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12 剣の体でケモミミをモフれるか

残酷描写?

 

 慌てふためく商人と、奴隷。現れた、2つ首の熊。


 奴隷商人の馬車が、森で魔獣に襲われた。多分そんな図式なのだろう。


 彼らは、荷物の一部を奴隷に急いで背負わせる。そして、それ以外の奴隷に命令を下した。


「奴隷ども、奴を足止めしろ!」


 その隙に自分たちは逃げるつもりなのだろう。


 奴隷たちは武器も持っていない。足止めというのは、死んで喰われて時間を稼げという意味だった。奴隷たちにだって、それは分かっているはずだ。ただ、彼らは商人の言葉に従い、熊に向かっていった。


 何故? 最初はそう思ったが、どうやら魔術か何かで縛られているらしい。この土地の魔力吸収現象も、体内には作用しないので、契約魔術に干渉することもないみたいだった。


 男奴隷が、胴を薙ぎ払われ吹き飛ばされた。たった一発、前足で払われただけで、上半身と下半身がさよならをしていた。脅威度Fの下級魔獣とは言え、ろくな装備もなく立ち向かえる相手ではない。奴隷たちは、暴威の塊である魔獣を前にして、余りにも無力だ。


 このままいけば、数分ももたずに奴隷は全滅だろう。


 かわいそうだが、俺にはどうにもできない。声さえかけられないのだから。クズ商人が逃げようとしているのも、ただ見送ることしかできない。


 くそっ! せめて、誰かが抜いてくれれば。


 そう思っていたら、人影がふらりと、俺の前に立った。


 奴隷の少女だ。ただ、俺の視線は、少女の薄汚れた格好でも、ボサボサの髪でもなく、その上に釘づけであった。


 耳だ。猫耳だ! 少女の頭の上には、獣の耳がくっついていたのだ! 獣人だ。モフミミ様や!


 俺は現場の惨状も一瞬忘れ、感動してしまった。だって、世界の宝、猫耳様だぞ? 感動せずにはいられない。


 ああ、もう! 声がかけられないのがもどかしい! 少女よ。俺を抜くんだ。そして、そのネコミミをモフらせてくれ! いや、待てよ。剣の体で、どうやってモフる? 念動か? いやいや、俺には触覚があるんだし、刀身の腹側でそっとやれば――。


 その内に、少女が俺に縋り付いた。そして、力を込める。死ねと言われて、それでも生きようとしている。諦めていない。こんな娘に、使ってもらいたいものだ。


『……っ』


 少女が、さらに力を込める。そうだ、俺を抜いてくれ!


 だが、想像以上にがっちりと地面に刺さってしまっていたらしい。見たところ12、3歳くらいか。やせ細った体を見れば、碌な食事を与えられていないのが分かる。そんな少女の非力な腕では、なかなか引き抜けない。


 頑張れ! 頑張ってくれ! っていうか、後ろ!


 いつの間に、熊が少女の背後にいた。他の奴隷は? ダメか。


 残っているのは少女だけだ。


『俺を抜け!』

「? 声?」

『お、俺の声が聞こえるのか?』

「誰?」

『剣だ。お前が抜こうとしてる剣だ』

「……ビックリ」

『びっくりしてる様には見えないが……』

「してる」

『それよりも、熊が来てるぞ! 早く俺を抜け! 少女よ!』


 どうやら、触れている状態だったら、念話が可能らしい。そして、少女は無表情&無口系キャラらしかった。良いよ! バカばっかとか言ってもらいたい。


 少女がウンウンと唸って力を込める。


 ズズ


『ちょっと動いたぞ!』

「うーん」

『がんばれ!』


 ズズズ


『もうちょっとだ!』

「ぬぬ」


 ズボッ!


『抜けた!』

「綺麗な剣」

『ありがとよ! でも、そんな場合じゃないから!』

「そうだった」

『戦えるか?』

「少し」


 少女のステータスを確認してみた。


名称:なし  年齢:12歳

種族:黒猫族

職業:なし

状態:奴隷

ステータス

レベル:3

HP:29 MP:17 腕力:13 体力:10 敏捷:16 知力:8 魔力:7 器用:15

スキル

剣術:Lv1、夜目、剥ぎ取り上手、方向感覚

称号

なし

装備

ぼろ布


 剣術ね。本当に少しだな! でも、大丈夫だ。


『俺を装備しろ!』

「もう装備してる」

『もっと強く、装備するって念じろ!』

「? わかった」


〈名無しが、装備者に登録されました〉


 よし、これで俺の持っているスキル共有が、初めて生きるという訳だ。


〈名無しが称号を複数獲得しました〉


『え? いきなり?』


 鑑定は……できるな。


 少女が獲得したのは、火術師、料理王、解体王、スキルコレクター、の4つだった。スキルLvがMaxだと、それに関する称号を得るみたいだ。それぞれが、スキル効果UPの恩恵があるな。スキルコレクターは、熟練度の入手効率が上がるらしい。


 まあ、今は置いておこう。ここですぐに役立つものじゃないし。


『戦え。戦えるはずだ』

「ん」

『奴を倒す。そう意識しろ。そして、自分の感覚を信じて、剣を振るえ!』


 あとは剣術スキルがどうにかしてくれるはずだ。なにせ、相手は下位の魔獣。剣術Lv7を得て、負けるはずがない。他にも、ステータス上昇効果もあるんだ。


「……うん。わかった」

『よし、いい子だ』

「……やぁ!」


 少女の身のこなしは、美しいの一言だった。練達の剣士の様な動きで熊に接近すると、突きの一撃で、正確に心臓を貫いた。豆腐を突いたみたいに、何の抵抗もない。


「え?」

『どうだ? やれただろ?』

「……うん。剣のおかげ?」

『おう。感謝しろよ?』

「感謝する」


 少女がそう言って、俺を地面に一旦おこうとしたので、大慌てで少女を止めた。


『待った! 俺を地面に置かないでくれ!』

「?」

『ここの地面のせいで、何もできなくなっちまうんだ。だから、暫く俺を持っててくれよ』

「うーん?」

『ダメか?』

「多分、取り上げられる」

『奴隷商人か?』

「うん」


 それは嫌だ。せっかく見つけたモフミミ少女なのに。俺はこの娘に使ってもらいたい! どうせ商人に取り上げられたら、好事家にでも売られてしまうだろうし。魔剣であることがばれて封印なんかされたら、ここよりももっと酷い地獄が待ってるだろう。


『なあ、逃げられないのか?』

「無理。首輪のせいで、逆らえない」

『魔道具ってことか?』

「そう。何度か殺そうとしたけど、無理だった」

『殺そうとって、奴隷商人をか?』

「そう。殺して、逃げようとした」


 おおう。俺が思っていた以上にハングリー&デンジャー少女だった。だが、嫌いじゃない。


『でも、首輪のせいで無理だったと』

「うん」 


 少女と話していると、森の向こうから男が走って来るのが見えた。奴隷商人だ。因みに、小男は既にお亡くなりになっている。何せ、すぐ後ろに死体が転がっているし。


「生きてるのは1匹だけか! しかも、ツボが割れてるじゃないか! 大損だぞ。くそ!」


 奴隷や部下の死を悼む様子は全くない。むしろ、壊れた積み荷の方を嘆いている。いやー、清々しい程のクズだ。


「……」

「お前がツインヘッド・ベアを倒したのか?」

「はい」

「どうやって……。なんだその剣は?」

「拾った」

「それをこっちによこせ」

「……ん」

「おい、なんだその目は!」

「ごめん、なさい」

「ちっ、ケダモノが。陰気な目つきしやがって」

「あぅっ」


 男がいきなり少女を平手で叩いた。マジか。手慣れた感じだし。蹲った少女から無理やり俺を取り上げる。


「ほう。美しい剣じゃないか。今回の補填にはなるか?」


 痛みで呻く少女などガン無視で、男は俺を鑑定し始めた。


「おい、ケダモノ。使える品物を積み込め。そうしたら、町まで出発だ」


 奴隷契約のせいで、少女は男の言葉に逆らえないのだろう。痛むはずの体を引きずりながら、フラリと立ち上がった。


 ムカつくな。本気でムカつくな。むしろ、殺意が振り切れる寸前なんだが。くそっ! ここが魔力吸収地帯じゃなければ、こんなやつ今すぐ殺ってやるのに!


「くぺっ?」


 とか思って念動を使ってみたら、使えちゃいました。てへっ。


 いや、どうも、地面から離れてたら、魔力吸収が少し弱まるみたいでした。地面に刺さっている時は、吸収されるまで一瞬だったが、今は1秒くらいは猶予がある。


 奴隷商人をぶっ殺したいなーと思いながら、思い切り念動を使ったら、勢いよく飛び出してしまったわけで。俺は完全に奴隷商人の顔に突き刺さり、頭蓋骨も叩き割り、脳漿ぶちまけさせていたわけで。


 あれ? やっちゃった?


 うーん。相手がクズだったからか? それとも、俺が剣だからか? 罪悪感とか、全然湧かんな。ゴブリンを初めて殺した時の方が、まだ良心の疼きがあった気がする。


『えーと、これからどうしよう?』

「?」



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― 新着の感想 ―
電子の妖精さん、ですね。(笑)
[一言] 無口キャラでバカばっかのネタがわかった自分はおっさん さすがに名前がル〇じゃなかったw
[一言] ハラワタを垂れ流して18時間くらい悶え苦しんだ末に死んでくれたらよかったのにね、奴隷商なんざ(・ω・)
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