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137 コンテストの行方

「はいー、どうぞー」

「熱いので気を付けて」

「ん」


 様々なことがあった昨夜から、一晩明けた翌日。いや、日付的には同じ日なのだが。


 俺たちは屋台でカレーパンを配っていた。無料で。いや、代価は領主から貰っているので、タダ働きではないのだが。


 ゼライセを逃がした後、俺たちは1晩中邪人と魔人を探して倒し続けた。俺たちだけでも10体は倒しただろう。一番多いフォールンドは合わせて20体ほど倒したという。日が昇った頃には町に散った怪物たちは倒され、事態は沈静化に向かっていた。


 当然のことながら、料理コンテストは中止になってしまったが。人も大勢死んだし、町もまだまだ混乱している。料理ギルドの中にもブルックの協力者が居たようだし。


 だが、完全に中止とするのも人々の不安を煽ることになってしまう。なので料理を無料配布する屋台を出してくれないかと言うのが領主からの要請だった。炊き出しと言わないのも、非常事態感を出来るだけ出したくないかららしい。


 まあコンテストも中止になってしまってカレーパンは余ってるし、お金を貰えるんだったら構わないんだけどね。ほかの参加者も快く承諾したようだし。


「はいそこ! 喧嘩しない! まだまだありますから!」

「コンテストで優勝してたかもしれない料理です。ここでしか食べられませんよ」

『フラン、次の場所に移動しよう』


 屋台は3人娘がえっちらおっちら引いている。最初はウルシに引かせようかと思ったんだけどね、領主サイドからNGがかかったのだ。民の不安が余計に増すからという理由で。巨大で怖くて衛生的に不安が~とか言われたから、ウルシが密かに傷ついているんだぞ! どうしてくれるんだ!


 次案としてフランが引くつもりだったのだが、子供に引かせるのは大人の沽券に係わるらしい。戦闘力では負けているけど、そこは譲れないと言って3人で協力して屋台を引いていた。


『領主には出来るだけ町を回ってほしいと言われたしな』

「ん」


 屋台で出発する前にフィリップが教えてくれたが、クライストン家は最低でも領主の任を解かれるだろうということだった。300年以上バルボラを発展させてきた功績と、事態の鎮静化に長男が尽力したという事から、改易やお取り潰しの可能性は低いようだが。


 財産の大幅な没収も免れないので、その前にバルボラの民に還元してしまうつもりらしかった。屋台の料理無料配布もその一環らしい。


 王都から派遣されている代官には包み隠さず全て説明したので、数日の内に王の使いが派遣されてくるはずだ。領主と長男はまともなんだよね。謹厳実直というか、清廉潔白というか。身内にちょっと甘いだけで。


 もう一つ教えてくれたのは、罪人たちの処遇だ。ブルックに雇われていた傭兵や盗賊は斬首。それ以外に脅されて協力させられていた者も犯罪奴隷とされ、鉱山での強制労働か、ゴルディシア送りにされるらしい。


 鉱山での強制労働は分かるがゴルディシア送り? 最初は分からなかったぜ。


 ゴルディシア大陸と言うのはトリスメギストスの罪により滅び、今は結界に覆われた大陸だが、実は完全に隔絶されているわけではない。円形の大陸の中央にドーム状の結界が張られ、結界の外側に人が住むことのできる陸地がわずかに残されている。

 

 そしてその陸地部分には今でもゴルディシア大陸の住人であった竜人が住んでおり、自分たちの国が大罪を犯したことを悔やみ、罪を贖うために日々結界の内部に入ってトリスメギストスが生み出した深淵喰らいと戦い続けていた。結界は人だけが通れるようになっており、深淵喰らいだけが外に出れない仕様である。


 世界各国も兵士の派遣や、物資の支援で竜人族を支援しているらしい。そして、犯罪奴隷の最も過酷な使われ方が、ゴルディシアでの肉壁役であった。


 死刑の方がマシじゃね? そう思ってしまったが、中にはゴルディシアの超過酷な戦いでレベルアップし、生き残って刑期を終える者も極稀にいるらしい。なので死刑よりはましなんだそうだ。


 料理ギルドの幹部にも、犯罪奴隷落ちがでるとか。ブルックに脅されて、ウェイントの料理を鑑定せずに見逃した罪だそうだ。脅されていたとはいえ、こいつのせいで被害も拡大した訳だし。


『錬金術ギルドは壊滅、領主も失脚して、人も大勢死んだ。これからこの町大丈夫かね?』

「孤児院が平気か心配」

『アマンダもいるし、大丈夫だと思うがな』

「ん。そうだった。アマンダが子供を悲しませるわけがない」

『それよりも料理ギルドが心配だな。組織ごと解体みたいにはならないと思うが……』

「!」


 急にフランが目を見開いて立ち止まった。おいおい、どうした?


『フラン? 大丈夫か?』

「コンテストが中止になったら、決勝戦もない……」

『そりゃ、そうだろうな』

「あいつにカレーを食べさせられない!」

『ああ、あの爺さんね』

「逃げられた!」

『逃げられたっていうか、仕方ないんじゃないか?』


 俺なんかすっかり忘れてたぞ。あの爺さんは無事なのかね? 結構嫌いじゃないし、巻き込まれてなけりゃいいけど。


 そう思っていたら、設置途中の屋台の前に件の爺さんが立っていた。今の会話がフラグだったのか? 相変わらずしかめっ面だ。何をしているのかと思ったら、こっちの準備が終わるのをジッと待っているらしい。てっきり早く食わせろとか言うかと思ったらその辺は常識的なのね。


「む」

「来たぞ」

「吠え面をかかせる」

「それは楽しみだな」


 これこれ、不敵に笑いあうな。ジュディスが引いてるだろ。リディアは何かが始まる予感を感じ取ったのか、妙に目を輝かせているが。マイアは何を考えているか分からん。実は全然無表情じゃないリディアよりも、いつもポヤーッと笑っているマイアの方がよほど内心が読めないんだよね。


 10分後、開店した屋台の脇で、爺さんはプレーンのカレーパンを頬張っていた。


「ほうほう」


 うーん、緊張するぜ。自信作ではあるが、美食家がどう思うかはな~。一応完食しているけど。


「ふむ」

「どう?」

「うむ。腹いっぱい食えんのが残念だな」


 え? それってもしかして美味しいってこと?


「揚げたパンはそれだけでも新たな料理と言えるほどに味わい深い。特にその食感は他では味わえんだろう。中には例のカレーが入っている様だが、パンに合うように調整され、互いの良さを完璧に引き出し合っておる。まさに料理の歴史に新たなページが書き加えられたと言っても過言ではないな。お主の師匠にも伝えてくれんか? 奇抜さと丁寧さが感じ取れる、素晴らしい料理だったと」


 食レポ風の長台詞頂きました! めっちゃ褒められたよ!


「ん。伝える」

「この度はコンテストが中途半端に終わり、済まなかった」

「? それはギルドのせいじゃない」

「それでもだ。此度の騒ぎに加担した者もおったのだ。我らにも責任の一端はある。お主には決勝に来いなどと言っておいて、この様だ。すまんかったな。このカレーパンであれば、間違いなく決勝への出場は出来ていただろう」


 もしかして約束を果たしに来たのか? だとしたら思ってたよりも律儀な爺さんだったらしい。


「改めて、美味かった。以前言った言葉は謝罪しよう。お主の師匠は素晴らしい料理人だ」

「ふふん」


 フラン、ここは得意げに勝ち誇るんじゃなくて、気にするなとか言うところだぞ! 爺さんは気にしてないみたいだから助かったけど。なんか疲れたな。ここでカレーパン配ったら、一旦休憩しようか? え? お前は何もしてないだろうって? いやいや、スリとかを警戒したり、次元収納でカレーパンを補充したりと、色々頑張ってるんだよ? 


 おっと? なんか急に人が増えたか? いや、確実に列が長くなったな。どうやら爺さんはバルボラでは有名人だったらしい。あの爺さんが褒めたんだから間違いないって、皆が話してるし。


「えええ? なんで急に?」

「間に合わないー」

「私の魅力が人を引き寄せているのでしょうか?」


 どうやら休憩できるのは大分先になりそうだな。



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