18 VSドナドロンド
俺たちは冒険者ギルドの訓練場で、試験官というおっさんと向かい合っている。凄まじい威圧感だ。
俺が人間の体のままだったら、土下座して命乞いをしてるかもしれん。剣で良かった。
さて、どんな感じの奴なんだろう。
名称:ドナドロンド 年齢:46歳
種族:鬼人
職業:大戦士
状態:平常
ステータス レベル:38
HP:346 MP:173 腕力:178 体力:163 敏捷:101 知力:90 魔力:81 器用:116
スキル
威圧:Lv4、運搬:Lv3、回復速度上昇:Lv5、危機察知:Lv4、教導:Lv4、気配察知:Lv3、再生:Lv4、瞬歩:Lv3、土魔術:Lv2、投擲:Lv5、毒耐性:Lv7、伐採:Lv4、斧技:Lv7、斧術:Lv8、咆哮:Lv3、起死回生、気力操作、筋肉鋼体、自動HP回復、腕力小上昇
称号
ギルド教官
装備
重錬鋼の大斧、黒鉄王亀の全身鎧、暴牙虎のマント、石竜の靴、身代りの腕輪
うげぇ! 強いんですけど! ステータスでは完敗だ。このオヤジ、肉体の能力だけでレッサー・ワイバーンを上回るぞ。しかもスキルも多彩で、高レベル。武具も高ランク。
名称:重錬鋼の大斧
攻撃力:650 保有魔力:3 耐久値:650
魔力伝導率・E+
スキル:なし
攻撃力650? ふざけんな! 悔しくなんてないんだからね!
種族も鬼人とかいう、かっこいい種族だし。教官の肩書は伊達じゃないな。ここまでに見た冒険者たちじゃ、足元にも及ばない。
こいつが本気で来るって、まじ? 初心者の試験なんだろ? 普通の初心者だったら、何もできずに負けると思うが……。まあいい、やるだけやってみよう。勝たなくても、実力を見せれば良いっていうしな。
『フラン、準備はいいか?』
「オッケー」
「では、いくぞ!」
ドナドロンドの姿が霞んだ。
そして、フランがとっさに横に飛ぶ。
ゴウ!
「ほう、避けたか!」
『っぶなかったー!』
気づいた時には、真横にいて、斧を振りかぶっていたのだ。その巨体からは想像もできないスピードだ。しかも、地面の抉れ具合から見ても、威力は十分。
「ぬん!」
さらに、踏み込んで、斧を叩きつけてくる。
ドゴォン!
再び地面が抉れて、土石が礫となって散乱した。風圧でフランの前髪がなびく。
おいおい、今の一撃、ヤバくなかったか? 掠っただけでも。大けがだ。やりすぎだろ! こんな試験、合格する奴いるのか?
『逃げてるだけじゃやばい。攻撃するぞ!』
様子見はしない。あのヤバい攻撃を喰らう前に、最高戦力を叩きつける。殺す心配はない。圧倒的に向こうが強いし、HPが0になった時に1度だけ身代りになってくれる腕輪まで装備しているしな。
「はっ!」
「ほう、速いな!」
あっさり斧で受け止められた。俺がこっそり使った補助魔術で、敏捷や腕力を底上げしているが、それでも相手の方が強いし。
だが、これが本命ではないのだよ。
フランの連続攻撃を防いでいるうちに、ドナドの足元の地面が盛り上がると、触手の様に下半身に巻きつく。
「ぬぅ! 詠唱破棄だと!」
ふふん。驚いてるな。まあ、フランに呪文を詠唱している素振りはなかったしね。
実は、俺が魔術をこっそり詠唱して発動しているだけなんだが。フランへ対処しなければならないドナドロンドは、足元の魔術を避けることができなかった。逆に、その場から飛びのくような素振りがあれば、フランの大技が炸裂していた。
足止めをされたドナドだが、上半身の動きだけで、フランの攻撃を受けていやがる。だが、これは受けられんだろう。喰らいやがれ。
「――トライ・エクスプロージョン」
「ぬおおぉ!」
Lv10の火魔法が、ドナドロンドを飲み込んだ。三方向で同時に起こる爆発は防ぎきるのが難しい上、視界も奪う。もちろん、フランが唱えたように見せかけて、この術の発動も俺だ。
という事は、フランは俺の詠唱中に、剣技を溜めておけたという事である。
「ふぅぅぅ。ドラゴン・ファング!」
剣技Lv7の突き技。しかも、振動牙の上乗せ付きだ。爆風で身動きの取れないドナドの巨体に、フランの小さな体が突進していく。
フランの放った技の正体に気づいたのだろう。ドナドロンドは目を見開き、驚愕の表情を浮かべていた。
「こんな少女が……!」
だが、身動きの出来ないドナドは躱せない。
「終わり」
「ぐがあぁっ!」
俺がドナドの脇腹を貫き、さらにその巨体を吹き飛ばした。
ドォン!
総重量が200キロはありそうだったが、10メートル近く吹き飛ばされ、訓練場の壁に半ばめり込む形で埋まっている。
魔獣にしか使ったことがなかったけど、人相手に使うとこうなるのね。
しかし、やりすぎたか? 死んでいないとは思うが。
「……ごふ……っ」
良かった、生きてた。ドナドロンドは口から大量の血を吐きながらも、意識は保っているようだった。
フランがゆっくりと近づいていく。回復魔術でも使ってやるのか? そして、何をするかと思って見てたら、俺をドナドの眼前に突き付けた。
「合格?」
うん、冷静な判断だ。俺ってば、試験だってことをすっかり忘れてたよ。
「……かは、は。合格だ」
「そう」
こいつ、まだ動けるのかよ。どんだけ頑丈なんだ。脇腹貫かれてるんだぞ。
だが、俺の驚きを余所に、ドナドロンドは壁から抜け出し、いきなり笑いだした。ステータスを見ると、すでにHPが300近くまで回復しており、脇の傷もふさがり始めているようだ。
「はははははは! 俺にここまでダメージを与えた新人は初めてだぞ」
まじで化け物級の頑丈さだ。こいつを殺しきれる奴なんかいるのか?
「ドナドロンドさん!」
轟音を聞いたのだろう。受付嬢が駆け込んできた。
「あまり無茶なことはしないで――。え?」
ああ、なるほど。このオヤジが、初心者相手にハッチャけたと思ったわけか。まあ、フランが教官をブッ飛ばした音だとは思わんよな。
「え? ええ?」
受付嬢は血まみれのドナドをみて、本気で驚いているようだった。