151 スキル疑惑
ソラスと共に地上に戻る道中。
ソラスは自分が先頭を歩くと提案してきたので、今はソラスに先導されて地上を目指していた。
まあ、仇である男の側にいたらまた殺意が湧くかもしれないし、それが良いんじゃないかね?
因みに、男たちがソラスのパーティから奪った品々は回収済みだ。今はソラスのアイテム袋に入れてある。
鑑定遮断のせいでソラスのスキルは分からないが、どうやら斥候系の能力があるらしい。時おり罠を発見しては、回避している。
だが、20分ほど進んだところで、ウルシの悲鳴が響いた。
「オゥン!」
『え?』
「ウルシ?」
「オフ」
ウルシの口には槍が咥えられている。どうやら罠が発動し、上から槍が降ってきたらしい。それをとっさに咥えて防いだんだろう。さすがの反射神経だ。
「だいじょぶ?」
「オフフ!」
「ご、ごめんよ」
ソラスが罠を見逃してしまったらしい。急いでるし、注意力が下がるのは仕方ないか? 俺たちだって罠を完璧に探せる訳じゃないからな。
うん? 今何か違和感があったな? 何だ? こう、チリッと……。脳に静電気が――的な? いや、脳はないけどさ。
『うーむ?』
(師匠どうした?)
『いや、今なんか変な違和感が無かったか? 上手く説明できないんだけど……』
(ん?)
『フランは分からないか?』
(うーん?)
『ウルシは感じたか?』
(オウン?)
俺の気のせいだろうか?
「すいません。罠を踏んじゃって……」
あ、まただ! また変な感じが……。
『今のはどうだ?』
(ん?)
(オン?)
フランたちは分からないか。何なんだ? 魔獣や罠の気配を感じとったとか? うーん、分からないな。
『仕方ない。今は先に進もう』
「ん」
「あの、大丈夫?」
「問題ない」
「ならいいけど……」
そうして進むと、ソラスが急に足を止めた。どうしたんだ?
「あそこに、何かある」
「? どこ?」
「あそこです」
ソラスが指差す方を見るが、全くわからん。罠があるのは分かるんだが。何があるんだ? それに、また何かチリッとしたか?
「ほら、あそこですよ。ちょっと行ってみましょう」
お? また何かチリッとしたぞ。今度は間違いない。
だが、その違和感の正体を確かめる間もなく、ソラスがフランの返答を待たずに駆け出した。そして、いきなり四方の壁に小さい穴が開き、霧状の物が噴き出す。
毒ガスだ。状態異常耐性に、毒吸収もあるからな。俺たちには全く意味はないんだが……。
「ああ! すみません!」
ソラスが罠の起動スイッチを踏み込んでしまったらしい。おいおい、いくら何でもミスし過ぎじゃないか?
「だ、大丈夫ですか!」
ソラスの姿は通路中から噴き出す毒ガスに遮られて、声だけしか聞こえない。
そして、またチリッとした感覚。
どうやらソラスが喋る時に感じるらしい? もしかして、スキルを使われた時に感じる違和感って、これのことか? じゃあ、ソラスが何かスキルを使っている?
ソラスが俺たちに対してスキルを――?
そう思った瞬間、一気にソラスへの疑念が噴き出した。まるでダムが決壊したかのように、瞬時に様々な疑惑の想いが俺の心を埋め尽くす。
3人に襲われたと言っていたのに、その後に相手は男が4人とか言ってたか? その時は単なる言い間違いかと思ってサラッと流してしまったが……。鑑定遮断を持った初対面の相手をどうしてそこまで信用した?
それに、男4人? 覆面に鎧を着ていて、なんで男だと断定できた?
その後フランに色々質問をしていたが、あれって明らかにスキルを探っていたよな? どうしてその行為をもっと怪しく感じなかった?
捕えた男を殺そうとしたこともそうだし、罠を発動させたこともそうだ。普段ならもっと怪しく思うんじゃないか?
いや、怪しくは思ったんだ。その時は。だから、何度か嘘感知を使った。でも、ソラスは嘘をついていなかった。だからこそ、ここまで信じてしまったのだし。
出会って1時間も経っていない相手を、仲間の様にさえ感じていたことに、俺は言い知れない不安感を覚えた。それと同時に、凄まじい不快感が襲ってくる。
分からん……。俺たちはソラスに何かされているのか? でも、何をされている? それとも、勘違いなのか?
ソラスが凄まじく怪しいのは確か。だが、確たる証拠がない……。
『フラン、喋るな』
(?)
『俺の言う通りにしろ。いいか――』
そして、ウルシは地面に倒れ伏し、フランは片膝をついて息を荒げた。まあ、演技だが。
俺の疑念の通りソラスが怪しければ、何かしら行動を起こすだろう。とりあえず念動は瞬時に発動可能だし、フランとウルシには次元魔術で覚えたクロノス・クロックをかけてある。フランにはソラスの動きがスローモーションに見えているはずだ。もし攻撃されたとしても、かわすことができるだろう。
欠点としては、ソラスの喋っていることもスローで聞こえてしまっている為、フランたちには何を言っているのか今一わからないことだろうか。だからこそ、俺だけには魔術をかけていないのだし。
「……何か魔術を使ったんですか?」
「……」
「フランさん? 大丈夫なんですか?」
魔術の発動を感知されてしまったらしい。クロノス・クロックは使わない方が良かったか? でも、不意打ちを受ける可能性がある以上、危険は出来るだけ減らしておきたいし。
「あ……」
「ふむ。何か魔術を使ったけど、防ぎきれなかったんですか?」
「うぅ」
とりあえず苦し気に呻くフラン。良い演技だぞフラン!
「本当に毒に侵された様ですね……。大丈夫、いま楽にしてあげますからね?」
やっぱり嘘はついていない。だが、ソラスの行動はその言葉とは真逆だった。腰の剣を抜くと、一気にフランに向かって振り下ろしたのだ。
いや、嘘じゃないのか。死ねば楽になるからね。ある意味テンプレの台詞だよな。
「ん」
「なっ! 馬鹿な!」
「ふっ!」
「ぐぁぁ!」
フランは瞬時に剣を躱すと、起き上がりながら俺を抜き打った。剣を持っていた右の手首が斬り飛ばされる。そして、返す刀で斬り上げられた俺によって右足もサヨナラだ。
「な、何が……」
ドッと地面に倒れたソラスは、唖然とした顔で呻いていた。
俺はフランのクロノス・クロックを解く。このままだと尋問も出来ないからね。
「まずは鑑定遮断を解除しろ」




