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149 ダンジョンでの出会い

 俺たちは順調にダンジョンを進んでいた。


 まだ1階なので魔獣は弱いし、罠も簡単。地下2階へ降りる階段を発見したとき、俺たちは一切ダメージを負っていない状態だった。


「はやく2階いこう」

『1階はお試しゾーンって感じだったな』

「オン」


 いくら慎重に進むとは言っても、1階のレベルは簡単すぎた。


『苦戦する階まで進もう』

「ん」


 とりあえずは2階だな。


 俺たちは周囲を警戒しつつ、階段を下る。すると、そこには1階の入り口とほとんど変わらない光景があった。


 小部屋から3本の通路が伸びている。


「また左?」

『いいんじゃないか?』


 他に情報がある訳でもないんだし。


 そんな感じで、地下4階まではトントン拍子に進めてしまった。だって魔獣も罠も全然大したことなかったのだ。


 他の冒険者の姿もないし。皆、全く稼げないこの辺の階は最短ルートで突っ切って行ってしまうんだろう。


 地図もなく、いちいち罠を解除しながら進む物好きは俺たちくらいだ。


 そして地下5階。


「……」

『……』


 ようやく罠の難度も少し上がってきたみたいだった。


 フランが罠解除にかける時間が少し増えている。6階への階段へと到着した時には、今までの倍近い時間が経過していた。


「師匠、罠」

『おう。しっかし階段の目の前に罠とは、配置も嫌らしくなってきたな』

「オン」

『しかも難易度が少し高そうだ』


 反響定位で内部を調べてみると、その構造が大分複雑なのが分かった。だが、フランはむしろやる気だ。


「がんばる」


 という事で、フランが真剣な表情で罠をいじり始める。解除中も無言で、罠をいじるカチャカチャという金属音と、小さな呼吸音だけが周囲に響いていた。


 俺もウルシも黙って見守る。


 5分ほど経過したところで、フランと俺が声をあげた。


「あ」

『あ』


 そして、天井からウルシに向かって撃ち出される3本の矢。


「キャイン!」

『ウルシ、大丈夫か?』

「オウン……」


 なんとか躱したようだな。まあ、ウルシにも良い薬になっただろう。敵も罠も雑魚すぎて、確実に集中力無くなってきてたしな。


「ごめん、失敗」


 切ってはいけないワイヤーを切断してしまったようだ。


『やっぱ難易度も上がってきて、専門職じゃないと完璧な解除は難しくなってきたな』

「次は解除してみせる」

『まあ、もう少し頑張ってみるか?』

「ん!」


 罠解除スキルの訓練するなら、難しい罠に挑戦する方が良いだろうし。


『ウルシも、気合入れ直せよ』

「オン!」


 さて、では改めて階段を下りよう。


『6階も他の階と入り口の構造は変わらんか』

「道が3つ。また左でいい?」


 だが、同じなのは最初だけだった。


 まず罠の難度が跳ね上がった。5回に1回は解除に失敗している。しかも、ただ解除が難しいだけではないのだ。


 飛び出す矢には毒が塗られ、吹き出す煙はより広範囲に。落とし穴の深さは倍に。即死とまではいかなくとも、大怪我は確実だろう。


 また、魔獣の強さも1段上がっていた。


「はぁぁ!」

『ファイヤ・ジャベリン!』

「グルル!」

「ん!」

『お見事!』


 フランは戦闘時に積極的に抜刀術を使っている。これもまた練習と言う事なんだろう。


 壁の隙間から這い出て来るアサシン・スライムに、壁に擬態して襲ってくるカメレオン・リザード。どいつもこいつも気配を感じさせずに近寄ってくる嫌らしい魔獣ばかりだった。


 なるほど、ここで戦っていれば感知系、察知系スキルの熟練度がガンガン上がるだろうな。


 とは言え、まだまだ俺たちの相手ではない。脅威度で言えば精々がEってところだし。奇襲にさえ気を付けていれば、ダメージを受けることもなかった。むしろ罠の方が数段厄介な程だ。


『もう少し下の階層に行けば、魔獣ももっと強くなるだろうが……』


 まだダンジョン初日だ。数日はこの辺でスキルの練習をしていてもいいかな。下の階層の魔獣になれば、そう簡単に察知できないような魔獣も出てくるだろうし。


 とりあえず出現する魔獣の格が上がるまでは進んでみるか。進むか戻るかはその時決めるってことで。


 そして6階を攻略し、7階に降り立った時、俺たちはこのダンジョンで初めて、自分たち以外の冒険者と出会っていた。


 まあ、半死半生だが。


 血まみれの少年が、壁に寄りかかる様に蹲っていた。


 隣にはすでに事切れた男性が横たわっており、放っておけば少年が彼の仲間入りをすることは確実だ。


 どうやら少年は鑑定遮断を持っている様で、鑑定ができない。見た目から獣人という事は分かるが。とりあえず助けようかね? こっちは3人だし、もし悪人だったらもう一度死にかけてもらえばいいさ。


『グレーター・ヒール』

「……え……ぁ……?」

「大丈夫?」

「君が、助けて、くれたのか?」

「ん」

「そうか、ありがとう。そ、そうだ! 仲間は! 僕以外に誰かいなかったか?」

「もう一人は間に合わなかった」

「ああ、リ――リーダー! なんでこんな事に……」


 獣人の少年はリーダーと呼んだ男性の亡骸に縋り付き、悲鳴を上げる。


「うううう……」


 そんな少年に、フランが俺を突き付ける。容赦ないな。だが、必要な行為だった。


「あなたがその男を殺していないという証拠もない」


実は少年が盗賊で、死体の男に襲い掛かって相打ちだったという可能性だってなくはないのだ。とっさに演技をしているにしては名演技だが。鑑定が効かない以上、油断はできないからな。


「君は、冒険者なんだね。凄いよ……。僕とは大違いだ」

「質問に答える」

「どうすれば信じてもらえるか分からないけど、僕と彼は仲間だ。本当に……」

『嘘はついてないな』

「ん。わかった」

「信じてくれるのか?」

「目を見れば分かる」


 大嘘だが、少年はそれで安堵した様子だ。ほっと息を吐いて、ふらふらと立ち上がる。


「ありがとう」

「……何があった?」


 かわいそうだが、事情を聴かないといけない。


 フランの疑問に、少年はポツポツと事情を話し始めた。彼のパーティはランクDが1人、ランクEが1人、ランクFが4人の6人パーティだったらしい。


 そして、素材の収集のためにダンジョンに潜っていたのだが……。


「パーティが突然何者かに襲われたんだ」

「魔獣?」

「ううん。この階層の魔獣に奇襲を受けたって、6人が全滅ってことはありえない。人間だよ。ダンジョン内で盗賊行為を行っている、悪質な冒険者に襲われたんだ」


 なるほどね。そういう事をしている奴らはやっぱり居るんだな。


 元々盗賊行為をしている冒険者がいると言う噂はあったらしい。だが、そういう奴らをギルドに突き出すと賞金が貰えるため、むしろ捕まえてやろうと勢い込んでいたんだとか。だが、襲撃者たちの方が1枚も2枚も上手だったということだろう。


「最初は罠を利用され、2人が倒された。その後の奇襲で2人が倒され……。相手は3人組で、残った僕ら2人ではどうしようもなかった。でも、リーダーが最後の力を振り絞って、転移の羽を使ったんだ。生きていれば、転移されたはずなんだけど……」

「あなたとリーダーだけ」

「そうか」

「襲撃者はどんな奴らだった?」

「覆面で顔を隠していたし、装備も特徴のない装備だったから……。男が4人という事しかわからない」


 さて、どうしよう。このまま少年――ソラスだけでダンジョン外に出ろと言っても、ソロでは無理そうだ。せっかく助けたのに、道中で死なれたら寝覚めが悪いし。


 結局、俺たちはソラスと一緒に地上に戻ることにした。初日にしてはそこそこ潜ったし、戻るには良いタイミングだったしね。


「すまない、手間をかけさせる」

「困ったときはお互いさま」

「ありがとう。その、リーダーだけでも連れ帰ってやりたいんだが……。このままダンジョンに吸収させるのは忍びない」


 人間や魔獣の死体は、時間が経過するとダンジョンに吸収されてしまう。解体して素材にしてしまえば吸収されないし、吸収されるまでは1日ほどかかるので、ダンジョン外に持ち出す猶予はあるのだが。


 ソラスは自分で担いで行くつもりのようだ。ただ、それだと進む速度が相当遅くなってしまうだろう。


 ソラスの他の仲間はさすがに無理だが、リーダーくらいは運んでやるか。


「分かった」

「ええ? 一体何を?」

「次元収納」

「ああ、なるほど! 凄いな、初めて見たよ」

「ん。行く」

「あ、待って」


 突如消えたリーダーの死体に驚くソラスを尻目に、フランは階段を上り始めた。


少々遅くなりましたが、なろうこんの2次を通過していました。

全然気付いてませんでしたよ。


これも応援して下さる読者様のおかげです。

本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
人の命の重さを表すものとして、倒されたより殺されたや死んだの方がしっくり来る気がする。
[一言] 三人組に襲われて、賊は男四人?
[気になる点] 師匠さんは鑑定遮断持ちなのに何故少年の名前が分かったのか? 師匠さんの鑑定スキルはかなり高いのに遮断出来るなんてスゴくね? [一言] この少年敵だな。
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