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178 ロイス

 獣王との不意の遭遇から30分。


 俺たちは宿屋の部屋に戻ってきていた。


『今日はもう休むか?』

「だいじょうぶ」


 そう言って首を振るフランの顔には、ようやく余裕が戻ってきた様に見えた。獣王から距離を取ったことで、調子が戻ってきたかな。


『そうか? 無理するなよ』

「ん。お風呂入ってくる」


 フランは風呂が好きだからな、気分転換にちょうどいいだろう。


 それに、戻ってくるまでに最低でも30分はかかるはずだ。いつもならスキルの練習をして待っているんだが、今日はその間にやりたいことがあった。


『ウルシ、奴らを鑑定しに行くぞ』

「オン?」

『奴らが冒険者ギルドから出てくるのを待ち伏せて、一瞬だけ鑑定する。あとは跳躍で逃げればいい』

「オウン……」

『大丈夫だ、戦いに行く訳じゃないんだからな』

「……クゥ……」


 ウルシも獣王相手にビビッているな。だが、できれば奴らの能力を把握しておきたい。最悪、敵対する可能性もあるのだ。


 単に戦闘力が高いだけだったら、逃げ切ることは難しくないだろう。だが追跡系の能力を持っているのであれば、色々と工夫する必要が出てくる。今後取得するスキルにも影響する重大事案だ。


 とりあえず、獣王とゴドダルファは戦闘系で、追跡や探索系はそこそこだった。まあ、それだって相当高レベルだが、俺たちなら逃げ切れる。問題は鑑定し損ねたもう一人の護衛と、御者だろう。


 それに、影から獣王たちを護衛するような忍者的な存在がいないとも限らないし。


『お前が奴らに近づく必要はない。むしろ離れたところで待機してればいい』

「……オン」

『気配を探って、もう冒険者ギルドに居なければ諦めるから』

「……オン」


 こいつ、渋々な感じだな。それだけ怖かったってことなんだろうが。しかたない。ここはご褒美作戦だ。


 本当は犬を躾ける時にご褒美で釣るのはいけないらしいが。それ目当てでしか言う事を聞かなくなってしまうらしい。まあ、ウルシは魔獣だしな。時々忘れそうになるけど。


『帰ってきたら、超激辛カレーを作ってやる。フランでも食いたがらないくらいの、地獄激辛味だ』

「……グル!」


 よし、やる気スイッチが入ったみたいだ。


『行くぞ』




 俺はある民家の屋根の上に潜んでいた。ここからだと冒険者ギルドの入り口がはっきり見えるのだ。


 ウルシはさらに離れた場所で隠れている。俺だけなら剣だからな。スキルで気配を遮断すれば、気づかれる恐れは低いだろう。獣王の護衛が鑑定察知を持っていたとしても、鑑定能力を持った謎のアイテムとしか思われないという寸法だ。察知されても鑑定をしたことがバレるだけで、隠れている俺の姿形がバレる訳でもないし、後々フランの背負った剣があの時の鑑定能力付アイテムだと疑われる危険性はないはずだ。


 まあ、念のために形態変形で姿を変えておこうかな。とりあえず出来るだけ小さくなっておこう。


『うーん、こんなもんかな?』


 今の俺の姿は謎の金属球だ。これなら十分偽装になるだろう。


 ウルシは、ここに来るまでの足代わりだ。俺だけじゃ出歩けんからね。分体を使う事も考えたが、分体だとスキルレベルも低いから獣王たちに気づかれる危険性が高いだろう。ここは隠密性重視で行くことにした。


 獣王たちが冒険者ギルドにいるのは確認済みだ。あの存在感は遠くからでも感じられるからな。自分の気配を隠そうともしていないし。


 馬車に乗っていた時にはここまでの威圧感は覚えなかったが……。あの時は隠していたのか、何か理由があって今は周囲を威圧しているんだろう。ディアスと何か話しているようだし、あいつに対しての威嚇なのかもな。若く見えてもおじいちゃんだし、心臓止まらなければいいけど。


 問題はこの会談が長引いた時だ。出来ればフランが風呂から上がるまでに部屋に戻りたい。あと15分くらいしか時間が残っていなかった。


 あとは例のどこでもドアで、ディアスの部屋から直接帰ってしまった場合だ。これだと鑑定をする機会さえないからな。


 だが、心配することはなかったようだ。すぐに気配が動き出した。ギルドの出口に向かっているのが分かる。


『チャンスは一瞬だ。鑑定して、直ぐに逃げる』


 相手が鑑定察知を持っていなければ気づかれる恐れは少ないとは思うが、念には念を入れてである。


『来た!』


 先頭は獣王。その後ろにゴドダルファ。そしてその後ろにもう一人の護衛だ。御者はいないが、とりあえず護衛を鑑定しておこう。


『成功だ。逃げるぞ!』


 まずはウルシの側に跳んで回収した後は、ロング・ジャンプを連続で使って大きく離れ、その後は気配を殺して宿に戻った。追跡スキル対策である。ちょっとやりすぎかとも思うが、最悪を想定しての行動だ。俺も獣王のステータスを見てから、少し過敏になっているかもな。


 にしても、もう一人の護衛もやはり化け物だった。


名称:ロイス 年齢:46歳

種族:獣人・灰兎族・白銀兎

職業:転術師

ステータス レベル:74/99

HP:401 MP:1199 腕力:151 体力:212 

敏捷:419 知力:401 魔力:709 器用:127

スキル

足裏感覚:Lv4、穴掘り:Lv2、隠密:Lv2、回復魔術:Lv8、月光魔術:Lv4、気配察知:Lv7、気配遮断:Lv4、時空魔術:Lv4、蹴脚技:Lv4、蹴脚術:Lv4、瞬発:Lv7、浄化魔術:Lv3、状態異常耐性:Lv4、振動感知:Lv3、精神異常耐性:Lv7、杖技:Lv5、杖術:Lv6、大地魔術:Lv3、跳躍:Lv4、土魔術:LvMax、補助魔術:Lv5、魔術耐性:Lv8、魔力感知:Lv4、魔力制御、オークキラー、ゴブリンキラー、自動魔力回復、聴覚強化

固有スキル

覚醒、次元門、三日月紋

称号

オークキラー、ゴブリンキラー、守護者、ダンジョン攻略者、土術師、ランクA冒険者

装備

銀月石の長杖、三日月兎のローブ、土精の外套、影武者の腕輪、吸魔の指輪



 あのどこでもドアは職業の固有スキルかな? 次元門という固有スキルが怪しそうだ。ロイスのステータスを反芻しながら俺たちは部屋にもどった。それにしても緊張したな。


『ただいま~』

「オン」


 俺たちが部屋に戻ると、もうフランが戻って来てしまっていた。ちょっと戻るのに時間をかけ過ぎたか。失敗したな。


 フランはランプも魔術の灯りもつけず、体育座りのように膝を抱えてベッドの上に座っている。顔を膝に埋めて、微動だにしない。


『フラン。灯りも付けないでどうしたんだ?』

「ん……!」

『おわっ! どうしたんだフラン?』

「オン?」

「師匠……ウルシ……」


 声をかけた直後、フランが俺たちに突進してきた。そして、ウルシにガバッと抱き付くと、その毛に顔を埋めてグリグリしている。


『フラン、急にどうした?』

「何でもない……」


 そう言いつつも、その顔には僅かな不安の色があった。しかも、目じりが赤い。もしかして泣いていたのか……?


「オンオン?」

「ん。くすぐったい」


 ウルシがペロペロと顔を舐めると、ようやくその顔に笑みが浮かんだ。


 そうだよな。一見平気そうに見えたって、あんな化け物に威圧された後だ。折れた心はそんな簡単に元には戻らない。俺を心配させない様に、平気そうに振る舞っていたんだろう。


 それが、風呂から戻ってみると俺たちの姿が無い。きっと想像できない程の不安がフランを襲った事だろう。あの気の強いフランがべそをかくほどに。


 俺は猛烈に反省した。俺が泣かせたも同じだ。鑑定なんかいつでもできた。ただ、危険を感じたせいで焦ってしまったのだ。今日はフランを放っておくべきじゃなかった。


『すまなかったな』

「いい。でも今日は一緒に寝る」

『はぁ? 俺とか?』

「ん」

『いや、俺は剣だぞ? 硬いぞ?』

「平気」

『フランが良いなら構わないけど』

「ウルシも一緒」

「オン?」


 と言う事で、俺はフランの抱き枕にされたのだった。こんな硬い抱き枕、絶対に寝づらいと思うんだが……。鞘があるとはいえ剣だぞ? 


 だが、フランは両手両足でヒシと俺に抱き付き、ウルシの毛皮に包まって眠りについた。


『うーん、暇だ』


 この状態じゃスキルの練習も出来ん。フランを起こしちゃうかもしれないからな。仕方ない。たまには何もせずにフランの寝顔でも観ながら過ごすとしようかな。


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― 新着の感想 ―
[一言]感想の方へ→護衛の方がレベル高いのは自然では?護衛の方が戦う機会は多いでしょう、むしろ王族の方が高かったら護衛何やってんだ問題に成るかと。
[気になる点] ロイスのステータスレベル74が獣王の71より大きいのは変な気がする。
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