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157 白犬族の老人

「フランちゃん! ちょっと待って」

「ん?」


 宿から迷宮に向かって歩いていた俺たちを呼び留めたのはエルザだった。


 その巨体を揺らしながら内股で走ってくる。うーん、迫力満点だぜ。


 ウルシも同感らしく、尻尾を股の間に挟んで伏せをしている。最初から戦意喪失だ。


 平気なのはフランだけだな。凄いぞフラン。


「エルザ、どうした?」

「実はね、フランちゃんに会いたいっていう人がいてね。その人に頼まれてフランちゃんにお願いに来たの」

「会いたい人? 私に?」

「そう! 冒険者から話を聞いて興味を持ったんですって! 噂の魔剣少女にぜひ会ってみたいって! どう?」

「どんな人?」

「うーん、悪い人じゃないわよ? 昔は冒険者をやってた人だから堅苦しくもないし。この町の獣人の取りまとめ役みたいな人だから、知り合っておいて損はないと思うし」


 仲良くなれれば色々と役立ちそうな繋がりだ。ただ、仲良くなれるとも限らないのが俺たちなんだよな。


 場合によっては生意気とか思われそうだし。それに、その人は獣人なんだろ? 黒猫族のフランに会いたいっていうのが胡散臭いんだが。


(でも、エルザの紹介)

『まあ、エルザが変な奴をフランに紹介するとは思えんが……』

「分かるわ。不安なのよね?」

「ん」


 色々な意味でな。


「大丈夫! 私も一緒よ! もしその人がフランちゃんに馬鹿な真似しようとしたら、私が責任をもって潰すから!」


 何を? どうやって? あー、ウルシが涙目だよ。ほれ、怖くないぞー。


「……分かった。会う」

「ありがとん! じゃあ、案内するわね」

「ん」

「近道しても良いかしらん? フランちゃんたちならついてこれると思うし」


 そう言ってエルザが跳んだ。


 どうやら屋根の上を走って、目的地までショートカットする気らしい。この迷路のような町だったら、それも有りなのか? 怒られないか心配だが。


 いや、エルザに面と向かって文句を言う奴はいないか。まあ、時間短縮になるならいいか。


「ん。大丈夫」

「オン!」

「こっちよん!」



 10分後。


 俺たちはそこそこ大きな屋敷の前に居た。


 貴族とまでは行かないが、それなりに金持ちそうな屋敷だ。入り口にはかなり強そうな獣人の門番が2人立っている。


「ここ?」

「ええ。オーレル翁のお住まいよ。こんにちは」

「エルザ様! お久しぶりです。どうぞお通り下さい」

「お邪魔しまーす。あ、こっちの子たちは私の連れだから気にしないでねん」

「はっ」


 おお、フランやウルシまで顔パスか。さすがエルザ。


「ここの主であるオーレル翁の依頼を色々とこなしてたら気に入られちゃって。今じゃ出入り自由なの」

「広い」

「オン」

「元ランクB冒険者だし、交易にも成功してるしね。それに国王様の御側に仕えていたこともあったんですって」


 絵にかいたような成功者ってことか。だとすると、よりフランとは合わなそうなんだよな。もしマズそうな雰囲気になりそうだったら、目を付けられる前に適当な理由を付けて退散しよう。


 まあ、呼び出されている時点で目はつけられてるけどさ。


 それにしても庭も広いな。まだ屋敷に到着しないぞ。


 庭には色取り取りの花が咲き誇り、噴水や彫像が配置され、非常に美しい光景が広がっていた。エルザが花の名前なんかを教えてくれる。


 フランもウルシも全然興味が無いみたいだけどね。


「おじいちゃん! 来たわよー」

「エルザ様」

「シャラ、オーレル翁は?」

「今はテラスで寛いでおられます」

「ありがと。フランちゃんこっちよ」

「ん」


 メイドさんも顔パスだった。勝手知ったる場所なのだろう。メイドさんの案内を断ったエルザは、迷いのない足取りでフランを連れて進んで行く。


 エルザが向かったのは2階の奥にあるテラスだった。ここも広いな。しかもこの屋敷自体が高台にあるおかげで、ウルムットの町が一望できる。この眺めにはさすがのフランとウルシも感動したみたいだ。


「おー」

「オフー」


 小走りに手すりまで駆け寄ると、テラスから町を見ている。屋敷の主人であろう老人そっちのけで。


「はははは。気に入ったかね?」


 良かった、度量が広い人の様だ。目を輝かせてウルムットの町を見つめているフランたちを、微笑ましい物を見る様な顔で見つめている。


「ん。凄い」

「オン」

「そりゃ良かった。俺は白犬族のウィジャット・オーレル。お嬢ちゃんの名前を聞かせてくれるかい?」

「ん。黒猫族のフラン。こっちはウルシ」

「オン!」

「今日は俺の招待を受けてくれてありがとうよ。まあ、座ってくんな」


 なんだろう、エルザとはまた違った迫力があるな。あれだ、マフィアのドン的な? そんな感じの迫力だ。


 多分、かなり高齢だと思われるが、背筋もピンとしていて、歩く姿もかくしゃくとしている。


「おじいちゃんはね、なんと70歳越えてるのよ? どうやったらそんなに元気なのか、教えて欲しいわよね~」

「簡単なことだ。いつでも目的をもって、そのために努力するのさ。そうすりゃ、老けてる暇なんざなくなる」


 想像していたような面倒そうな相手じゃなくてよかった。


「これが、美味いんだ、ぜひ食ってみてくれ。俺の好物なんだ」

「ん」

「この茶も、クローム大陸産の茶葉だぜ? 年取ってから覚えた唯一の趣味だな」

「庭は?」

「ありゃ庭師に適当に頼んでるだけだからな。俺の趣味通りにやらせたら、あっと言う間にジャングルだ」


 メイドさんが用意したお茶やお菓子を勧めてくれる。


「で? わたしを何で呼んだ?」

「ははは。せっかちだな。別に特に理由はねーんだ。ただ、最近噂になっているっていう魔剣少女が獣人だって聞いてな。会っておきてーと思ったんだ」

「さっきも言ったけど、おじいちゃんはこの町の獣人の顔役みたいなものだから。フランちゃんが気になったみたい」

「顔役なんて大層なもんじゃねーが、このウルムットで50年以上冒険者をやってるからな。多少顔は広いのよ」


 本当にそれだけなのか? 特に裏もなく? ここは虚言の理を使っておこう。フランに使い過ぎだって言われたばかりだけど、ここは仕方ない! ……よね?


「恐ろしく強い獣人の少女だっていう話を聞いたからよ。興味が湧いたのさ」

「どう、おじいちゃん? フランちゃんは可愛いでしょう! しかもとっても強いの!」

「お前さんが気に入りそうな娘ではあるな。まあ、俺に対して物怖じしねー子供も久しぶりだ。気に入ったぜ。どうやら噂は本当か? エルザの太鼓判もあるしな」


 気に入ったっていうのは本当だな。


「私は黒猫族。それでも信じるの?」

「ああ? 黒猫族だからって絶対弱いわけでもねーだろう? 実際、俺は若いころに強い黒猫族に会ったことがあるぜ? ここのダンジョンでな」


 どこか懐かし気にオーレルが言う。


「へえ? あたしその話初めて聞いたわ」

「言ったことねーからな」

「その人は今どうしてる?」


 フランが珍しく強い口調で尋ねた。まあ、自分以外の強い黒猫族の話なんて初めて聞いたからな。


「……今はどうしてるのか……。俺も分からないな」

「じゃあ、どんな人だった?」

「さてな、53年も前の話だ。もう忘れちまったよ」


 嘘だな。でも、どうして誤魔化したんだ? ダンジョンで死んじゃったとかなのか? 実際、オーレルの表情は暗いしな。あまり詳しくは話したくないのかもしれない。


「獣人相手なら多少の顔は利く。困ったことがあったら何でも言ってきな。出来ることはしてやるからよ」


 フランのために何かをしてくれるっていうのは本当みたいだからいいか。黒猫族のことには突っ込まないでおこう。話したくないことに突っ込んだら、せっかく友好的な相手を怒らせてしまうかもしれないからな。


「実は嬢ちゃんに一つ、依頼を出してぇ。いいか?」

「どんな?」

「配達依頼だ。場所はすぐそばだな。エルザだったら今日中に終わらせるだろう」

「だったらエルザに頼めば?」

「いや、俺は嬢ちゃんに頼みたい。どうだ?」

「わかった」


 お、即答したな。ちょっと怪しい感じだが、フランが受けていいと思うんなら俺に文句はない。


「そうか。ありがとうよ」

「ん」


 オーレルはホッとした様な顔で微笑む。どうしてもフランに受けてもらいたかったらしい。


「じゃあ、依頼だ。こいつをある人物に届けてほしい」

「ぺンダント?」


 オーレルがフランに渡してきたのは、首にかけていたペンダントだった。黒い石のはめ込まれた、地味なペンダントだ。


 どう見ても普通の、安物のペンダントだな。


「おう。これを、東のダンジョンのダンジョンマスターに届けてくれ」

「ダンジョンマスターに?」

「おう。いいか、絶対に嬢ちゃん自身が手渡してくれよ」

「ん。わかった」


 やっぱり色々と謎だな。さて、この依頼で何が起きるかね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公をフランと師匠という二つの人格に分けていることが素晴らしいと思いました。 口数の少ないフランにも、言葉にしない心の声みたいのがあるとは思いますが、師匠目線での心の声があったり、それ…
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