150 襲撃者
俺たちはソラスを連れて、進んできた道を戻る。
怪我が癒えたとはいえ、ソラスはかなりの血を失っているはずだ。だが、その動きは悪くない。
彼のパーティはD~Fランクの冒険者で構成されていたと言っていたか? 勝手にランクFだと思っていたが、E以上かもな。
「フランさんは何か感知系スキルを持っているのか? 僕は気配察知くらいなんだ」
「ん」
ソラスは黙れない性格なのか、色々と喋っているな。まあ、フランは頷くだけだが。
俺たちが解除しまくった罠はまだ修復されていないようで、サクサクと進むことができた。このまま罠の難度が高い5、6階を抜けられたら有り難いんだが……。
小走りでダンジョンを進む俺たちの前方から、男が2人歩いてきた。
「やあ、こんにちは」
「ん。こんにちは」
「ええ? もしかしてきみたち2人だけなのかい?」
「まさか! こんな所にこんな子供たちが2人なわけあるまい!」
「だ、だよな? 仲間はどこにいるんだ?」
普通はそう思うよな。
2人の男たちは驚愕の表情でフランを見ている。だが、直ぐに平静を取り戻すと、色々と聞いてきた。
「本当に2人だけなのか?」
「冒険者なの?」
「そっちの狼は従魔なのかい?」
「もし仲間とはぐれたんなら、しばらく俺たちと一緒に行くか?」
「おお、それがいい!」
「そうしなよ!」
気持ちのいい奴らだね。フランとソラスを心配してくれている様だ――なんていうと思ったか!
鑑定してみたら、こいつら真っ黒だ。
窃盗、拷問、恐喝、欺瞞スキルを持っているし、男たちの称号に殺人者がある。
他の冒険者に友好的に近づいて、油断させてからバッサリってことなんだろう。ダンジョンカードには倒した魔獣の情報しか記されないし。罪を犯しても露見しにくい。
ソラスのパーティを襲ったのはこいつらなのか? それとも別口か? そう思って気配を探ってみると、俺たちの背後からゆっくりと近づいてくる気配があった。これで3人か……。まあ、どちらにせよ敵に変わりはない。
『フラン、こいつら追剥だ』
(ん)
(オン?)
『どうしたウルシ?』
(オンオン?)
どうやら俺が鑑定を使ったことが疑問らしい。ディアスに鑑定を使う相手は選べって言われた直後だしな。
だが、あれは公式の場で王族なんかに鑑定を使うと、マナー違反だって怒る奴もいるよ。場合によっては変な陰謀なんかに巻き込まれるかもよ。という注意だ。
ダンジョンなんかではこういう馬鹿どもも居るし、鑑定を使わざるを得ない。それは寧ろ当然の措置だろう。出会ったばかりの武器を持った相手を無条件で信頼するなんて、どんだけ平和ボケしてるんだって話だ。
それでも鑑定するのはマナー違反だと怒るんであれば、むしろ怪しい。鑑定されて不味い事でもあるのか? まあ、凄い珍しいスキルでも持っている可能性もあるが……。だとしても、鑑定はするけどね。
逆に相手がこっちを疑って鑑定してきたとしても、それは仕方ないことだと思うし。
『ということだ』
俺がウルシに説明してやっている間に、全然進まないフランとの会話に男たちが焦れてきたようだった。
「だから、仲間はいるのかと聞いているんだが?」
素が出始めたのか、口調が少し荒っぽくなってきたかな?
「ん?」
『フラン、1人は生かせ。リーダーっぽい戦士が良いな』
(あとは?)
『どうせ俺たちだけで生かしたまま地上に連れて行くのは大変だし、斬っちまっていい』
(ん。分かった)
『ステータスはそこそこだ。油断するなよ。ウルシはソラスを護衛』
(グルル!)
とは言え実はソラスたちを襲った相手とは別で、昔悪かったけど、今は更生して真人間になっている可能性も僅かだが捨てきれない。なので、奴らから手を出してきてほしいところなんだが。
そんな俺の願いが通じたのだろう。
焦れた男がついに動いた。
「ふぅ。もういいや」
リーダー格のその言葉が合図だったんだろう。フランの背後から近付いてきていた男が、短剣を取り出すと凄まじい速さで突進してきた。
殺すためではなく、怪我を負わせて動きを封じるための攻撃だ。クズだが、腕と判断能力は悪くないな。なにせ、明らかに少女のフランに対しても、まったく油断せずに罠に嵌めに来ているからな。
『まあ、甘いけど』
「なっ――?」
俺の念動によって、短剣があっさりと受け止められる。空中で急に動かなくなった自分の腕に驚いている男は、次の瞬間には俺の風魔術によって首を切断されていた。
「え? え?」
驚いて目を白黒させるソラスを置き去りに、事態はあっと言う間に進行する。
「ダズ!」
「ぐあ!」
1人がフランによって胴を輪切りにされ、1人は剣の腹でぶっ叩かれて吹き飛んでいた。
「がはっ!」
石壁にヒビが入る程の勢いで激突する男。多分、腕と肋骨は粉々だろう。壁にぶつかった背中もやばいかもね。
「なぜ……」
「バレバレ」
「ぐぞ……ぐ…………」
フランの言葉に男は悔し気に呻くと、血を吐き出して意識を失った。
(師匠、どうするの?)
『一旦地上に戻ろう。こいつをギルドに突き出す。賞金が貰えるって話だし。他に仲間がいれば、その情報も吐き出させた方が良いだろ』
俺たちが相談している間に、ソラスがふらりと前に出る。そして何の躊躇もなく剣を振り下ろした。
ギィン
フランがとっさに俺で止めていなければ、せっかく生かして捕縛した男の命はなかっただろう。
「なにを?」
「す、すいません。こいつらを目の前にしたら、つい……」
やはりソラスのパーティを襲った奴らだったらしい。ソラスは青い顔で、剣をおさめる。だが、厳しい顔で倒れる男を睨んでいた。




