 起こす?」
『大丈夫そうだし。そっとしておいてやる方が良いんじゃないか?』
「わかった」
という事で、俺たちはエルザを放置してそのまま帰路についたのだった。
翌日。
「さあさあ! 大会も準決勝を迎えました! 第1回戦は、この大会では珍しい女性同士の戦いだ!」
お馴染みの歓声の中――いや、いつも以上の大歓声の中、フランは舞台に上がっていた。
「この試合に勝った方が決勝進出! 負ければ3位決定戦となります!」
すでに覚醒&強化済みだ。覚醒は、閃華迅雷を使わなければ、1時間程度は維持できる。先に覚醒をしておいても問題はなかった。
「先に現れたのは、今大会の台風の目! 数々の強敵を打倒し、遂にはランクA冒険者まで下した奇跡のランクC冒険者! 魔剣少女改め、黒雷姫フラン!」
おお、魔剣少女改め黒雷姫? かっこいい異名が付いた! 解説さんありがとう!
「対するは、ここまで圧倒的な強さを見せつけて勝ち上がってきたランクA冒険者! その美貌から百剣のフォールンドと人気を二分する、我が国でもトップクラスの知名度を誇るこの人だ! 鬼子母神のアマンダ~っ!」
やはりアマンダへの声援の方が大きいな。ゴドダルファ戦では美少女と野獣の構図だったから、フランを応援してくれる人の方が多かったのに。
やはりハーフエルフの美貌は侮れん。それに、女性からの黄色い声援もかなり多い。時には「お姉さま―」的な声援が聞こえた。うーん、人気者だな。
「フランちゃん、この場所であなたと向かい合う事になるなんて、思ってもみなかったわ」
「それは私も同じ」
「手加減しないわ」
「ん!」
不敵に笑いあう2人。互いに武器を抜き、臨戦態勢だ。一見可憐な微笑み合いだが、その実は肉食獣同士の威嚇だった。




