160 18階層突入
『ようやくたどり着いたか』
「ん」
「オン」
俺たちはついに目的の18階層に到着していた。
罠を起動させること30回以上。15階層以降になると、罠を起動させて嫌がらせをしてくる魔獣の数が圧倒的に増え、中々スリリングな冒険だった。
特にミストという霧状の魔獣が面倒だったな。霧状の魔獣なのだが、拡散している時は気配もなく、物理攻撃も効かない。だが、霧の体を一か所に集めると、罠を起動させる程度の物理力を発揮するのだ。
気づくとミストによって罠を作動させられていることが何度もあり、非常に厄介だった。
対処するだけなら簡単だ。新しい通路や部屋に突入する前に、広範囲魔術で全体を攻撃してやればいい。どんなに上手く隠れていても、逃げる場所がないくらいに広範囲に魔術を放てば、あっさりと殲滅できるのだ。ミストの戦闘力は低いからね。2、3発魔術を使ってやれば、掃除完了である。
場合によっては罠も事前に起動できて、一石二鳥だった。
ただ、これだと全く修行にならない。まあ、もう危険な階層だし、そろそろ安全優先で行こうと思う。
件の思考操作系を防ぐスキルを持った魔獣も探さないといけないし。
ダーティ・ウィスプという黒い光の球の様な魔物らしいのだが、かなり数が少ないという話だった。
実際、目撃例のある18階層を歩きまわっていても、未だに出会うことができないのだ。
経験値と魔石値ばかりが溜まっていく。現在、フランのLvは43に達し、俺もランクアップ間近だ。
特にフランのレベルカンストで何が起きるのか……。最早経験値稼ぎが一番重要になってきていた。
『いない物は仕方ない。とりあえず先に進もう』
「ん」
「オン?」
『どうしたウルシ?』
「ガルル!」
ウルシが突如唸り声を上げたかと思うと、壁に向かって闇魔術を放った。漆黒の槍が壁を叩く。
「ピギィィィ!」
『うわ、キモ!』
急に壁に張り付くような姿を現したのは、紫と橙色をした毒々しい芋虫だった。口から黒っぽい液体を吐きながら、ウゾウゾと蠢いている。ウルシの魔術によって開けられた腹の穴からは、臭い液体が漏れ出す。
『っていうか、こんなに接近されるまで気づかなかったのか? フラン?』
「わたしも気づかなかった」
「ガル!」
ミミック・ヴェノムクロウラーか。擬態と気配遮断、消音行動でひたすら隠れ続ける、待ちタイプの魔獣らしい。スキルに王毒牙、毒魔術、毒噴射と揃っており、毒まみれだ。
ウルシは臭いで気づくことができたらしかった。
こいつは、ダンジョンに入る前の情報収集で、最も気を付ける様に言われていた魔獣である。なんと直接的な被害者はハイ・オーガ以上に多いんだとか。
そりゃそうだよな。高性能の隠密能力に、一撃必殺の毒能力だ。中級冒険者でも、探索に秀でた者じゃないと対処は難しいだろう。
しかし、こいつの素材は中々有用らしく、こいつの素材納品系だけで4つも依頼が出ていた。皮、毒袋、毒牙、肉だな。
こいつの肉を食うとか俺には正直想像できんが、高級食材として人気なんだとか。毒抜きに失敗すると酷いことになるらしいけど。フグみたいな物なのかね。
魔石値はあまり高くないが、気配遮断、毒魔術の熟練度稼ぎも出来るし。これは芋虫狩りだな! 頑張れウルシ!
「がんばれウルシ」
「オン?」
ウルシの鼻だけが頼りだ!
2時間後。
芋虫キラーと化したウルシに先導された俺たちは、いつの間にか19階への階段までたどり着いていた。
すでに10匹近い芋虫を仕留め、ウハウハである。
「師匠、どうする?」
『ここまで来たんだし、次の階へ行こう。ダーティ・ウィスプは18階より下なら出現するって話だし、芋虫も必要数は狩ったからな。わざわざ18階を巡回する理由もない』
「ん。わかった」
そうして階段を降り始めたんだが……。
「オン?」
『どうしたウルシ?』
「オンオン!」
ウルシが地面に向かって何やら吠え始めた。
何も無い石畳みに向かって吠えている様に見える。だが、感知系スキルを全開にすると、そこに何かがいるのが分かった。
「ガウ!」
ウルシが漆黒の槍を床に放つ。あれ? さっきもこの展開見たな。
「アアアアー!」
ウルシの攻撃によって炙り出されたのか、甲高い叫び声とともに、何かが床から染み出すように出現する。漆黒の光の球がフワフワと浮いている様な姿。俺たちが探し求めていたダーティ・ウィスプであった。
種族名:ダーティ・ウィスプ:精霊:魔獣 Lv11
HP:28 MP:66 腕力:11 体力:17 敏捷:86 知力:101 魔力:151 器用:30
スキル
気配遮断:Lv4、思考遮断:Lv3、精神異常耐性:Lv3、魔力吸収:Lv3、闇魔術:Lv6、闇耐性:Lv2
闇魔術で影の中に隠れていたようだ。同じ闇魔術の使い手であるウルシだからこそ、気づくことが出来たのだろう。
このダンジョン、ウルシの為のダンジョンになってきたな。ウルシがいなかったらと思うと恐ろしいぜ。多分、無傷ではいられなかっただろう。
『ウルシ、良くやった! あとでご褒美だ』
「オン!」
『おう、激辛カレーを出してやる!』
「オンオン!」
「む。私も頑張る」
ウルシのご褒美に触発されたのか、フランが気合を入れて俺を構えた。
『ダーティ・ウィスプを逃がすなよ』
「ん!」
奴の持つスキル、思考遮断。これが俺たちの求めるスキルだろう。絶対に手に入れてやる。
『ウルシ、転移で逃げられない様に気を付けてくれ』
「オン!」
なろうコン最終選考突破しました!
これも読者様あってのことです。
ありがとうございました。
出来るだけ更新頻度が変わらない様にしていくつもりですので、これからも拙作をよろしくおねがいします。
また、新作の投稿をゆるーく開始しました。
興味があったらご覧ください。




