17 俺なまくら疑惑
ランデルに教えてもらった、冒険者ギルドへの道を歩く。
うーん、綺麗な町だな。中世ヨーロッパ的な町だ。いいね、ファンタジー感が半端ない。
それに、この世界に来て、初めてこんなに大勢の人間を見た。それだけでも、テンションが上がってきてしまう。
さらに俺を興奮させるのが、人間の中に混じって歩く、異種族の方々の姿であった。ケモミミケモシッポを生やした獣人のおっさんや、イメージをぶち壊すキョニューなエロフ――もといエルフのお姉さん。髭もじゃのドワーフなど、多種多様な種族が通りを歩いている。
そういった人々に紛れて、冒険者風の男たちの姿もチラホラと見かけることができた。
ステータスを確認してみると、さすがにフランよりも弱い奴はいないな。同じくらいの奴は結構いるが。
しかし、スキルのレベルと量は俺たちが圧倒している。見かけた中で、1番スキルレベルが高かった冒険者でも、剣術Lv5が最高だった。俺の剣術Lv7の異常さがよく分かるな。
スキルを使いこなせば、ステータス上で格上の相手にも、勝つことが可能だ。それは、平原での戦いで、理解している。
むしろ、多少のステータス差など、スキルの差の前では無意味と言える。それで考えれば、フランが冒険者としてやっていくのは、問題なさそうだ。
ただ、俺は違うことで、落ち込まずにはいられなかった。
それは、冒険者の持つ、武器の性能を見てしまったからだ。
名称:上質の鋼のロングソード
攻撃力:398 保有魔力:5 耐久値:600
魔力伝導率・F
スキル:なし
俺と同じロングソード。それでいて、攻撃力が俺よりも勝っていたのだ。それ以外で勝っていると言っても、何の慰めにもならない。剣として、負けた気分である。
さらに追い打ちをかけるのは、その素材だ。上質の鋼。つまり、ミスリルやオリハルコンと言った、伝説上の金属ではなく、単なる鋼に負けたという事実。それが、俺を打ちのめしていた。
その後も、ことごとく高い攻撃力を誇る武器たちが、俺の目に飛び込んでくる。5人に1人くらいは、そんな武器を持っているのだ。
そして極め付けが、目の前を歩く男の腰にぶら下がっていた。
名称:ミスリル合金のダガー
攻撃力:423 保有魔力:20 耐久値:700
魔力伝導率・D+
スキル:なし
『は、はははは……』
もう、笑うしかない。ああ、俺って鈍らだったんだ。魔獣を倒して粋がってました。俺など所詮、話せるだけの、装飾過多の剣にすぎなかったのだ。
「どうしたの」
『ああ、フラン。俺はもうダメだ』
「?」
俺はフランに説明した。俺など、スキルが無ければそこらへんの武器にも劣る、駄剣なのだという事を。きっと、金持ちが金に飽かせてつくった成金ソードなのだ。
ナデナデ
説明を終えた俺を、フランがナデナデしてくれる。
『フラン……』
「ん」
『俺なんかを慰めてくれるのか?』
「師匠にはスキルがある」
ええ娘や! そうだな、攻撃力は市販品の剣に劣る駄剣でも、スキルによるサポートは可能だ。むしろ、それしか価値がない。決めたぞ、スキル王に、俺はなる!
ただ、俺みたいな鈍らじゃなくて、ちゃんとした剣を買ってやりたいね。今は俺を使ってもらうしかないが、いつか強い剣を買ってやろう。
そのためにも、冒険者ギルドに登録して、バリバリ金を稼がないとな!
『よし、心配かけて悪かったな。もう大丈夫だ。冒険者ギルドに行こうぜ』
「ん」
道中、俺のせいで余計な時間を喰ってしまったが、ようやっとたどり着いたぞ冒険者ギルド。
『でかいな』
その建物は、周辺の施設と比べても、かなりの大きさだった。それだけ冒険者の数も多いということなのだろう。
『たのもう!』
気合を入れる。ま、誰にも聞こえないけどね。
中は思ったよりも清潔だった。もっとこう、場末の酒場みたいな、威圧感たっぷりの内装を期待していたんだが。少しだけお高いホテルのフロントみたいである。
まあ、余りにもひどかったら、ギルドの評判にもかかわるだろうしな。
ただ、入ってきたのが12歳の少女一人という事で、かなり注目を集めていた。カウンターに向かう間も、周囲にいる冒険者たちの視線が付いてくる。
「登録がしたい」
「あ、はい。お1人ですか?」
「1人」
「ここは冒険者ギルドですが……」
「知ってる」
いくらこの世界でも、12歳の少女が、1人で冒険者登録に来るのは珍しいらしい。これが、武器防具も万全で、12歳だけど幼い頃から鍛錬してます的な雰囲気があったり、狩人としてブイブイ言わせてますけど何か? 的な子どもだったらまだましだったのだろう。
フランは防具も身に着けていない。むしろ、ボロボロの格好で、どう見ても逃亡奴隷にしか見えないだろう。
あまりにも場違いすぎた。
立ち直った受付のおねーさんが、説明をしてくれる。
「登録は誰でもできる訳ではなく、テストがあります」
「ん」
「実戦形式のテストとなりますが、よろしいですか?」
「いい」
「本当によろしいのですか? 怪我をする場合もありますが」
「平気」
「何があっても、当ギルドは責任を負いませんが」
「大丈夫」
「そう、ですか……。分かりました、少々お待ちください」
フランがテストを受けることが分かったのだろう。冒険者たちがザワついている。
絡んでくる者はいないが、あまり歓迎されている雰囲気ではなかった。こんな子供が冒険者になろうだなんて、舐められたもんだな的な雰囲気だ。
当然だよな。俺だって彼らの立場なら、同じように感じていただろうし。
『大丈夫か? フラン』
「?」
『いや、分かってないならいい』
しばらく待っていると、受付嬢が戻ってきた。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「ん」
案内されたのは、ギルドの裏手にある、四方を壁に囲まれた広いグラウンドだった。ギルドの訓練場らしい。
その訓練場に、厳つい男が立っている。2メートルはあるだろう。しかも、黒くてトゲトゲのゴツイ全身鎧を着こみ、まるで世紀末覇王だ。脇に立てかけてある巨大な戦斧が、その威圧感をさらに倍増させていた。背後からゴゴゴゴっていう効果音が聞こえてきそうだ。
普通の子どもだったら、目を合わせただけで泣き出すだろう。魔獣の威圧感に慣れているはずの俺でさえ、ちょっと驚いたからな。
「お前が登録希望者か?」
うぉー。睨まれただけで、凄い威圧感。
「ん」
しかし、フランに怯えた様子はない。いつも通りの態度だった。うちの娘は大物だ!
「俺が試験官の、ドナドロンドだ」
ドが多すぎだろ。言いづらい。ドナドでいいや。
「試験内容は簡単だ。俺と戦ってもらう。あまりにも簡単に敗北するようでは、合格はやれん!」
「わかった」
「言っておくが、俺は手加減が苦手だ。本気で行くからな。怪我したくなければ、今すぐにでも立ち去れ!」
ドナドロンドが叫んだ瞬間、凄まじい圧力が俺たちにのしかかった。明らかに威圧のスキルを使ってるよな? 戦いはもう始まってるってことか?
『よし、いっちょやったるか!』
「ん!」




