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182 整理してみよう

 ランクアップ手続きを済ませた俺たちは、宿に戻ってきていた。


『ついにランクアップしたな!』

「ん」

『お祝いだ。今日はカレー食べ放題! しかもトッピングは好きなだけオーケーだ!』

「ん! からあげトンカツハンバーグカレー温玉載せ超盛で」


 フランに言われるがままに盛り付けていったら、メガ盛りチャレンジメニューみたいになっちゃったぞ。まあ、フランが喜んでるからいいか。


『無理するなよ』

「だいじょうぶ」

『で、ウルシには約束の超激辛カレーだ』

「オンオン」


 元々あった激辛カレーに、さらに激辛スパイスなどをぶち込んだ超激辛なカレーをウルシに出してやる。グツグツと煮える真っ赤なカレーは血の池地獄の様だが、ウルシは涎を垂らしてカレーを見つめていた。


 いやー、たとえ体があったとしても、あれはいらないな。フランでさえ欲しがらない。


 カレーをあっさりと平らげたフランたちに食後のアイスクリームを出してやりながら、俺はこれまでに分かったことを改めて整理していた。ああ、俺が神級鍛冶師に作られたかもしれないと言うのは取りあえず置いておくぞ。フランの進化には関係ないしな。



 始まりは500年前。当時の黒猫族は十始族として権勢を振るっており、獣王、もしくはそれに近い権力階層であった。


 だが、何らかの大罪を犯し、神様の怒りをかって罰を与えられてしまう。そのせいで進化に何らかの枷をかけられ、以後500年、誰も進化できなかった。


 また、力を失った黒猫族を金獅子――つまり赤猫族が追い落とし、彼らが獣王の座を得る。赤猫族は配下の青猫族を使って黒猫族を迫害し、力を削いでいったらしい。あと、進化に関することが書かれている本などを焼いて、黒猫族が再び進化できないように画策したようだ。


 青猫族が赤猫族に大人しく従っているのは、向こうが十始族で格上扱いだからだろう。


 そして、今では黒猫族が進化できたという事実は忘れ去られてしまった。獣王家による焚書と、神の記憶操作が大きな理由だろう。ルミナ以外にどれだけの者が覚えているか。


 だが、今から53年前、進化の謎に大きく迫る黒猫族の少女、キアラが現れる。


 彼女はルミナと接触し、何らかの理由で進化の条件を知ったらしい。そして、進化をするためにディアスたちに協力を求めるが、詳しい説明をする前に突如として失踪してしまう。


 キアラと仲が良かったディアス、オーレル、ルミナは彼女の行方を捜し、様々な情報を集めた。その結果、彼女の失踪に現獣王家と、その配下の青猫族たちが絡んでいるのではないかと推測する。ディアス達は確信してるようだが、証拠はないようだ。


 まあ、獣王家が今でも黒猫族が進化することを恐れているのだとすれば、ありえないことではない。ディアス達の獣王に対する高い敵意も、キアラの失踪に係わっていると信じているからなんだろう。


 結局、ディアスたちはキアラの行方を掴むことはできなかった。そして、そのことを悔い、いつか現れる2人目の黒猫族を今度は守り切ろうと、密かに決意したらしい。


 詳しくは分からないが、ルミナは進化の手助けをするために魔力を長年に渡り溜めこみ、ディアス、オーレルはルミナが冒険者に滅ぼされない様に様々な方法で彼女を守る。ディアスはギルドマスターにまでなっちまうんだから、相当な執念だよな。


 で、そこにフランが現れた。進化目前の、黒猫族の少女が。俺たちが知らないところで、3人は色々と手を回してくれたみたいだったな。オーレルはルミナに会えるように取り計らい、ディアスはランクアップなどの手助けをしてくれた。ランクC冒険者になれば、冒険者ギルドの力で守れるからだとさ。


 そして、ルミナはフランの進化を手助けするために、何かをしてくれようとした様だ。それが何かは分からないが。


 ダンジョン内に邪人を増やし、何故かフランを追い返そうとした? その後、俺が魔石からスキルを吸収できると知って態度が変わったところを見ると、進化には何らかのスキルが必要なのだろうか? もしかして邪人から手に入るスキルだったのか?


 まあ、情報も少ないし、どれだけ考えたところで推測の域を出ないんだよな。今は武闘大会も近いし、修行をしながら待つしかないか。あと出来る事と言えば――スキルの強化かな。


『フラン、前に考えておけって言った自己進化ポイントの使い道、決まったか?』

「ん」


 本当は昨日の夜に聞くつもりだったが、色々あったからな。


 俺的な予想では、一番可能性が高いのは剣聖術、剣聖技だろう。最も使用率が高く、地力の上昇にも繋がるしね。


 次点で気配察知かな。もう直ぐLvMaxだし、戦闘中に相手の攻撃の察知などに使えることも分かったしな。他には火炎魔術や雷鳴魔術、属性剣が有力候補だろう。


 そう思っていたんだが――。


『何を強化する?』

「鍛冶がいい」


 全然予想が外れてしまった。しかし、なんで鍛冶なんだ? 意外すぎて声を上げてしまったぞ。


『はぁ? 鍛冶?』

「ん」

『何でだ? 今まで鍛冶なんか興味なかっただろう? 武闘大会の直前だし、戦闘系のスキルじゃなくていいのか?』

「いい」


 フランの意思は固いようだった。しかし鍛冶ねぇ?


「師匠の手入れは大事」

『それで鍛冶なのか? 凄く有りがたいが、フランがレベル上げたいスキルを選んでいいんだぞ?』

「鍛冶がいい」


 ということで、俺は鍛冶に自己進化ポイントを割り振った。どこまで上げるかと聞いたら、鍛冶をLvMaxにしたいと言うし、とりあえずカンストさせてみたよ。


《鍛冶がLvMaxに達しました。鍛冶魔術:Lv1がスキルに追加されます》


 鍛冶魔術を覚えたぞ。これで自分の手入れも自分で出来るようになるかもしれないし、悪くないんだが、やっぱり納得が行かないな。


「ん!」

『あ、おい。フラン何するんだ?』

「師匠のお手入れ」

『今からか?』

「ん」


 さすが鍛冶がカンストしただけはある。いつも通りフランが布で拭いてくれているだけなのに、ゼルドに手入れされた時と同じような心地良さが俺を襲っていた。何というか、全身をマッサージされてるみたいだ。


『――あーそこそこ』



 あまりにも気持ちよくて、30分間も磨いてもらっちまったぜ。毎日フランに手入れしてもらえると思うと、嬉しくなってくる。俺はなんて幸せな剣なんだろう。娘に肩叩きをしてもらう父親って言うのは、こんな気分なのかね。


『いやー、生き返った。ありがとうな』

「また磨く」

『おう。頼む』


 とは言え、これじゃあ俺ばかり得している。俺が使う予定だった自己進化ポイントもフランに使ってもらうか。そう提案したんだが、フランは首を縦に振らなかった。


「わたしが選びたくて選んだ。師匠が使って」

『でもなー』

「いいから」


 フランのお言葉に甘えて、俺は剣聖術のレベルを上げることにした。勿論フランのためでもあるが、非常に気になっていることがあったのだ。


 それは、獣王の所持していたスキルである。奴はどうみても槍使いのステータスだった。職業は槍王だし、装備も槍だった。だが、スキルの中には槍術も槍聖術も持っていなかったのだ。代わりに槍王術というスキルが一覧にはあった。


 つまり、槍聖術をカンストさせたら槍王術になるのではないだろうか? では剣聖術なら? これは試してみる価値はあるだろう。


『じゃあ、上げるぞ』


 鍛冶に14ポイント使ったから、残りは30ポイント。剣聖術に10つぎ込んだので、残りは20だな。


《剣聖術がLvMaxに達しました。剣術強化がスキルに追加されます》


 あー、剣王術じゃなくて、剣術強化だったか。まあ、これも十分有用なスキルだしいいけどね。


《条件を全て達成しました。ユニークスキル、剣王術がスキルに追加されます。また、全ての剣術スキルが剣王術に統合されます》

《剣王術を獲得しました。装備者フランが称号、剣王を獲得します》


 なんか色々起きた! 剣王術も取得できたから結果オーライだな。だが、統合ってなんだ? そう思ってステータスを確認したら、剣聖術以外にも、短剣術や曲剣術、刀術などのいわゆる剣術系スキルが全て無くなっていた。


 一瞬悲鳴を上げかけたが、アナウンスさんの言葉を思い返す。統合と言っていたよな?


剣王術:全ての剣を扱うことが可能



 アバウト! 言いたいことは分かるけどさ。


『フラン、ちょっといいか』

「ん?」

『ちょっと形態変形で姿を変えるから、俺を振ってみてくれないか?』

「わかった」


 まずは短剣だ。フランは短くなった俺を握ると、剣舞の様に時にはゆったりと、時には激しく俺を振ってその感触を確かめる。


『じゃあ、次はこうだ』


 次に俺が変形したのは細剣だった。いわゆるフェンシングのフルーレみたいな姿なのだが、これもフランは問題なく扱う事が出来た。まるで長年細剣の修行をし、道を究めた達人の様に、しなりを利用した多彩な攻撃を繰り出す。


「ミョンミョンしてる。面白い」

『違和感はあるか?』

「うーん。ない」

『そうか』


 予想通りだった。剣王術というのは、全ての剣を使用できるスキルらしい。しかも聖術カンストレベルで。これは素晴らしいな。今後は刀モードでも問題ないってことだ。


 よし、次は称号関係だな。


剣王:全ての条件を満たし、剣王術を手に入れた者に与えられる称号。

効果:全能力20上昇。剣術強化スキルの効果が増加。剣に対する目利きが可能。


 以前、英雄の得る称号だと言っていた一騎当千や超大物喰いを上回る称号だった。全能力が20上昇って、それだけでレベルが4、5上昇したのと同じ様なもんだぞ。まあ、剣聖術をカンストさせる人間がそれだけ少ないってことなんだろう。アマンダやフォールンドでさえ、聖術はカンストしてないのだ。


 剣聖術を上げて正解だったな。あと、剣聖技を上げたら剣王技に繋がりそうだというのも分かった。ただ、他に上げたいスキルもあるし、悩むなー。


『フランは他にレベルを上げたいスキルはあるか?』

「うーん。師匠の次元魔術?」


ネット小説大賞の最終結果が発表されましたね。

残念ながら金賞もメディア賞も獲得できませんでしたが、受賞できただけでも十分です。

書籍版の発売まで1ヶ月を切りました。そちらもぜひよろしくお願いします。

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