143 ギルマスの正体
エルザ(男)に連れられて俺達は階段を上る。ウルシは影に入らせた。一応偉い人の部屋だしね。
「ギルドマスター。フランちゃんを連れて来たわよぉ」
「エルザくん、ありがとう。そしてまた会ったね、フランくん」
「ディアス」
「覚えてくれていて嬉しいよ」
やって来たギルドマスターの執務室。そこに居たのは驚きの相手だった。
町の外でフランを助けてくれた伊達男。ディアスがにこやかな笑みを浮かべて立っていたのだ。
「ディアスがギルマス?」
「そうだね。改めて、僕がウルムット冒険者ギルドのマスター、ディアスだよ。よろしく」
「ん、よろしく」
貴族じゃなくて、ギルドマスターだったのか。冒険者が多いこの町のギルドマスターだったら、様付けされるのも分かるな。
おっと、また忘れる前に、とりあえず鑑定しちゃおうかね。
名称:ディアス 年齢:71歳
種族:人間
職業:幻奇術士
状態:平常
ステータス レベル:76/99
HP:241 MP:668 腕力:122 体力:110 敏捷:291 知力:389 魔力:278 器用:389
スキル
足裏感覚:Lv4、隠密:Lv6、格闘技:Lv3、格闘術:Lv4、感知妨害:Lv6、鑑定察知:Lv8、希薄化:Lv7、奇術:Lv8、急所看破:Lv4、宮廷作法:Lv6、気配察知:Lv6、気配遮断:Lv6、幻影魔術:LvMax、幻像魔術:Lv6、混乱耐性:Lv4、弱点看破:LvMax、消音行動:Lv3、状態異常耐性:Lv3、短剣技:Lv7、短剣術:Lv7、土魔術:Lv3、手品:LvMax、投擲:Lv7、火魔術:Lv3、魅了耐性:Lv4、木工:Lv4、罠解除:Lv4、罠感知:Lv8、罠作成:Lv7、気力操作、痛覚鈍化、不屈、分割思考、魔力操作、魔力小上昇
ユニークスキル
技能忘却:Lv7
固有スキル
思考誘導:Lv8、視線誘導:Lv8
称号
幻影術師、ギルドマスター、トリックスター、凡人の壁を乗り越えし者、ランクA冒険者
装備
竜牙の短剣、竜鱗のスーツ、竜革の外套、速足の靴、身代りの腕輪、奇術師の指輪
ふーむ。強いな。ステータスもスキルも全てが高レベル。魔術も近接戦闘も行けそうだ。しかも搦め手のスキルが大量だ。手品とか奇術が無ければ、暗殺者と間違えかねないスキル構成である。しかもユニークスキル持ちだ。
技能忘却:対象は一定の間、指定されたスキルの存在を忘れる。効果時間は指定スキルのレベル、レア度による。最大で1分間。再使用は指定スキルのレベル、レア度による。
これってメチャクチャ強くない? 戦闘中に武器技能を忘れさせたりしたら、短時間でも効果は絶大だし。
思考誘導:対象の思考を一瞬だけ誘導し、興味の対象を特定の物へと移させる
視線誘導:対象の視線を一瞬だけ誘導し、視線の向かう先を僅かに操る
この2つのスキルに、希薄化や気配遮断などの隠密系スキルと、幻影魔術を併用されたら、戦闘中でも姿を見失いかねない。職業名からして幻奇術士だしな。奇術と幻影のスペシャリストなんだろう。単にステータスが強いだけの奴なんかよりも、よほど戦いにくそうだな。
「ふふふ。今、僕を鑑定したね」
何でばれたんだ?
「僕はね、鑑定察知スキルのおかげで相手が鑑定を持っているかどうか分かるんだ。自分に使われた時もそれを感じ取ることができるのさ。もしかして僕のユニークスキルが見えたかい?」
「ん」
「やっぱ鑑定のレベルが高いようだね。実は町の外で会った時、僕の正体がばれないようにこのスキルで鑑定をちょっとだけ忘れてもらったんだ。後で会った時に驚かせたくてさ。でも、フランくん全然驚いていないし、悪戯失敗だねー」
そう言えば、あの時鑑定するのを忘れちゃったんだよな。こいつのスキルのせいだったのか! そうなんだよ。不自然だなーと思ってたんだ。何者からかスタンド攻撃でも受けてるんじゃないかと思ったくらいだぜ。
いや、嘘です。俺のうっかりかと思ってました。普通に、「またやっちゃったなー」と反省してました。
「それにしても、フランくんの鑑定はかなり高レベルだね。おかげで3日間もこのスキルが使えなくなってしまったよ。驚かすのも失敗したし、これならやらなきゃ良かった」
「ディアスが勝手にスキルを使ってきた」
「分かってるから、そう睨まないでよ。お詫びに、この町にいる間は色々と便宜を図るからさ」
こいつ、町の外じゃ紳士ぽかったけど、猫被ってやがったのか。手を合わせて頭を下げる姿は、完全に悪戯少年そのものだ。フランもイラッとしたようだが、直接の被害があったわけじゃないし、助けてもらった恩もある。ここは許すことにしたらしい。
「……次やったら怒る」
にしても、一瞬とは言え記憶をいじる様なそこそこヤバめのスキルを、初対面の相手に使うか普通? もしスキルの発動に気づかれた場合、敵対行動とみなされて戦闘になってもおかしくないと思うんだが。
「ギルマスまたやったの? この人ってば、有能な新人に悪戯しかけるのが趣味みたいなものなのよねぇ」
常習犯だったらしい。これがギルドマスターで良いのか?
「フランちゃんも、イラッとしたらガツンとやっちゃっていいからね?」
「わかった」
「応援してるわ。ギルマスはいつか痛い目見ればいいのよ」
「エルザくん酷いな~」
「自業自得でしょ? だいたい、免職されないからって、好き勝手やり過ぎなの!」
「なんで免職されない?」
それは俺も気になった。ギルドマスターだから権力者なのは間違いないだろうけど、それだけで免職されないと言い切るのはちょっと弱い気がするし。
「色々あるのよねー。まず、強い事。クランゼル王国で5指に入るわ。あたしもランクB上位の力はあるけど、手も足も出ないから」
そこまで強いのか? ステータスでは言うほどの差はなさそうなんだけどな。やはりスキルの使い方が上手いのだろう。エルザはパワー系だし、搦め手とかに弱そうだし。
「ダンジョンのある町のマスターとして、それだけでも相応しいと言えるわ」
まあ、冒険者なんて強くてなんぼってところあるしな。
「あと、ダンジョンマスターと交渉できるのもギルマスしかいないし」
ダンジョンマスターと交渉? 一体どういうことだ?
「交渉?」
「そっか。フランちゃんは来たばかりだったわね。ウルムットが有名なのは、未攻略の、ダンジョンマスターが存在する生きたダンジョンが町の中に存在するからなのよ」
「危ない」
「そうね。普通なら危ないわね。でも、ウルムットの場合は大丈夫なの」
「なんで?」
「一言で言えば、ダンジョンマスターと契約を結んでいるからよ。ダンジョンマスターは必要以上にダンジョンを強化せず、魔獣をダンジョン外に出すことをしない。そして、冒険者がダンジョンで活動するのを黙認する。その代わり、こちらはダンジョンマスターとコアには手出しをしない。外界の物資で必要な物があれば調達する。そんな感じね」
なるほど。ダンジョンマスターが知能がある種族だった場合、そういう交渉も有りなのか。まあ、ダンジョンマスターだって、高位冒険者に滅ぼされるよりは共存する方が遥かにましだろう。
「その交渉をまとめたのが、若き日のギルマスって訳」
「いやー、困難の連続だったねぇ」
「何をもってこのジジイを信頼しているか分からないけど、ダンジョンマスター達は窓口としてうちのギルマスを指名しているわ。ここでギルマスが辞めたりしたら、ダンジョンとの関係がどうなるかも分かったもんじゃないのよね。ウルムットはダンジョンで成り立っている町だから、何があってもギルマスをクビにはできないの」
「ふふん。そのおかげで僕は、権力をかさに着てやりたい放題って訳だ」
「偉そうに言わないの!」
ジジイとガチムチオカマなのに、悪戯小僧とそれを叱るおかんの図に見えてきたな。あれ? 俺の目大丈夫か?
「ふぅ。あたしはそろそろ行かないと」
「お疲れさま」
「誰のせいで疲れたと思ってるの!」
これはこれで仲がいいのかもね。
「フランちゃんまたね。私、あなたのこと気に入っちゃったわ。何かあったら声かけて。力になるから。うふ」
「ん」
「ばははーい。チュッ」
最後に投げキッスしていきやがった! 思わず避けそうになってしまったぜ。危うくディアスに見られるところだった。
(師匠、どうしたの? ビクッてした)
『だ、大丈夫だ。何でもない』
フランには伝わってしまったようだ。




