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176 ウルムットでカレー

 オーレルとの話が一段落したところで、メイドのシャラが料理を運んできた。隣にいる恰幅の良い男性が専属料理人なのだろう。


「お待たせいたしましたご主人様」

「おう、良い匂いだなアスト」

「バルボラで仕入れたばかりの最新レシピですぞ」


 アストと呼ばれた料理人はそう言って鍋の蓋を開けて、オタマで中を混ぜ始める。


「ほほう。そりゃ楽しみだ」

「とは言え、まだ試作中なんですがね」

「おいおい、そんな物を出すのかよ?」

「ご主人様の舌は大変鋭いですからな。ぜひそのお力をお借りしたいと思いまして。バルボラで食べた完成品はかつて食べたことが無い程に美味しかったのです」

「お前さんがそこまで言うとは、楽しみだぜ」

「この試作品も十分美味しいのですが、一味足りないのですよ。ですので、ぜひご助言を頂けたら嬉しいのですが」

「はっはっは。それで美味い飯が食えるようになるんなら、いくらでも助言してやるぜ」

「とは言え、お客様がいらっしゃっているのでしたら、普通の料理を用意したんですがね。今から何かお作りした方が宜しいですか?」

「嬢ちゃん、どうする?」

「ん。大丈夫」

「では、お嬢さんもぜひご感想をお願いします」

「まかせておいて」

「オンオン!」


 ウルシが食べそびれては大変とばかりに、自らの存在をアピールする。おい、涎垂らすな。絨毯を弁償とか言われたらどうするんだ!


「ウルシの分もお願い」

「ワンちゃんが食べるにしては結構味が濃いんですが、大丈夫ですかね」

「ウルシは魔獣だから大丈夫」

「オン!」

「従魔でしたか。人懐っこいので全然気付きませんでしたよ。分かりました。ではワンちゃんの分もご用意いたしますね」


 そして、アストは米の盛りつけられた深皿に、鍋の中の物をすくって掛けた。トロッとした茶色い液体の中には、芋などの野菜が入っているようだな。


 どこかで見たことがある。と言うか、次元収納に大量に入ってるんだが。いや、そもそも俺がバルボラで広めた物だ。


「カレー?」

「おお、お嬢さんはご存じで? そうです、今年の料理コンテストで披露された最新の料理、カレーです!」

「そう言えばフラン嬢ちゃんはバルボラに居たんだったか?」

「ん」

「だったら食べたことがあるのですかね?」 

「ん」

「おお! それは頼もしい!」


 食べたことあるっていうか、ほぼ毎日食ってるからね。それでもフランとウルシがカレーを見る目はキラキラと輝いている。


「では、どうぞ」

「変な外見の食い物だな。香りは良いんだがな」

「モグモグ」

「ガウガウ」

「おお、良い食べっぷりですね」

「ふむ……。おお、不思議な味だな! だが、後を引くぜ」


 オーレルもカレーを気に入った様だ。最初はゆっくり口に含んでいたのに、段々とかき込み始めた。


「おかわり」

「オン」


 その後、オーレルが食べ終わるまでにフランとウルシは3杯もお代わりをしていた。


『美味いのか?』

(まあまあ?)


 どうやらご不満があるらしい。それでも最終的には5杯も喰ったが。


(ん。美味しいは美味しい。でも師匠のカレーには遠く及ばない)


 という事だった。


「こいつは美味いじゃねーか。名前は何て言ったか?」

「カレーです。今やバルボラはカレーブームで沸いていますよ。カレーパンやカレーパスタ等の様々なレシピが考案され、何十軒もの店でカレーが提供されておりますな」

「これだけの味ならそうだろう。これで未完成なのか?」

「はい、私がバルボラで食べた完成品には及びません」

「それ程か」

「あの事件のせいでコンテストは中止になってしまいましたが、実質的な優勝レシピだと民たちが噂しております」

「ん! 当然」


 その言葉にフランが嬉しそうにうなずいた。まあ、優勝は出来なかったが、認められたっていうなら嬉しいな。しかも順調にレシピは広まっているみたいだし。カレーパスタ? 早速面白そうなオリジナル料理が開発されてるじゃないか。


「嬢ちゃん、嬉しそうにしてるがどうしたんだ?」

「師匠が作った」

「師匠? 誰だ?」

「おお、もしかして噂のカレー師匠ですか?」


 ちょっと待てアスト。今何と言った? カレー師匠? それってもしかして俺のことか?


「嬢ちゃんの料理の師匠がカレーを作ったってことなのか?」

「料理だけじゃない。全部の師匠」

「剣や魔法もか?」

「ん。師匠は何でもできる」

「ほほう。そいつはスゲー御仁だ。だが、嬢ちゃんは1人でこの町に入ったよな?」

「ん。師匠は神出鬼没」

「まあ、嬢ちゃんは実力だけで言えばもう一人前だしな。独り立ちしてもおかしくはないか」

「ええ? では、本当にカレー師匠のお弟子さんなのですか?」


 やっぱり聞き間違いじゃないよな。カレー師匠? なんだその間抜けな異名は!


『なあ、フラン。カレー師匠って俺のことなのか聞いてくれよ』

「アスト、カレー師匠って、誰?」

「いや、嬢ちゃんの師匠なんじゃねーのか?」

「いえ、確かカレーを開発した人の名前が分からず、師匠と呼ばれていたということから誰かがカレー師匠と呼び始めたんだとか。私は偶然カレー師匠の名を呼び始めた冒険者たちと知り合いまして、レシピはその伝手で手に入れました」

「冒険者?」

「ええ、緋の乙女と言うパーティなのですか、お知合いですか?」

「ん。知り合い」


 やっぱり奴らだったか。リディア辺りが怪しいが、どうだろうな。


「それで、どうでしょうか? このカレーは?」

「ん。普通」

「そうですか……」


 フランの普通が褒め言葉でない事を悟ったのだろう。アストは表情を曇らせる。


『フラン、レシピを渡してやれよ』


 オーレルには色々と世話になってるし、これからも世話になるだろう。ここは少し恩を売っておこうかと思ったのだ。


 フランはカレーライスのレシピを口頭で教えてやっている。そして、アストのレシピも聞いてみた。どうやらウルムットでは手に入りづらい香辛料を、他の物で代用したらしい。


 俺は味見が出来なくとも料理スキルのおかげで味などはある程度想像できる。なのでこのアストのレシピに何を加えれば良いかも教えてやることができた。


 これでバルボラの物とは違う、ウルムット独自のカレーの誕生だ。もしかしたらこの町でもカレーが流行るようになるかもしれないな。楽しみだぜ。



 一時間後。食事を終えたフランは、さらにいくつかの情報をオーレルに聞かされていた。まあ、ディアスが語った事と同じ、獣王の危険性についてだったが。


「じゃあ最後に。これが依頼の達成料と、レシピの礼だ」

「別にいい」

「いや、受け取ってくれ。俺の気が済まねえ」


 そう言ってオーレルが渡してきた皮袋には30万ゴルドもの大金が入っていた。


 依頼はむしろルミナに会えて俺たちの為になったし、レシピは情報の礼のつもりだったんだがな。まあ、もらえる物は貰っておくが。


「ありがとう」

「おう。また来いよ」

「ん」

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師匠の異名が始まった日みたい
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