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168 迅雷

「迅雷!」


 その言葉の直後、フランは30メートル以上吹き飛ばされ、部屋の壁に激突していた。固いはずの壁を破壊し、全身がめり込むほどの威力だ。


 何をされた? 全く見えなかった!


 気づいたら今までフランが居た場所にルミナが立っており、代わりに俺たちは水平に吹き飛んでいるという状況だった。何か打撃を貰ったのだと思うが……。


 打撃をくらったのは胸元の様だ。その部分に焦げ跡が付いて煙を上げていた。僅かに感じた電流と合わせて考えると、雷鳴属性を帯びていたのだと思われる。迅雷と言う言葉からも、それは確実だろう。


『フラン! 大丈夫か?』

「がは……ヒールッ……」


 なんとか無事か。だが、口からは血を吐き出し、かなりのダメージだった。多分、内臓が傷ついている。


 殺さないと宣言はしていたが……。大怪我をさせないとは言っていなかったか。ここまでの模擬戦で、フランならば死なないと確信した故の攻撃だったのだろう。


「大丈夫か! 久々に楽しかった故、少しばかり力が入ってしまったわ!」


 ちょっとしたミスだったらしい。


「少し吹き飛ばすだけのつもりじゃったんだが」


 慌てて駆けつけて来たルミナが、フランにポーションをかけてくれる。


 それにしても最後の攻撃、迅雷とは何だったのか? あまりにも瞬間的過ぎたため、スキルなのかどうかも分からなかった。


 ただ、思い当たる言葉はある。特定の種族が持つというスキル。固有スキルだ。目指す先を見せると言っていたルミナの言葉を考えても、黒虎の固有スキルなのではないだろうか。


 あまりにも凄すぎて全然見えなかったが。まあ、遥か高みに居ると言うことは理解できた。



 しばらく休んでダメージも完全に抜けたフランに、ルミナが残念そうな声で告げる。


「では、名残惜しいが、お主をいつまでも引き留めておくわけにもいかない」


 フランも名残惜しいのだろう。寂し気に俯く。だが、進化を目指すにはここから出て情報を得なくてはならない。特にオーレルだ。わざわざフランに手紙を届けさせた訳だが……。


 これは偶然か? オーレルとルミナは知り合いのはずだ。オーレル自身も進化しているわけだし、当然ルミナが進化していることを知らないはずがない。そこに、黒猫族のフランを送り込む? いくら何でも出来すぎな気がする。


 もしかしなくても、フランとルミナを引き合わせるための依頼だったのではなかろうか? それが当たっているとなると、彼は何かを知っている可能性もある。進化に関して知らなくても、手助けは期待できるかもしれない。


「ボス部屋の転送陣がまだ生きている故、入れば入り口に戻れる」

「……また、会える?」

「ははは。ここに来ればよい。いつでも歓迎しよう。ボスの出現設定は変えておく。部屋に到達すれば、自動的にここへの通路が開く」

「ん。分かった」


 ルミナがガシガシとフランの頭を乱暴に撫でるが、フランは嫌がる素振りを見せない。それどころか、気持ちよさげに目を細め、耳をピクピクさせていた。



10分後。


『もういいんだな?』

(ん)


 しばらくの間別れを惜しんでいた2人だったが、いつまでもそうしてはいられない。俺としては久しぶりに出会った同族と一緒に居させてやりたいが、フランは自らルミナに別れを告げると、転送装置のあったボス部屋へと歩み始めた。


「またの」

「ん」


 フランは何度も後ろを振り返りながら、通路を戻る。そして、最後までルミナを振り返りつつ、転送陣に乗った。


「ばいばい」

「道はある! 細いが、諦めなければ必ず辿りつけよう!」

「ん!」


 ルミナの激励を聞きながら、俺たちは転移陣の浮遊感に包まれる。そして、光に包まれた俺たちは、一瞬で地上に戻っていた。


 数日前に通った、ダンジョンの入り口だ。確かに見覚えがある。


『さて、とりあえずオーレルの所に依頼完了の報告に行こう』


 俺たちは砦を出てオーレルの屋敷に向かおうとしたのだが、フランは砦の入り口で足を止めていた。いや、寄って来た兵士や冒険者に囲まれ、止まらざるを得なかった。


 どうやらダンジョンに入ろうとしていた冒険者が、俺たちが転移陣で戻って来た姿を目撃し、外に居た他の冒険者たちにフランの帰還を伝えたらしい。


「おお! 無事だったか!」

「転移装置を使ったってことは、お嬢ちゃんボス倒したのか?」

「前回の盗賊捕縛と言い、さすがだな!」

「ずっとソロでやってく気なのか? ぜひうちに入って欲しいぜ!」

「いやいや、うちのパーティの方が女性もいるし、居心地がいいぞ!」


 おお、なんか凄い好意的だな。


 どうやらボスを倒し転移装置で戻ってくるというのは、この町の冒険者にとっては一種のステータスらしい。しかも難易度の高い東のダンジョンを攻略したとなれば、それはウルムットでも最上位の実力者と言う事になる。


 さらにさらにフランはソロだ。ウルシが居るとは言え、子供が1人で攻略を果たすというのは驚きの事態なのだろう。


 10人以上の冒険者たちから様々な質問が飛んでくる。それにフランが答えてやると、皆が目をキラキラさせて感嘆の声を上げた。遥かに年上でゴツい大人たちが、まるで憧れの人を見る様な目でフランを見ている。凄まじく滑稽な姿なのだが、フランが認められるのは素直に嬉しい。


「ハイ・オーガの群れを一人で?」

「あの罠を解除したのか!」

「ボスはどんな奴だったんだ?」


 そうやって質問攻めにあうフランを助けたのは、喜色満面で駆け寄ってくる筋肉ダルマであった。


「はいはーい。質問はそこまでよ」

「エルザ」

「お久しぶりね~。中々ダンジョンから出て来ないからとっても心配してたのよん?」

「ん。修行してた」

「それは知ってるけど~、心配なものは心配なの!」


 エルザは体をクネクネさせながら、潤んだ目でフランを見つめている。本気で心配してくれていたんだろう。全く可愛くも色っぽくもないが、有り難い事である。


「それに、ここはボスが強いじゃない? 相手の能力に合わせてボスが出現するし。弱点を突いてくる様なボスも居るから、脅威度以上に苦戦することも多いのよ? フランちゃんなら脅威度C以上のボスが出てもおかしくないし」

「ん。でた」

「そうなの? 怪我は? 怪我はしてないの?」

「もう大丈夫」

「もうってことは、やっぱり怪我したのね! ああん! 私が付いていってれば怪我なんかさせなかったのに!」

「それじゃ修行にならない」

「そうだけどー。でも、そんなストイックなところも可愛いわ! それにしても一人と一匹だけで脅威度Cの魔獣を倒しちゃうなんて。やっぱり強いわね~」


 それにしても、エルザはどうしてここに居るんだ? 偶然か?


「エルザ姐さん、話があったんじゃないんですかい?」

「あ、そうだったわ!」


 いや、偶然じゃなかったらしい。兵士にフランが出てきたら知らせる様に頼んでいたようだ。その兵士が雑談を始めてしまったエルザに、呆れたような声をかけている。


「ごめんなさーい。久しぶりにフランちゃんに会えたから、私テンション上がっちゃった!」


 やめろ! てへぺろするな! 


 エルザは悪い奴じゃない。むしろいい奴なのは分かるが、全く好感度が上がらないな。


「話?」

「そうなのよ! でも、ここで立ち話もなんだし、まずはギルドに戻りましょう?」

「でも、オーレルに報告をしなきゃならない」

『いや、ギルマスに伝言も頼まれてるし。先にギルドでもいいんじゃないか?』

「ん? じゃあ、ギルドに先に行く」

「あら、そう? 先におじいちゃんのところでも良いのよ?」

「大丈夫」


 ということで、俺たちはエルザの先導でギルドに向かうのだった。



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