169 獅子の馬車
ギルドに向かう途中、俺はある重大な事実を思い出していた。
『ギルマスに会うんなら、思考遮断のレベルを上げておいた方が良いか?』
(ん。良いと思う。まだLv1だから)
『ただ、問題もある。急に思考遮断を高レベルで手に入れて、ギルマスにどう思われるか』
いくら修行していたとはいえ、これだけ短期間でギルマスの読心を防げるようなスキルを入手したら、要らぬ勘繰りを受けるのではなかろうか?
(もうインテリジェンス・ウェポンだとばれてる。いまさら)
『そうか?』
(ん。師匠の不思議な力で手に入れたって言えば、平気。師匠はそれぐらい凄い)
俺自身の認識不足だったようだ。神剣と言う遥か格上の存在を知ってしまったため、自分がそれほど珍しい存在だと自覚できていなかった。「ばれたら狙われるかも?」とは思っていたが……。神剣未満、魔剣以上? インテリジェンス・ウェポンとはその程度には伝説的な存在であるらしい。
つまりあれだ、「だってインテリジェンス・ウェポンだし」というある意味最強の言い訳を使えるという事である。多少の不自然さや、不可思議さはそれで納得されてしまうらしい。
『まじか』
(ん。だってインテリジェンス・ウェポンだから)
『なるほど。恐ろしい程の説得力だ』
まあ、大丈夫なら上げちまおう。自己進化ポイントを18消費して、思考遮断をMaxに上げる。
〈思考遮断がLvMaxに達しました。思考完全遮断へと進化します〉
おお! スキルが進化したな。思考完全遮断か。これで読心だろうが思考誘導だろうが、ドンとこいだ。しかも自分の意思で遮断率をある程度いじれるようで、わざと思考を読ませるようなことも出来るようだ。相手が読心を持っていること前提だが。
(他のスキルはどうする?)
『うーん、残りのポイントは慎重に使いたいし。後にしとこう』
自己進化ポイントには限りがあるからな。慎重に使わねば。
『まあ、何に使うか考えておけよ』
(ん。分かった)
多分、剣聖術などを上げたいと言うと思うが、他に上げたいスキルがあるのなら、それを優先しても良い。使うのはフランだしね。
何より、フランの発想力は俺の予想の斜め上を行く。リンフォード戦ではそれを思い知ったからな。何と言ってくるか楽しみだ。
もう少しでギルドと言うところで、エルザの足が止まってしまった。
「うんもう! 邪魔ね」
なんか急に通行人が増えたな。しかも単に歩いている訳じゃなく、何やら前方に人垣ができている。その人垣のせいで人の流れが悪くなり、さらに人が溜まると言う悪循環だ。
『何か事件でもあったか?』
「エルザ、何かあった?」
「他国の高位貴族が町に到着したみたい。ほら、武闘大会も近いし、その観戦に来たのよ。これから貴族とか冒険者がどんどんやってくるから、人で溢れかえるわよ。ウルムットが一年で一番賑わう時期だしね」
なるほど。つまり貴族が道を通るために、一般人が横断も出来ずに足止めをくらっていると。大名行列とまでは行かないが、高位貴族が通る際に庶民は通行止めされてしまうらしい。
「ここからは上を行くわよ?」
「わかった」
屋根に駆け上がったフランの背から、眼下の人垣を見下ろす。
こっちの世界に転生してから見た中で、一番豪華な馬車が通りを進んでいた。屋根に取り付けられた獅子の像は、今にも動き出さんばかりに精緻な作りだ。黒光りする重厚な木材を基礎にした車体には、金や銀で煌びやかな装飾が施されている。しかもそれが下品ではなく、むしろ気品さえ感じさせた。
一目見ただけで下級貴族の馬車ではないと分かるな。
ただ、どうして護衛が少ないんだ? あれだけの馬車にだったら護衛を何十人も引き連れてたっておかしくはない。と言うか、引き連れてないとおかしい。
だが、馬車はあの馬車一台だけ。御者以外には左右を警戒するように配置された、2人の護衛の姿しか見えない。いくら町の中とは言え不用心すぎないか?
だが、御者と2人の護衛を見て直ぐに考え違いに気づいた。
『強いな』
足の運びや警戒の仕方を見ただけで、凄まじく強いと直感できた。
『ここからならばれないか?』
フランがあっと言う間に屋根伝いに走り出してしまったので、鑑定できたのは護衛の1人だけだったが……。
『はぁっ?』
(師匠どうした?)
『いや、あの馬車の護衛なんだけどさ、メチャクチャ強い』
その強さは俺の想像の遥か上だった。
名称:ゴドダルファ 年齢:44歳
種族:獣人・白犀族・黒鉄犀
職業:断斧闘士
ステータス レベル:72/99
HP:1256 MP:422 腕力:654 体力:582 敏捷:267 知力:173 魔力:247 器用:299
スキル
威圧:Lv8、怪力:Lv8、拳闘技:Lv5、拳闘術:Lv5、気配察知:Lv3、高速再生:Lv4、剛力:LvMax、棍棒技:Lv6、棍棒術:Lv6、採掘:Lv8、再生:LvMax、状態異常耐性:Lv7、瞬発:Lv3、精神異常耐性:Lv7、属性剣:Lv8、大地耐性:Lv4、突進:Lv7、斧技:LvMax、斧術:LvMax、斧聖技:Lv6、斧聖術:Lv7、魔力感知:Lv3、気力制御、ゴブリンキラー、痛覚鈍化、ドラゴンキラー、皮膚強化
固有スキル
覚醒、衝波
称号
守護者、大山の如き者、ダンジョン攻略者、ドラゴンキラー、ランクA冒険者
装備
地龍角の大斧、地竜鱗の全身鎧、炎粘精の外套、影武者の腕輪、毒感知の指輪
ランクA冒険者だ。しかも進化済みの獣人である。アマンダレベルの存在だな。他の2人もこのレベルの強さだとすると? 護衛なんかいらないだろう。むしろ過剰戦力だ。3人だけでウルムットを落とせるかもしれん。
フランに護衛の能力を教えてやると、興奮気味に振り返っている。
(凄い! 犀は強くて有名な種族。でも数が少ない)
『へえ。そうなのか』
犀の獣人なんて初めて見たしな。希少種族なら仕方ないかもしれない。パッと見は少し体が大きい人間にしか見えないが。
気になるスキルは怪力、気力制御。あと固有スキルの覚醒、衝波の4つだな。
個別に鑑定する暇はなかったが、怪力は剛力の、気力制御は気力操作の上位スキルだと思われた。固有スキルも気になる。覚醒に衝波。ただこっちはヒントも何もないからな、全く想像もつかない。
ギルドで調べてみたら分かるか? オーレルに聞いてみようか。経験豊富な獣人なのだし、知ってるかもしれない。それどころか、あの獣人個人の情報も分かる可能性がある。
(ん。聞く!)
フランも乗り気な様だった。




