174 青の誇り
転生したら剣でしたの書籍版の発売予定日が7月30日に決まりました。
連載版と共にそちらもよろしくお願いします。
あと、るろお様に書いていただいたラフ画が、ネット小説大賞のホームページで公開中です。
作者が惚れ直すくらいフランが可愛いので、ぜひご覧ください!
師匠がイケメンすぎるという感想を頂いて吹きました(笑)
オーレルの屋敷の前には、何やら冒険者風の男たちがたむろしていた。どんな集団か分からないが、規律もなくダラダラとしている様子は、コンビニ前で生産性のない会話を延々と繰り返すチーマーたちにそっくりだ。
門番たちの前には、ややマシな身なりの少女と男が立っている。彼らがこの集団のリーダーなのだろうか? 男はともかく、少女の方は17、8歳に見えるが。
何をするでもなく、腕を組んでその場に立っている。何かを待っているのか?
後ろから少女を見て分かったが、獣人だ。しかも猫系。よく見ると、他の男たちも全員が獣人だった。
(む)
『どうしたフラン?』
(全員青猫族)
『え、まじか? 全員?』
(ん)
『一応警戒しておくか』
(オン!)
いきなりこんな場所で襲ってくるとも思えないが、注意しておくに越したことはないしな。
一番面倒が無いのは、さっさとオーレルの屋敷に入っちまうことだろう。オーレルは獣人の顔役だっていう話だし、無理に押し入るような真似はしないはずだ。
『フラン、なんか言われても無視して、とっとと屋敷に入るんだ』
(……わかった)
微妙な間が不安だが、フランは一応頷いてくれた。最悪、転移で無理やり屋敷に入ってしまおう。オーレルには気に入られてたし、事情を話せば不法侵入扱いにはならないと思う。
フランはスタスタと歩きながら、門に近づいて行った。青猫族たちをかなり警戒をしているのが俺には解る。隠密と気配遮断を使って、極限まで存在を消しているしな。
青猫族の男たちはそれ程強くはないようだし、こっちに気づくこともなかった。目の前を通ればともかく、少し離れた場所をコッソリ通れば問題なさそうだ。
ただ、問題は中に入る時だよな。どうしても門番と会話しなくちゃならないし。そうすると門番の前にいる少女たちにも見られてしまう。
まあ、その時は無視すればいいか。
「こんにちは」
「え? あ、フラン様。どうぞお通り下さい」
「いいの?」
一回来たことがあるだけだし。取り次ぎの間待たされると思っていたんだが。まさか顔パスで入れるとは思ってもみなかった。
「はい。ご主人様からはフラン様が来られたら、最優先でお通しするように言われておりますので」
「この待遇はエルザ様に次いでフラン様で2人目ですよ」
想像以上に気に入られていたな。まあ、面倒が無くて良いけど。
「ん。じゃあ入る」
「どうぞ」
門番が開けてくれた門に入ろうとするフランだったが、その姿を見て少女と男性が声を荒らげていた。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「そうだ! どういうことだ!」
「ん?」
さっきまでは難しい顔で何かを待っている様子だった少女たちが、怖い顔で門番とフランに詰め寄ってくる。
「わざわざ挨拶に来た私たちを待たせておいて、その娘は素通りさせるわけ?」
「どれだけ待っていると思っている!」
「先程も説明しましたが、ご主人様は約束のない方には会わない。それでもあなた方がどうしてもと言うから、取り次いでいるのですよ?」
「俺たちは、クローム大陸で名を馳せた青の誇りだぞ!」
「私は団長の名代だ。私を待たせるという事は団長を待たせるという事だが?」
「関係ありませぬな」
もしかしたらクローム大陸に行けば誰もが恐れ入る有名な傭兵団なのかもしれないな。ただ、こっちの大陸ではあまり有名じゃないんだろう。
門番にあっさりと首を横に振られ、少女たちの顔に怒りが浮かぶ。額に浮かび上がった血管がピクピク震え、その怒りの深さを表しているようだ。
しかし、自分たちは凄く有名なんだぞ! と偉そうに宣言したのに、相手に全く知られてない挙句、そのことに対して怒り出すとか、みっともないにも程がある。ダサいとしか言いようがないな。
「この方はご主人様の大事なお客様故」
「はぁ? その黒猫族の小娘が?」
どうもこいつらは傭兵団らしかった。ここにいるのも青猫族ばかりだし、青の誇りと言う名前からして、青猫族だけで構成されているのかね? お近づきにはなりたくないぜ。
実際、スゲー見下した目でフランを見ている。
「俺たちよりも、その黒猫族が大事だって言うのか?」
「もう一度言いましょう。関係ありませぬな。種族など些細な事です」
「逆に言わせてもらいますが、その方はご主人様の大事なお客様。その方を貶すということは、ご主人様を貶しているということですよ?」
「だって、黒猫族だぞ!」
うーん、やっぱり青猫族は嫌いだな。会う奴会う奴、黒猫族を見下す奴ばかりだ。しかもそれが当たり前と思っているんだよな。黒猫族は自分たちよりも格下で雑魚なんだから黙って奴隷やってろ的な感じなのだ。
『フラン、行こう』
(……)
あ、やばい。表には出てないけど、完全に臨戦態勢だ。あと2、3個悪口を言われたらキレるだろう。
『ウルシ、フランを押せ!』
「オン」
「む……」
俺が念動で引っ張りつつ、ウルシがフランの背中をぐいぐい押した。そのまま門に押し込もうとするが、フランは少女たちにガンを付けたままだ。少女たちも睨み返している。
『フラン行くぞ!』
「オンオン!」
「ん」
俺たちの必死の説得が功を奏したのか、フランは不承不承頷いた。ここで戦闘するわけにはいかないからな。
だが、フランが黒猫族を見下され、大人しく終わる訳が無かった。門をくぐる直前、少女たちに振り返る。
そして、威圧、威嚇、覇気を同時に発動させた。ついでに殺気も合わせて叩きつける。
「ひっ」
「くっ」
少女は青ざめた顔でペタンと尻餅をつき、男は数歩後ずさった。配下の青猫族たちも、瞬時に跳び起きてフランを睨む。だが、その顔には隠せない怯えの色がある。
一応傭兵なだけあって、フランの強さを感じ取る程度は出来るようだな。そして、圧倒的な実力差を感じてしまったのだろう。
「な、何が――」
枯れた声で喘ぐ様に呟く少女を尻目に、フランは悠然とした足取りで門の中に入るのだった。
『勝ち誇った顔しちゃって……』
「ふふん」
『褒めてないからな』
「ん?」




