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201 VSゴドダルファ開幕

『フラン、いよいよだな』

「ん」

『相手はランクA冒険者。アマンダと同格の化け物だ。厳しい戦いになるぞ』

「わかってる。でも――」

『勝ちに行く』

「ん! 絶対に勝つ」


 すでに昨日の内に強化しているスキルがいくつかある。ルミナにも相談して、対ゴドダルファ用にレベルを上げてきたのだ。


「フラン様、第1試合の入場時刻です。準備は宜しいですか?」


 係員が呼びに来たな。


「ん。平気」

「では、こちらへ」


 よしよし、通路を歩くフランの足取りはいつも通りだ。気合は入っているが、緊張はしていないな。


 ここで、昨日思いついた策を実行する。いや、策と言うほどの事でもないが。


 最初に掛けられるだけの補助魔術などをフランに使い、ステータスを底上げする。


 次に、フランが俺に魔力を伝導させ始めた。枯渇する直前まで魔力を注ぎ込んだら、買っておいた上級マナポーションで魔力を回復させ、再び俺に魔力を注ぎ込む。こうして、刀身に負担をかけないほぼ限界の1500程度の魔力を俺に注ぎ込んだ。今の俺の攻撃力は3700近い。


 試合前にやれることは少しでもやらないとな。ただ、刀身に纏った魔力は20分くらいしか保持できない。その前に決着を付けねば。


『フラン、マナポーションを8本も飲んだけど大丈夫か?』

「平気」


 やっぱり問題ないのか。これは大食いのフランだからこそ可能な作戦だった。普通なら腹が水っぽくなってしまうしね。


「いこう」

『おう』


 フランが舞台へ姿を現すと、すでにお馴染みとなった歓声が会場を包み込む。フランももう慣れたらしく、顔を顰める様な事もない。


「さあ、東通路から姿を現したのは今大会の台風の目、魔剣少女フランだ! 強豪を次々と下し、番狂わせを演じ続けてきた! この試合もランクA冒険者を下し、再びの大番狂わせとなるかー! その可愛らしさに、ファンが急増中の超新星が第一試合に登場だ!」


 おお、好意的な実況だね。まあ、こんなに小さい子供が必死に戦う姿を見て、応援しない人間なんかいないだろう。青猫族くらいか?


「フランさーん! がんばってくださーい!」

「私たちのお財布の為にもー」

「がんばるのです! 今晩のおかずが一品増えるかどうかが決まりますからね!」


 緋の乙女の3人の姿もあるな。ちょいと欲望に素直過ぎな気もするが、応援は有り難い。


「西から登場したのは、ここまで圧倒的な強さで勝ち上がってきた優勝候補、金剛壁のゴドダルファ! 全試合で無傷という、ランクA冒険者に相応しい凄まじい戦績を誇る重戦士だ! この試合も無傷で終えてしまうのか?」


 ゴドダルファにも大きな声援が送られるが、同時にブーイングもある。やはりフランの方が人気があるようだな。


 ただ、闘技場内にはゴドダルファの勝ちが決まっているかの様な雰囲気がある。フランを応援する人々もほとんどが、どう善戦するのか。瞬殺されずにどこまでやれるか。そんな感じの期待だった。


 まあ、いくらここまで勝ち上がってきたとしても、ランクAとCだし、仕方ないだろう。


『この空気が変わる瞬間が楽しみだぜ』

「ん!」


 試合場の中央でゴドダルファと向かい合う。以前見た時と装備が全く違っていた。鎧はよりごつく、分厚い、炎の意匠が施された緋色の全身鎧である。真っ黒で威圧感のある戦斧を担ぎ、かなり攻撃的な印象だった。


 しかも鑑定が上手く効かない。鎧の効果だろうか? 俺は天眼を持っているからな、全く見えない訳ではない。ステータスやスキルは確認できた。だが、装備の詳細などは鑑定できない。


「勝ち上がってきたな」

「今日も勝つ」

「その意気やよし。だが、そう簡単に俺には勝てないぞ? 本気で来い」

「当然」


 ゴドダルファにフランを舐める様な素振りは一切ない。むしろ、強敵に向ける様な鋭い視線でフランを睨んでいた。


 ここで実況がルール説明を始める。


「今大会では獣王様のご厚意で、準々決勝から時の揺り籠が使用されます!」


 時の揺り籠と言うのは、一定範囲内の時間を巻き戻す魔道具だ。この大会では、どちらかの出場者が死亡した時に発動するようになっている。凄まじく高価なので、例年では準決勝からの使用となるらしい。だが、今年は獣王がスポンサーとして大金を出資したことで、準々決勝から使用が可能になったようだ。


 つまり、どれだけ派手にやり合おうが、たとえ死亡しようが、時間を巻き戻して無かったことに出来るのだ。しかも記憶などはそのまま残るという。


 また、場外負けが廃止され、死亡か降参、もしくは相手を無力化するまで戦闘は終わらない。


 さらに、観客席と闘技場の間には幾重にも結界が張られ、観客が守られている。まあ、好きなだけ全力でやり合えってことなんだろう。


「言っておくが、俺は黒猫族だからと言って侮らない。なにせ、その黒猫族に長年鍛えられてきたからな」

「望むところ」


 フランがそのやる気を示すように、俺を抜き放ち軽く振る。


「ほう? それが魔剣か。なるほど、ただの剣ではないな」

「そっちこそ鎧がカッコイイ」

「これこそ我が戦装束。つまり、本気の証。鑑定遮断に、自動回復能力、魔術耐性まで持つ、神級鍛冶師の手による作。神剣には及ばぬものの、凄まじい能力をもつ魔導鎧だ」


 おいおい、そんな物まで待ち出してきてるのかよ! 一応俺も神級鍛冶師の作かもしれないと言われたことがあるが、相手はマジもんの神級鍛冶師の作った鎧だ。


 俺もそれなりに強い自信があるが、あの赤い鎧は俺並の特殊能力を秘めている可能性があるってことか……。嫌な予感だけしかしないんですけど!


「最初から本気で叩きつぶすつもりでいくぞ! 覚醒!」


 ゴドダルファがそう叫ぶと、僅かに見えていた皮膚が灰色に染まっていくのが見えた。


「おおーっと! 獣人族の奥の手、覚醒だ! なんと、試合前から覚醒するのは初めてだぞ! それだけ本気という事か? では、第一試合、始め!」


 最初から覚醒状態か!


 ゼフメートと違って、ステータスに変化が無い。だが、その代わりにスキルが大幅に強化されていた。高速再生のレベルが8に上がり、筋肉鋼体、超反応、皮膚硬化という厄介そうなスキルが追加されている。それだけではなく、全身に高密度の魔力が巡っているのが分かった。



名称:ゴドダルファ  年齢:44歳

種族:獣人・白犀族・黒鉄犀

職業:断斧闘士

ステータス レベル:72/99

HP:1256 MP:322/422 腕力:664 体力:582 敏捷:267 知力:173 魔力:247 器用:299

スキル

威圧:Lv8、怪力:Lv8、拳闘技:Lv5、拳闘術:Lv5、気配察知:Lv3、高速再生:Lv8、剛力:LvMax、棍棒技:Lv6、棍棒術:Lv6、採掘:Lv8、再生:LvMax、状態異常耐性:Lv7、瞬発:Lv3、精神異常耐性:Lv7、属性剣:Lv8、大地耐性:Lv4、突進:Lv7、斧技:LvMax、斧術:LvMax、斧聖技:Lv6、斧聖術:Lv7、魔力感知:Lv3、気力制御、筋肉鋼体、ゴブリンキラー、超反応、痛覚鈍化、ドラゴンキラー、皮膚強化、皮膚硬化

固有スキル

覚醒、衝波



「ぬんぬんぬうぅぅん!」


 開幕と同時に、ゴドダルファがその場で斧を振り回した。すると、斧から発生した3発の衝撃波がフランに襲い掛かってくる。


 牽制のつもりなんだろうが、脅威度Cくらいの魔獣だったらこれだけで消滅するだろうな。


『フラン、行くぞ!』

「ん」

『エクスプロージョン!』


 迎撃の為に魔術を放つ。火球と衝撃波がぶつかり合い、爆炎と土煙を生んだ。炎の花が舞台を赤く染め上げる。


 その煙と爆風に紛れる様に、俺は転移を発動した。転移地点はゴドダルファの真後ろだ。


「しぃっ!」


 そして、転移と同時にフランが空気の鞘からの抜き打ちでゴドダルファの首を狙った。完璧な奇襲である。当然、属性剣や振動牙等も発動済みの、必殺を期した一撃であった。


「ぐがぁ!」


 全く反応できていないゴドダルファの首筋に、俺の切先が吸い込まれる。肉と骨を断つ感触が刀身に伝わり、血飛沫が舞った。


 だが、俺は喜べない。首を斬り裂く感触の前に、魔力の壁と、分厚く硬い皮膚と筋肉、強固な鎧に威力を減衰させられたのが分かったからだ。


 首を斬り飛ばすつもりで繰り出された攻撃は、ゴドダルファの首を半分ほど斬り裂いた時点で止められてしまっていた。


 恐ろしい防御力だ。だが、これはチャンスである。ここで刀身を針状態にして止めを刺してやる! 今なら内部から攻撃できるからな。


 しかし俺が変形するよりも早く、ゴドダルファが反応していた。


「衝波ぁ!」

「がぁっ!」


 ゴドダルファの全身から魔力が放出され、俺たちは一気に吹き飛ばされる。


 首を剣で切断されかかっているんだぞ? それなのにこの冷静な対応だ。動揺はないのかよ!


 単に距離が開いてしまっただけではない。今の衝波を食らっただけで、フランの生命力が大きく削られていた。俺の耐久値もだ。多分、ゴドダルファが最初に放った斧技よりも威力が高かっただろう。


 血を吐きながらもゴドダルファの追撃をかわすフラン。


「がふっ……」

『グレーターヒール!』

「ふぅ……ふぅ……」

『大丈夫か?』

「大丈夫っ」


 分かっちゃいたが、ゴドダルファの攻撃はどれ1つとしてまともに受ける訳にはいかないな。


『いきなりの覚醒は驚いたが、初撃で決める作戦は失敗か……。仕方ない、まずは奴の防御力を剥ぐ』

「わかった」


 俺は事前に決めてあった通り、残っているポイントをあるスキルにつぎ込んだ。


『ただ、奴の鎧が予定外だ。どんな能力を持っているかも分からん。削り合いになるぞ。一発にだけは気を付けるんだ』

「ん!」

「どらぁぁぁぁぁ!」

「ちっ!」

『もう回復しやがったか!』


 直後、ゴドダルファが飛びかかってくる。あれだけの傷がもう癒えたか。恐ろしいな。


 そこからは一転して激しい攻撃の応酬となった。手数のフランと、一撃のゴドダルファ。


 ゴドダルファの攻撃は全てが斧技のようで、振り抜いた後に衝撃波が走る。闘技場を覆う結界に防がれているが、結界がなかったら観客に100人規模で死者が出ているだろう。とてもではないが、あれをまともに受け止めたら俺の耐久値がまずいことになる。故に、フランは全ての攻撃を回避するか、受け流していた。


 対するフランの攻撃は、鎧の継ぎ目や隙間を狙っているが思う様なダメージは通らなかった。しかも多少の傷はすぐに再生してしまうため、ダメージが全く蓄積しない。


 鎧の破壊を狙ってもみたが、傷が直ぐに修復されてしまった。まあ、俺や黒猫シリーズも自動修復能力を持っているし、高位の魔道具には付いている物なのかもな。


 時折魔術も放ってみるが、魔術耐性があるというのも本当らしい。殆ど効果を発揮せずに打ち消されてしまう。元々物理的な防御力の高いゴドダルファがこの鎧を装備すると、まるで要塞である。


「はぁぁ衝波ぁぁぁ!」


 ゴドダルファは接近状態から固有スキルである衝波を放ってきた。全身から放出される高威力の魔力と衝撃の波。単純だが、本当に厄介なスキルである。


 接近戦で使えばダメージを与えつつ相手の体勢を崩すことが出来る。中、遠距離では障壁の代わりにもなるだろう。


 魔力と物理の複合攻撃だから、物理攻撃無効でも完全には防ぐことはできないしな。


 今回は障壁で防いだが、ダメージ無しとはいかない。この膠着がゴドダルファの狙いだったようだ。この削り合いは体力で劣るフランに不利である。それを分かっていて、ゴドダルファは持久戦を狙っているのだ。


 そうはさせるか!


『ウルシッ!』

「ガウ!」

「むっ! 召喚魔術まで使うか! だが幾ら手数を増やしたところで、並の攻撃で俺の守りを崩すことは出来ん!」


 それは分かっている。ウルシは確かに強いが、どちらかと言えば手数で攻めるタイプだからな。だが、俺たちの狙いは他にあるのだ。


『フラン、このままでいいぞ! 作戦通り、奴の魔力を吸収できている!』

(ん!)


 そう、俺が今レベルを上げたスキルは魔力吸収スキルだった。ポイントが足らず、Lv9までしか上げていないが、それでも十分な効果を発揮してくれている。


 コルベルト戦でも分かったが、物理攻撃無効は無敵ではない。魔術やそれに類する攻撃は無効化できないし、消費も大きい。


 その欠点を補うスキルが魔力吸収だった。相手の魔力を吸収して消費を少しでも抑え、魔力による攻撃も吸収して弱めることが出来る。


 コルベルト戦でこのスキルのレベルを上げなかったのは、レベルを上げたとしてどこまで有効か未知数だったからだ。あの時はスキルレベルが3であったが、レベルを上げてもどこまで吸収率が上がるかもわからない。そんな不確かな賭けに貴重なポイントを使用する訳にはいかなかったのだ。


 それに、あの時点では起死回生の手がまだ残っていた。それもあり、魔力吸収のレベルを上げるのをためらってしまったのだ。


 そんな俺たちが魔力吸収を上げる決心をしたのは、ディアスやルミナに魔力吸収スキルについて尋ねたところ、高レベルになるとかなり厄介だという話を聞けたことが大きいだろう。


 ルミナが危険視するほどの威力だ。これは期待が出来た。


 実際、今もゴドダルファの魔力をじわじわと吸収している。ウルシを呼び出して攻撃させているのも、再生をガンガン使わせて出来るだけ早くゴドダルファの魔力を枯渇させるためだった。


 属性剣・暗黒も使い、とにかく魔力を削ることに全力を傾けている。ダメージはほとんど与えられていないが、当てるだけでも少しずつ魔力を奪えていた。鎧の自動魔力回復効果よりも、俺たちが魔力を奪う方が速いようだ。


 このまま魔力を枯渇させ、覚醒が解けてスキルの守りが無くなった瞬間、必殺の一撃を叩きこむ。それが俺たちの作戦だった。


「むぅ? これは……!」


 どうやら自分の消耗に気づいたらしいな。とは言え、俺に魔力を吸収されているとは気付けていない様だ。ただ、それでも冷静さは失わない。現状を把握すると、即座に戦略を変更しやがった。


「ぬおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 ゴドダルファが突如、自棄にでもなったかと思うほど、防御を完全に捨てた大振りの一撃を大上段から振り下ろしてきた。まともに食らえばフランなんて一発でミンチだろうが、こんな大振りを躱せないはずもない。


 だが、ゴドダルファは最初からフランを狙ってなどいなかったのだ。


「グランド・シェイカァァー!」


 その狙いは最初から舞台であった。斧が叩きつけられた舞台中央付近から放射状のヒビが広がり、舞台の端まで到達している。


 そして、斧が舞台に叩きつけられた瞬間、大きな振動が発生してフランとウルシの足元を揺さぶっていた。局地的な地震を起こして相手の足を封じる技だったらしい。震度で言ったら7は確実か? フランたちも足を止めざるを得ない威力だ。


「む!」

「オオゥ?」

『舞台を狙ったのか!』


 俺がそう思った瞬間には、今まで舞台に突き刺さっていたはずの斧が、フランの胴体に叩きこまれる直前だった。ここまでのゴドダルファからは想像できない速さだ。超反応と、速度を優先した武技の効果だろう。時空魔術で時間を加速させている俺でさえこの様だ。地震によって足を止められたフランに、対応する余裕はない。


『ショート・ジャンプ!』


 俺はとにかく転移を使って逃げたが――。


「げぶ……っ」

『グレーター・ヒール! グレーター・ヒール! グレーター・ヒール!』


 3回戦でコルベルトに勝利した時とは逆の構図だった。すなわち、胴体を半ばまで斬り裂かれ、傷口から内臓と血液が溢れ出している。口からは大量の血と胃液を吐き出し、ショック死しないのが不思議なほどだった。


『フラン!』

「へ、いき! ……ぶっ」


 時の揺り籠が発動する前に、何とか回復させることが出来たらしい。フランは口の中に溜まっていた血を吐き出し、ゆらりと立ち上がった。


「おらあぁぁぁぁ!」

『話してる暇もないな!』


 回復されたことに動揺することもなく、ゴドダルファがその巨体を揺らして追撃に向かってきている。


(今度はこっちの番!)


 胴体を切断されかかった直後だというのに、フランの戦意に衰えはない。むしろ、闘志はより増していた。



書籍版が発売して2週間。

読んだよーという感想を未だに頂き、本当にありがたいです。

店舗特典でSSが付くお店もありますので、未読の方はぜひ!

SSは一応6種類存在していますので。

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