16 アレッサの町へ着きました
ランデルの馬車に揺られること2時間。
「お、アレッサの町が見えたぞ」
遥か彼方の丘の上に、壁の様なものが見えた。見えたと言っても、大分遠いな。あと2時間くらいはかかりそうだ。
結構でかいな。ランデルの説明によると、この辺りでは1番大きい町らしく、住民の数は1万。冒険者ギルドがあるのも、この地域ではアレッサの町だけらしい。
そう言えば、大事なことを聞いていないのを思い出した。
「町の入場料は?」
「ああ、300ゴルドだね」
やばい、足りない。ゴブリンの角は、冒険者ギルド以外だと安いらしいし、どうしようか。
それと他の相場も全部聞いてしまおう。それで、必要経費を計算して、今後どうするか計画を立てる。
「宿屋は1泊いくら? 一番安くていい」
「宿ね。最低ランクの宿で、200ゴルドくらいかな。勿論素泊まりで」
他の相場も教えてもらった。定食の平均が50ゴルド。パンが1つ10ゴルド。安いナイフが300ゴルド。風呂屋は1回で20ゴルド。
だいたいそんな感じらしい。1ゴルド10円くらいの感覚か?
貨幣としては。銅貨1枚1ゴルドで、銅貨→大銅貨→銀貨→大銀貨→金貨→大金貨と、10枚で1つ上の貨幣となる。ランデルさんも大金貨は見たことがないらしい。
「ゴブリンの角をギルドに持っていくといくら?」
「2本一組で、20ゴルドだね。商人に売ったら、一組5ゴルドくらいだと思うよ」
安! ゴブリン安! 1日10匹以上狩らないと、宿代も稼げないとは……。
しかし、どうするか。今持っている8体分の角を全部ランデルに売っても、300ゴルドに足りないんだけど。
悩んでいると、俺の探知が新たな気配を捉えていた。街道の先だ。
ランデルに速度を落とすように言うと、先行して偵察をする。御馴染みのゴブリンたちが、茂みに隠れていた。毎度の如く、待ち伏せ中なのだろう。
フランの剣と、俺の魔術で、一瞬でけりがつく。5匹のゴブリンたちから角を剥ぎつつ、1匹が持っていた剣に目を付けた。木の棍棒は全く値段が付かないという話だったが、剣であれば多少は金になると思ったのだ。
『ラッキーだったな。これをランデルが買い取ってくれれば、300ゴルド達成できるかもしれん』
戻ってランデルに聞いてみると、200ゴルドで買い取ってくれた。思ったより高かったな。
「そんなに?」
「青銅製だけど、状態が良いからね。きっと、冒険者などから奪ったばかりだったんだろう」
運が良かったな。これで町に入れる。角は売らずに、ギルドに提出するとしよう。
道中、更に1匹、魔獣を狩ってランデルに買い取ってもらった。ブラック・バグという、50センチくらいある、黒いカナブンの魔獣だ。甲殻が初心者用の防具に使われるらしい。20ゴルドで買い取ってもらった。
しかし、魔獣って安いな。下級とは言え、防具の素材になる様な魔獣でも、20ゴルドか。武器持ちのゴブリンを狙った方が、美味しいかもしれない。やはり、ゴブリンっていうのは、俺に狩られる運命にあるんだな。
◇◆◇
「よう。ランデルじゃないか。無事戻ってこれたのか?」
「ああ、道中何度か危なかったけどな」
「そのお嬢ちゃんは?」
「道中で拾ってね。彼女の入場手続きも頼むよ」
「了解だ。ランデルの馬車が通りかかるなんて、運が良かったなぁ。ランデルは結構強いし、心強かっただろう?」
門番のおっちゃんの言葉に、ランデルが苦笑いしている。実際は、フランが護衛としてランデルを守ってやったのだが。
ただ、あまり目立ちたくないので、ランデルには道中で拾った旅の少女という事にしてもらっている。
「じゃあ、300ゴルドな。これが仮入場証。3日間有効だ。それを過ぎると、再入場にまた金がかかるから、気を付けてくれ」
これも聞いていた話だ。正式な住民証か、冒険者カードがあれば、今後は無料になるらしい。なので、急いで冒険者カードを作らないといけなかった。
「アレッサの町にようこそ」
冒険者ギルドへの加入は、年齢制限などはないらしい。ただ、適性テストというのがあり、それに通らなければ、カードは発行してもらえないということだ。
「じゃあ、僕は店へ戻るよ。フランさんは早速冒険者ギルドかい?」
「ん」
「僕の店は、西の大通り沿いにある。暇ができたら、ぜひ訪ねてくれよ」
それだけ言うと、ランデルは去って行った。
去り際にも、何も聞かない。世間知らずなのに凄腕、そんなアンバランスな少女が、1人で街道を歩いていたのだ。訳ありなのは間違いない。なのに、最後までそのことには触れなかった。いい人である。
纏まったお金が手に入ったら、訪ねてみよう。冒険者相手に商売をしているようなことを道中に言っていたし。
『じゃあ、行くか』
「ん」




