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140 旅立ち前日の夜

ブルックとウェイントは病死じゃなくて、今回の被害者として殺されたとする方が良いのではないかという意見をいただき、作者も確かにその方が良いな~と思ってしまいました。

なので、今回ちょっとだけそのことに触れております。

あと、分体創造時の服装について描写したことが無かったので、それについても今回説明させていただきました。


腰の痛みがまだ引かないので、次回の更新は3日後とさせてください。

日常生活は出来るのですが、座りっぱなしがきついのです。

申し訳ありません。

 領主の館を出て宿に戻ってきたんだが、宿の前に誰かいるな。


「コルベルト?」

「あ、フラン嬢ちゃん! 戻って来たか」

「どうしたの?」

「いや、そろそろバルボラを発つと聞いてな。その前に飯でもどうだ? 美味い店があるんだ」

「ん。楽しみ」

「はは! 期待しててくれよ。緋の乙女の3人にも声をかけてあるから、パーッとやろうぜ」


 料理コンテストの打ち上げをした方が良いのか悩んでたし、これはちょうどいいな。


「ん。わかった」

「で、だな。お師匠さんはどうだったんだ? 今回の騒動でお怪我とかされてないか?」

「それは大丈夫。もう治った」


 すぐに再生するからね。だがその言葉を聞いたコルベルトはもう大変だ。フランの肩を掴んで、大げさに叫ぶ。おいおい、知り合いじゃなかったら反撃してるぞ。


「な、何ぃ! だ、大丈夫なのか? 後遺症とか! ポ、ポーションを! 最高級のポーションを買わねば!」

「……ん」


 ガクガク揺すられ、言葉を発することができないフラン。そうだった。何故かコルベルトは俺のファンだったんだ。


 思えば、コルベルトには助けられてばかりだったな。屋台でも、戦いでも。できればきっちりとお礼を言いたいが……。うーむ。


(師匠?)

『あとで俺が2時間だけ合流すると伝えてくれ。分体創造で2時間だけ付き合う』


 問題は、分体の俺はTシャツにジャージ、サンダルってことだ。いや、最近は慣れてきたからこの服装なんだぜ? 最初の頃は、フランが初期に使ってた布の服だったからな。多分、イメージが上手く反映されるようになってきたんだろう。もっと分体創造の使い方が上手くなれば、鎧とかも再現できるかもしれんが。アナウンスさんが使った時は、全ての分体がカッコいい鎧を身にまとってたし。


 しかしこの格好、コルベルトの夢を壊すことにならんかね? それにこの格好で店に入れてもらえるか? ドレスコードに引っかかったりしらどうしよう。いや、外套でも羽織れば問題ないか?


(わかった。コルベルト喜ぶ)


 そして、フランが俺の言葉を告げると、コルベルトのテンションゲージが振り切れた。


「な、何だとぉ! ついにお師匠さんがご降臨されるだとっ!」

「ん」

「これは、場末の食堂などにお連れするなど言語道断!」

「わたしならいいの?」

「ありとあらゆるコネを使って最高級のレストランを予約しないと!」

「おいしければどこでもいい」

「今すぐに店を探して……。いや、それでいいのか? 至高の料理人を格下のレストランに連れて行ったって……。 だめだ! そうだ、今から肉を狩りに行けば。水晶樹の檻に竜がいるっていう噂が――」


 うわぁ。


 俺たちがどうしてよいか分からず引いていたら、3人娘が迎えに来てくれた。


「コルベルトさん、どうしたんですか?」

「なんかー、キモイー」

「あれが憧れのランクB冒険者とは、泣けますね」


 3人から言葉を投げかけられて、さすがに気づいたらしい。コルベルトが戻ってくる。


「はっ、お前たち! いつのまに」

「いつの間にじゃありませんよ」

「キモイー」

「何か良い事でもあったのですか?」

「おう! 実はな――」


 あーあ。リディアの質問でコルベルトがまたあっちに行っちゃったぞ。


 結局、4人でコルベルトを引っ張って、最初に予定していた店に向かったのだった。


 30分後。


「もむもむもむもむ」

「どうだ? 美味いだろ?」

「むもむ!」


 フランの箸が止まらないな。そんだけ美味いってことだろう。もう10皿くらい積み上がっている。


「そう言えば聞きましたか? この町の錬金術ギルドは、王都から新たに派遣されてくる錬金術師によって再編されることが決まったらしいですよ」

「でもー、錬金術ギルドにある魔石の優先権が剥奪されてー、むしろ購入制限がかけられるとかー」


 さすがに取り潰しにはならんか。物流の集まるこの都市に、そういった研究機関があることの価値は計り知れないだろうしな。


 でも、国の紐付きになり、今回のようなことが再発しないように制限も設けられると。


「そう言えば、領主様の次男と三男が今回の騒動でお亡くなりになったという発表がありましたね」

「ああー、あのバカ息子たちー」

「まあ、そうなのですが。化け物に殺されたらしいですよ?」


 結局そうなったか。病死と発表されるって言う話だったけど。多分、国にそうしろって言われたんだろうな。フィリップの性格から言って、そういうマッチポンプみたいな真似は嫌がりそうだし。


「1日経っても、色々な噂が飛び交っていますからね」

「邪神が復活する前兆じゃないかとか」

「私が聞いたのはー、他国の陰謀っていう噂でしたー」

「私は、悪魔が化け物を倒して人々を救ったという話ですね」

「ええ? それは無理があるんじゃない? 何で町に悪魔がいるのよ?」

「噂なんてそんな物でしょう」


 3人娘が色々と噂話を披露するが、フランは食事に夢中でほとんど聞いていなかった。彼女たちもそれに気づいたのだろう。やれやれって言う感じで苦笑いすると、自分たちも料理を食べ始めた。


 そこからは大食い競争の様相である。


「ここは安くて美味しいと評判なんですよ」

「このお肉も絶品ですよー」

「いくらでも入ります」

「お前ら3人は少し遠慮しろよ!」

「奢りのご飯は格別です」


 まじで美味しそうだな。俺も食べたくなってきた。場も盛り上がってきたし、そろそろいいかな。


『フラン、頼む』

「師匠を呼んでくる、ちょっと待ってて」

「いや、俺も行くぞ! お出迎えせねば!」


 それは困るな。店の外で分体創造を使うつもりだったんだが……。


(転移使う)

『それしかないか』

「ちょっと遠くにいるから。じゃあ、待ってて」


 転移で適当なところに移動して、分体を生み出す。ここで判明したが転移はフラン1人しか飛ばせないようだ。普段、俺はフランの装備扱いだから問題ないが、分体はさすがに装備扱いにはならないみたいだな。まあ、分体も時空魔術が使えるから問題ないが。


 俺たちは転移で食堂に戻った。分体は外套を羽織って、Tシャツとジャージを隠しておく。地球基準だと凄まじく怪しい格好だが、致し方ない。


「連れて来たよ」

「お、おお。そのお方が……」

「初めまして。フランの師匠だ」

「は、はは、初めまして! コルベルトと言います! あなたの料理のファンです! 握りといい、カレーと言い、賄いで出された他の料理と言い、あなたの料理は最高だ! 俺も弟子にして下さい!」

「ごめんなさい」

「速攻で断られたっ!」


 おっと、いきなり弟子にしてほしいとか言われて断っちまった。場の空気が悪くならないか?


「くっ。だが仕方ない。俺にはフラン嬢ちゃんみたいな才能がないのは分かってる……」


 勝手に納得してくれたみたいで良かった。でも、さすがにこれは可哀想だよな。お礼を言いに来たのに、むしろ失礼なことをしてしまった。


 俺はコルベルトへのお礼にと考えていた物を、ここで渡すことにした。


「弟子にはできないが、これをどうぞ。差し上げます」

「これは……。ええ! こ、こここ、こんな物を頂いてしまって、ほ、本当によろしいのですか? え? 夢?」

「コルベルトさん、それなんですか?」

「キモイー」

「お宝の地図とか?」

「リディア馬鹿野郎! そんなちんけなもんじゃねえ! あ、ありがとうございます! こ、こんなスゲー物を……」


 いやー、そんなに喜んでもらえたら、渡した甲斐があったな。今コルベルトに渡したのは、カレーライスのレシピだった。


 実は魔石を買いに行った時、ルシール商会にカレーパンのレシピを売ってほしいと言われたのだ。で、色々と考えた。その時にはカレーのレシピはお世話になった人々に無償で渡そうと考えていたし。


 カレーパンとカレーライスは別物だと言っても、ルシール商会は納得してくれないだろう。


 でも、魔石のためにもお金は必要だ。そこで、カレーパンやそれ以外にいくつかのレシピをルシール商会に安めに売る。そのかわり、カレールーのレシピはルシール商会以外にも渡すという契約を交わしたのだ。


 コルベルト以外にも、宿のコックさんや、孤児院のイオさんや、料理ギルドの爺さんにも渡すつもりである。


 バルボラの名物料理になったら嬉しいな。そうしたら色々なバリエーションが生まれるだろうし。次に来た時が楽しみだ。


 その後、テンションMaxのコルベルトを何とか宥めつつ、楽しい時間を過ごした。


 転生してから大勢でワイワイするのは初めてだったからな。たった2時間の食事会だったが、本当に楽しかった。剣であることに不満はないけど、こういうのも良いよな。


 フランも楽しかったみたいだ。宿に戻ってきてお風呂に入っている最中に、鼻歌が聞こえてるし。


「オフ……」

『ほら、激辛ハンバーグカレーだ。機嫌直せよ』

「オフ……」


 美味しい物が食べられなかったせいで、ウルシは拗ねているけどね。


『お前はいい加減機嫌直せよ~』

「オフ……」



 翌朝。


 俺たちはバルボラの表門の前に立っていた。

 空は雲一つない快晴だ。

 

『いやー、こういうのを旅立つには良い朝って言うんだろうな』


今後の予定を考える。


 今日を含めて。ウルムットには5日ほどで到着する予定だ。


 その後、2つあるというダンジョンで俺とフランのレベルアップである。そして、最終目標はウルムットの武道大会だ。無論、目標は優勝である。


『ウルムットか、どんなところか楽しみだな』

「ダンジョン楽しみ」

「オン!」

『あいさつ回りも済ませたし、買う物買ったし、情報も仕入れた。準備は万端だな』


 アマンダには泣かれたけど。孤児院がきちんと軌道に乗るまではバルボラを離れられないんだろう。あの分じゃその内ウルムットまで追ってきそうだけどな。


『次にアマンダに会った時には、成長した俺たちの姿を見せられたらいいな』

「ん。勿論」

『じゃあ、行くか』

「ん」

「オン」


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