180 師匠と神剣
書籍版の発売日まで一ヶ月を切りました。ネット小説大賞のホームページで、書籍版「転生したら剣でした」の書影が公開されましたので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。
『なあ、フランを本当に拒絶しているのか?』
「……? なんだ? 今の声は……」
『俺だ!』
「剣が独りでに……! も、もしかして、インテリジェンス・ウェポンなのか?」
『そうだ』
「なんと……実在していたとは」
「師匠、いいの?」
『良くない! でも、もう仕方ないだろう!』
自分から正体をバラしたのは初めてのことだな。正直自分でも馬鹿なことをやってしまったという後悔はある。だが、今はフランのことが優先だ。ここでルミナとの縁を切らせるような真似をさせたくはなかった。
それに、フランが俺のことをルミナに黙っているのを、心苦しく思っているのは感じていた。ルミナに対して隠し事をしているのが嫌だったんだろう。今も少しほっとしているのが分かる。
「そうか……1人ではなかったか……よかったなぁ」
「ん?」
「む、いや、何でもないのだ」
いや、今完全にフランのこと心配してくれたよね。良かったなあって呟いたし。やっぱりフランを遠ざけようとしたのは演技か?
「そ、それよりも! その剣はもしや神剣なのか?」
露骨に話題を変えたな! まあ、本当にフランを嫌っている訳ではなさそうだし、今は乗っておこう。
『残念ながら違う。有名な鍛冶師にもそう言われたし。ちょっと不思議な力のある剣てだけだ。残念ながらな』
「不思議な力とは?」
うーん。どうしよう。思わず不思議な力とか言っちゃったけど、どこまで教えるか。
『フラン、どうする? 俺は、浮いて喋れるだけって言うのが良いと思うが』
(……全部教えてもいい?)
やっぱりそう言うよな。好意を抱いているルミナに対して、隠し事はしたくないんだろう。ルミナから情報が洩れるとしたら、唯一会う機会のあるディアスだろうが、ディアスにはインテリジェンス・ウェポンであるとばれてるし。今さらだよな。それよりも、フランの思う通りにやらせてやりたい。特にルミナに対しては思い入れが違うしね。
『分かった、良いぞ』
(ありがと)
そして、フランはルミナに俺のことを語った。魔石を吸収してスキルを得ると言う事、元々人間であると言う事、何故か魔狼の平原に刺さっていたという事。
まあ、俺としても期待していることがある。相手は500年生きるダンジョンマスターだ。もしかしたら俺のルーツについて何か知らないかと思ったのだ。
「魔石からスキルを得る? そんな力があったとは! そ、それはどんなスキルでもか? ユニークスキルや、エクストラスキルでも?」
『今のところ、魔石から吸収できなかったスキルはないな』
「どんなスキルでも、手に入れることが出来る能力……」
『いや、魔石からなら、だぞ』
「そうか……そうか! ははははは!」
「どうしたの?」
「いやいや、何でもないのじゃ! だがそうか!」
ルミナが急に笑い出した。ちょっと驚いたが、その晴れやかな笑顔を見たら、壊れたわけではないと分かる。
『お前に聞きたい。どうしてフランを拒絶したんだ?』
「我にも色々あるのだ」
『色々って?』
「すまぬ――語れぬ。だが、全てはフランの為じゃった。それは信じてほしい」
つまり、進化に関係する話ってことか。もしかしてフランが進化できるように、何かしようとしてくれてたのか?
『フランを遠ざけようとしていた理由は?』
「それは、傷つけたくなかったのだ。だが、そのせいで余計にフランを傷つけたようだな……フランよ」
「ん?」
「すまなかった!」
ルミナがフランに頭を下げた。笑い始めたと思ったら、直後にこれだ。俺もフランも意味が分からなかった。
「馬鹿な真似をして、お主を傷つけた。本当に済まない。少々先走ってしまったようじゃ」
「ううん。もういい。ルミナは私のこと嫌いになったわけじゃない?」
「勿論じゃ! 我がお主を嫌いになることなどあり得ぬ!」
「良かった」
良かったんだが――やはり謎だ。何か理由があって、フランを遠ざけようとした。しかし、俺の能力を知って、その必要がなくなった? うーむ。ただ、進化に関係あることであるのなら、拒絶した理由を聞くのは無理だろう。
「それにしても、強力な能力だな。本当に神剣ではないのか?」
『神剣にしては弱すぎるって言われたよ』
「神剣が全て戦闘力に秀でているわけではないぞ」
『そうなのか?』
「うむ。ちょっと待っておれよ」
ルミナはそう言って部屋の奥に姿を消した。そして、何かを持って戻ってくる。どうやら巻物のようだ。
「待たせたの。これを見てみよ」
『これは何だ?』
「大昔に手に入れた、神剣の一覧だ。不完全だがな」
『なに? まじか!』
メチャクチャ興味があるぞ。そこには確かに何かの名前が順番に示してあった。
始神剣 アルファ ウルマー
狂神剣 ベルセルク ディオニス
×智慧剣 ケルビム エルメラ
戦騎剣 チャリオット フォルカン
魔王剣 ディアボロス ディオニス
探神剣 エクスプローラー エルメラ
×狂信剣 ファナティクス ディオニス
大地剣 ガイア ウルマー
×聖霊剣 ホーリーオーダー ウルマー
獄門剣 ヘル フォルカン
煌炎剣 イグニス ウルマー
×断罪剣 ジャッジメント ウルマー
蛇帝剣 ヨルムンガンド ファーゴ
水霊剣 クリスタロス ウルマー
暴竜剣 リンドヴルム ファーゴ
×核撃剣 メルトダウン フォルカン
月影剣 ムーンライト クルセルカ
魔導剣 ネクロノミコン エルメラ
聖譚剣 オラトリオ クルセルカ
偽善剣 パシフィスト ディオニス
虹翼剣 ケツァル――
これが神剣の名前なのだろうか。だが、×が付いている物もあるし、最後に記してあるものについては書きかけである。あと、神剣の名前の後ろの、人名っぽいのは何だ? 制作者?
「神託書記というエクストラスキルを知っているか?」
「知らない」
「魔力を対価と引き換えに、神が質問に答えてくれると言うスキルだ。そのスキルの使用者を依代に、あらゆる疑問に対する答えを神が書き記してくれる。これはそのスキルによって神剣の在処を探そうとした時に生み出された巻物じゃよ」
でも、全然書き途中なんだが。途中でスキルを解除したのか?
「どうやら神剣の情報を知るには術者の魔力が不足だったようでな。そこまで書き記して事切れてしまったのじゃ。魔力が切れた後は生命力を吸われたようでな。結局在処はおろか、名前と制作者の名前すら全てを知ることは出来んかった」
『×が付いてるのは?』
「どうやら何かの理由で消滅した神剣のようだ。神剣を破壊できる様な存在が居るかは疑問だがな」
つまりケルビムとファナティクス、ホーリーオーダー、ジャッジメント、メルトダウンはもう存在しないってことか。結構破壊されるもんなんだな。
「それに、これが作られたのは500年以上前。また入れ替えが起きている可能性もある」
「なるほど」
「で、本題だが、エクスプローラーという名前があるだろう?」
「探神剣」
「うむ。これも神託系のスキルになるが、名称索引というスキルがある。名前さえ分かれば、その物についての詳細を知れると言うスキルだな。対価は魔力じゃ」
『嫌な予感がする』
「まあ、お主らの想像通りだな。エクスプローラーについて知ろうとして、術者は命を落とした」
『やっぱりね!』
「だが、死ぬ直前に詳細を書き残しておったのだ。このエクスプローラーと言う神剣は、装備者に強力な探知スキル、察知スキルを授けるが、剣の戦闘力自体はそれ程でもないらしい。それこそ、その辺の魔剣並じゃ」
『まじか?』
「うむ。なので、神剣とは言え戦闘力が無い物も存在するぞ。ただ、お主の場合は名が無かったのだろう? 神剣であれば、神から授けられた名前があるはずだ。それが無いと言うことは神剣ではないと思う」
ですよねー。まあ、俺もこの神剣一覧を見てそうじゃないかと思った。でも、今となってはフランに付けてもらった師匠という名前に誇りがあるからな。むしろ他の名前とかノーセンキューである。
「気を落とすな。神剣ではなく単なるインテリジェンス・ウェポンだったとしても、伝説級の武器だ。十分に凄いぞ」
「ん。師匠は凄い」
慰めてくれるのは嬉しいが、なんかこそばゆいな。
『ルミナは俺の製作者とかについて、何か知ってることはないか?』
「分からん。インテリジェンス・ウェポンを見たのも初めてじゃからな。魔狼の平原の祭壇についても詳しくは知らん。だが、1つ確かなことがあるぞ」
『なんだ?』
「お主の様な存在を生み出せるのは神級鍛冶だけだ」
『でも、俺は神剣じゃないぞ?』
「神級鍛冶師とて、神剣だけを作っておるわけではない。そもそも、神剣はこの世に26本だけ存在することを神に許された超兵器ぞ? そうポンポン生み出すことは出来んはずだ。これは都市伝説の類となる話だが、神剣を生み出すには準備に10年以上かかるらしい」
『準備に10年? なにをするんだ?』
「さてな? 言ったであろう。都市伝説だと。我とて詳しい話は知らん」
『さいですか。まあ、俺は神剣を作る合間に作った手慰み的な作品てことか?』
「その可能性があると言う事だ」
神級鍛冶師の様な凄い存在に作られたことを誇ればいいのか、神剣じゃないことを嘆けばいいのか、分からんな。
でも、神級鍛冶師について調べれば、俺のルーツについても分かるかもしれない。それが分かっただけでも良しとしておこう。




