13 フランと師匠
『まずは状況の確認だ。落ち着け』
「落ち着いてる」
『君は落ち着きすぎだ』
俺が思っていた以上にマイペース娘なようだ。これは大物になる予感だ。
『君は俺の装備者になったわけだ』
「うん」
『一応、魔剣的な存在なんで、そこそこ強い……はずだ』
「うん」
『だから、俺としては、君に使ってほしいわけだ。剣として。しまい込まれるのは勘弁して欲しい。君は、俺を使うつもりがあるか? つまり、俺を使って、魔獣とかと戦うつもりはあるか? ってことなんだが』
さすがに、この少女にそんな生活を強制はできない。
初めての装備者だし、この娘に使ってほしい気持ちもあるが、嫌だと言うなら諦める。
「ある。とてもある」
即答だった。俺をギュッと握るその姿は、凛々しくさえあった。
「私は、強くなる。絶対」
何か、事情でもあるのか、非常にやる気の様だ。
『何か目標があるのか?』
「壁を突破する」
『壁? なんだそれ?』
話を聞くと、獣人というのは、魔獣の様に進化をする種族らしい。種族によって様々な条件があるが、進化を果たすと獣人内で尊敬され、敬われる。
ただ、大多数の獣人は進化できずに死んでいく。進化するのは、それくらい大変だってことだ。
しかも、少女の種族である黒猫族から、進化した者が過去において一人もおらず、獣人族の中でも下っ端扱いなのだとか。少女の両親も何とか進化しようと無理を続け、冒険のさなか力尽きてしまった。そして、残された少女は奴隷商人に目を付けられ、捕えられてしまったという訳だ。
少女は、両親の遺志を継ぎ、進化を果たすことを目標にしているという。
『うんうん、ええ話や! 気に入った! 俺がお前を絶対に進化させてやる!』
「本当?」
『おう! まずはビシバシ鍛えて、強くしてやろう。そして、ダンジョンに行ってレベル上げて、進化だ!』
「ありがとう」
『良いってことよ! 装備者と剣って言ったら他人じゃないんだ! えーと、そう言えば名前は?』
名前をまだ聞いていなかった。大事な装備者なのに。ただ、少女の答えは予想外であった。
「ない」
『え? 名前が無いの?』
「ない」
確かに、氏名がなしになっていたが、本当にないとは。
『なんで?』
「奴隷契約をすると、名前がなくなる」
『うーん? どういうことだ?』
「新しい主人は、名前を決めたい人もいる。だから、名前を消される」
なるほど、契約魔術を利用して、名前を名乗ることを禁止されるってことかね。なんか、ユバ〇バに名前を取られた千尋みたいだな。
「8歳の時に、奴隷にされて、名前が消された」
という事は、4年も奴隷として生活してなお、目標を成し遂げようという心を失わなかったことになる。きっと、酷い生活を送ってきただろうに。ちょっと尊敬しちゃったぞ。
『そうか……じゃあ、元の名前は?』
「フラン」
昔飼ってた犬の名前だけど、まあいいか。俺的にも呼びやすいし。
『うーん。じゃあ、君の名前はフランだ』
「いいの?」
『だめ?』
「ううん。ダメじゃない。私はフラン」
実は嬉しいらしい。コクコクとうなずいている。これで呼びやすくなった。だが、次にフランから発せられた言葉に、俺は戸惑ってしまった。
「あなたの名前は?」
『え? 俺?』
「そう」
ここ一月、誰とも会話してこなかったので、気にならなかったが、そう言えば名前が無かったな。間抜けなことに、そのことに全然気がついてなかった。
一応生前の名前があるが、それを名乗るのもね。なにせ、剣なのに、人っぽい名前はおかしいだろう。
でも、ステータスを見ても名称は不明だ。くそ、もっと早く気にしてれば、格好いい名前を考えてたのに!
魔剣カ〇スとかデルフリ〇ガーとか、何かあっただろう!
『えーと……』
「ないの?」
『はい』
「じゃあ、私が付ける」
まあ、それもいいかな。装備者だしね。フランの好きな名前で呼んでもらえば、愛着も持ってもらえるだろう。別に、名前にこだわりもないし、好きに呼べばいいさ。
「うーん……?」
『ドキドキ』
「ふむー……?」
『ワクワク』
「むむー……。決めた」
『お! そうか! それで? それで?』
「師匠」
『は?』
「師匠」
『なんで?』
「私を鍛えてくれるって言った。だから師匠」
『あー、他に候補はないの? それ一択?』
「ない。よろしく、師匠」
〈名称が、師匠に仮設定されました〉
うわー! アナウンスさんがいらっしゃった! 嘘、師匠で決定? まじで?
「嫌?」
相変わらずの無表情なのだが、微妙に不安そうな顔をしている。ほんの少しだが。そんな顔をされたら、嫌とは言えないじゃないか!
『嫌じゃないよ! いい名前だなー!』
「うん」
ということで、俺の名前は師匠に決定したのだった。なんか、剣の名前としてどうなのかと思うが、フランが気に入っているならいいや。そう、自分に言い聞かせた。
『じゃあ、これからどうするか。そもそも、奴隷商人が死んだけど、契約はどうなってるんだ? 解除されたとか?』
「されてない。首輪が外れてないから」
フランが首輪を指差す。
「奴隷商会に契約書がある」
『奴隷商人が死んでも、大本が残ってたら意味がないか』
「このまま町に行ったら、また捕まる」
首輪をどうにかしないといけないようだ。
『壊すのはダメ?』
「うん。壊れたら、死ぬ」
『え? まじ?』
「まじ」
おお、ヤバい。ちょっと切ってみようとか考えてたよ。
『何とかならないか……?』
スキルはどうだろう。そう思って、スキルを探してみると、いくつか試してみたいスキルを見つけた。
ただ、この場所ではスキルを使えないので、とりあえず魔力吸収地帯を離れてもらうことにした。
「じゃあ、森から出れば大丈夫なはず」
馬車から目ぼしい物をいただき、移動開始だ。勿論、熊は収納済みだ。一瞬の発動で仕舞えたので、助かった。
刀身を馬車の幌で包んでもらい、小男のズボンベルトで背中に括り付けられる。フランは小柄なので、もう少しで地面にこすられてしまいそうだな。気を付けるように頼んでおかないと。
俺を装備している効果で、少女の身体能力はかなり強化されている。フランはそのことに相当驚いているようだ。
30分もかからず森を抜けられたことに、目を白黒させていた。ついでに、気配遮断の効果などで、魔獣などにも出会わなかったことにも驚いていた。
「すごい。師匠すごい」
『はっはっは。そうだろう』
「うん」
『さて、スキルを試してみよう』
まずは回復魔術だ。状態異常を治す魔術を使ってみた。効果がない。
『じゃあ、次はこれだな』
次は、浄化魔術の、呪いを解除する魔術を使った。
『まあ、Lv2の魔術だしな』
ダメだった。本命は次だ。
使うのは、契約魔術だ。その名の通り、対象と契約を結ぶ術だが、これで奴隷契約を上書きするのだ。
契約魔術:対象と魔力による契約を結ぶ。レベルと魔力によって、様々な契約内容を選択可能。ただし、対象の承諾がない場合、契約を結ぶことはできない。被契約者は、1つの契約しか結ぶことはできず、複数の契約を結ぼうとした場合、打ち消されるか、上書きされる。
というのが、契約魔術の詳細だ。
奴隷の契約が、契約魔術を用いた物だったら、上書きできると思うんだよな。
俺は首輪に流れる魔力を意識しつつ、それをかき消す様なイメージで、契約魔術を行使した。
バチ
弾かれるような音。だが、俺は確かに契約魔術同士が干渉し合うのを感じていた。ただ、俺の契約魔術のレベルが低すぎて、弾かれてしまった。
『よし、これは上書きできそうだ』
俺は自己進化ポイントを使い、契約魔術のレベルを1つずつ上げながら、契約魔術を試していく。すると、レベル7で、契約を上書きできた。ポイントを12も使っちゃったよ。
契約内容は『不都合のない範囲で、フランと名乗ること』にしておいた。こうすれば、偽名なんかを名乗ることも可能だろうし。
パキン
上書きされたおかげで、奴隷の首輪が自然に外れる。
『体は大丈夫か?』
「大丈夫。問題ない」
フランの魔力の流れを観てみるが、どこにも問題ない。そして、さっきまで、首輪を中心にフランを縛っていた、契約魔術の魔力はきれいさっぱり消えている。
「ありがと」
おおう。猫耳様のハニカミや! 眼福眼福。しっかし、かわいいね。よく見たら、結構美少女だし。これは、成長したら周りが放っておかないだろう。
ダメだ。許しませんよ。フランと付き合うなら、俺を倒してからにするんだな!
「これ」
俺が独りで燃えていたら、フランが腰から何かを取り外した。奴隷商人が持っていたズダ袋だ。
『何か入ってるのか?』
中を見てみる。なるほど、色々入ってるね。
お金が数枚。この世界の通貨単位がよく分からないので、どれくらいの価値があるのかは分からないが。銀貨と銅貨みたいなので、超高額という事はないだろう。
あとは、道具がいくつか。なんと、魔道具らしい。フランがそれぞれ実演して見せてくれた。
光を灯すトーチの魔道具。飲み水を生み出す小さい水差し。腕力を+1してくれる腕輪。
大した能力ではないが。面白いな。何かに使えるかもしれないので、次元収納に放り込む。
『さて、これからどうしよう。何かあてはある?』
「うーん。町がある」
『この辺に?』
「あっち」
『あっちって……。正確な距離とか分からないか?』
「さあ?」
どうやら、奴隷商人たちの、東に進むという話を偶然聞いていたらしい。フランは方向感覚のスキルがあるので、進んできた方角くらいは何となく分かっている。その結果が、「あっち」というアバウトな回答に繋がる訳だ。
『じゃあ、まずはそこ行くか』
成り行きに流されるまま、旅立ちの時だった。
一応、現在のステータスです。
名称:師匠
装備登録者:フラン
種族:インテリジェンス・ウェポン
攻撃力:392 保有魔力:1650/1650 耐久値:1450/1450
魔力伝導率・A
スキル
鑑定:Lv7、鑑定遮断、高速自己修復、自己進化〈ランク7・魔石値2109/2800・メモリ・62・ポイント18〉、自己改変、念動、念動上昇、念話、攻撃力小上昇、装備者ステータス中上昇、装備者回復小上昇、保有魔力小上昇、メモリ中増加、魔獣知識、スキル共有、魔法使い
セットスキル
剣術:Lv7、拳闘術:Lv3
剣技:Lv7、拳闘技:Lv1
回復速度上昇:Lv1、回避:Lv2、回避上昇:Lv1、脚力上昇:Lv2、瞬間再生:Lv1
回復魔術:Lv1、火炎魔術:Lv1、浄化魔術:Lv3、土魔術:Lv4、火魔術:LvMax、補助魔術:Lv3
危機察知:Lv1、警戒:Lv4、気配察知:Lv2、採取:Lv2、反響定位:Lv1、魔力感知:Lv3
隠密:Lv3、気配遮断:Lv3、逃走:Lv1
威嚇:Lv2、覇気:Lv1
火炎耐性:Lv1、恐怖耐性:Lv1、衝撃耐性:Lv1、状態異常耐性:Lv1、精神耐性:Lv1、毒耐性:Lv3、眠気耐性:Lv1、病気耐性:Lv3、物理攻撃耐性:Lv1、麻痺耐性:Lv2
解体:LvMax、投擲:LV3、料理:LvMax
空中跳躍:Lv2
鉱物学:Lv1、製薬術:Lv1、薬草学:Lv3、
毒中呼吸:Lv1、分体創造:Lv1
気力操作、次元収納、振動牙、浮遊、分割思考、魔力操作
暗視、吸収強化、視覚強化、消化強化、鷹の目、聴覚強化、肺腑強化、敏捷力小上昇、魔力小上昇、味覚強化、腕力小上昇
メモリスキル
武器戦闘スキル
弓術:Lv1、曲剣術:Lv1、剣術:Lv7、拳闘術:Lv3、棍棒術:LV3、盾術:Lv3、杖術:Lv1、小斧術:Lv1、戦杖術:Lv1、戦槌術:Lv1、双剣術:Lv2、槍術:Lv4、槍斧術:L2、大剣術:Lv1、体術:Lv3、短弓術:Lv1、短剣術:Lv3、長弓術:Lv1、刀術:Lv1、闘爪術:Lv1、粘体術:Lv1、斧術:Lv3、鞭術:Lv1、棒術:Lv1、矛術:Lv1
戦技スキル
剣技:Lv7、拳闘技:Lv1、盾技:Lv1、戦槌技:Lv1、槍技:Lv2、槍斧技:L1、粘体技:Lv1
肉体操作スキル
回復速度上昇:Lv1、回避:Lv2、回避上昇:Lv1、脚力上昇:Lv2、硬化:Lv1、酸唾液:Lv1、柔軟:Lv1、瞬間再生:Lv1、瞬発:Lv1、脱皮:Lv1、軟化:Lv1
魔術スキル
回復魔術:Lv1、火炎魔術:Lv1、風魔術:Lv1、契約魔術:Lv7、眷属召喚:Lv1、浄化魔術:Lv3、誓約魔術:Lv1、土魔術:Lv4、火魔術:LvMax、補助魔術:Lv3、水魔術:Lv2
感覚探知スキル
足裏感覚:Lv1、危機察知:Lv1、気流視覚:LV1、警戒:Lv4、気配察知:Lv2、採取:Lv2、狩猟:Lv1、振動感知:LV1、電磁感知:Lv1、熱源探知:Lv1、反響定位:Lv1、魔力感知:Lv3
隠密隠蔽スキル
隠密:Lv3、擬態:Lv1、気配遮断:Lv3、消音飛行:Lv1、生存術:Lv1、逃走:Lv1、土中潜行:Lv1、夜陰紛れ:Lv1
影響発揮スキル
威圧:Lv1、威嚇:Lv2、指揮:Lv1、士気高揚:Lv1、覇気:Lv1、咆哮:Lv1
耐性スキル
火炎耐性:Lv1、恐怖耐性:Lv1、衝撃耐性:Lv1、状態異常耐性:Lv1、精神耐性:Lv1、毒耐性:Lv3、眠気耐性:Lv1、病気耐性:Lv3、物理攻撃耐性:Lv1、麻痺耐性:Lv2
技能スキル
穴掘り:Lv3、運搬:Lv4、解体:LvMax、鍛冶:Lv1、歌唱:Lv1、曲芸:Lv1、細工:Lv1、裁縫:Lv1、掏摸:Lv1、跳躍:Lv1、投擲術:LV3、登攀:Lv1、土木:Lv1、腹這行動:Lv1、木工:Lv1、料理:LvMax、罠作成:Lv1
学芸スキル
鉱物学:Lv1、製薬術:Lv1、薬草学:Lv3
魔力能力スキル
吸収:Lv1、気流操作:Lv1、空気圧縮:Lv1、空気弾発射:Lv1、空中跳躍:Lv2、振動衝:Lv1、操糸:Lv1、挑発:Lv1、天候予測:Lv1、超音波撃:Lv1、毒中呼吸:Lv1、分体創造:Lv1、魔力吸収Lv1
特殊能力スキル
鱗再生、オークキラー、気力操作、幻影体、ゴブリンキラー、コボルトキラー、痺れ牙、次元収納、振動牙、浮遊、分割思考、魔力操作、魔糸生成、魔毒牙
常態スキル
暗視、鱗硬化、嗅覚強化、吸収強化、強酸粘体、甲殻強化、甲殻軽量化、視覚強化、消化強化、体毛強化、体毛硬化、鷹の目、聴覚強化、痛覚鈍化、肺腑強化、敏捷力小上昇、捕食、魔力小上昇、味覚強化、卵殻擬態、腕力小上昇
合成スキル
振動弾発射




