133 錬金術ギルド
前々話の師匠の台詞「あと3秒遅かったら~」 を1秒に変更しました。
これでも遅いという意見もありますが、師匠の感覚的な台詞なので、語感を優先いたしました。
あと、いつの間にかネット小説大賞の1次を突破してました。
錬金術ギルドまでの道のりはあっさりとしたものだった。途中で邪人と出くわしても、オールスターズなら瞬殺だったし。
みんな足も速いので移動速度も問題ない。唯一遅れがちだったシャルロッテは、フランとともにウルシの背に乗っている。
男は嫌がるくせに、美少女ならオッケーとか。このエロ狼め! いや、弱者なら許すってことかな。孤児院の子供とかも背に乗せてやっていたし。
男は自分で何とかしろよというスタンスなのだろう。俺と同じだ。召喚獣は召喚主に似るのかもしれないな。
「錬金術ギルドが見えたが……」
「ありゃ、うちの冒険者どもじゃねーか!」
コルベルトとガムドが叫んだ通り、ギルドの建物の前では乱戦が始まっていた。一方が冒険者だと言うのは分かったが……。冒険者たちと戦っているのは何だ? 邪人とも違うようだが。一瞬アンデッドかとも思ったが、それにしては生命力が感じられる。
近寄って鑑定して見たら分かった。冒険者と戦っているやつらはあまり強くはないが、ゼロスリードと同じ魔人だった。気になるところは状態だな。状態:破損? どういう意味なのか。
「とりあえず冒険者に加勢するわよ」
「おう!」
「行くぜ!」
コルベルトとガムドが一足先に突っ込んでいった。フィリップとアマンダがその後に続く。最後尾がフォールンドとフランの無口コンビだ。ウルシはシャルロッテの護衛として待機させた。
「手伝うぞ!」
「ギルドマスター!」
冒険者に混じって魔術を撃っていたのは、錬金術師のユージーンだった。
「ユージーン?」
「フランさんも!」
「一体何があった?」
「それが――」
冒険者ギルドに老いた錬金術師が駆け込んできたのが、1時間ほど前のことだったらしい。その老錬金術師はユージーンの同僚だった男で、今でも密かに親交があったのだ。そして、錬金術ギルドの異変を目の当たりにし、ユージーンを頼ってきた。
実は錬金術ギルドの上層部が違法な実験などに手を染めており、外部の違法錬金術師と繋がりがあったらしい。そして、いつの間にかその錬金術師の盛った薬によって上層部が操られてしまい、ギルドの下級錬金術師たちが危険な研究の実験台にされてしまったのだ。
老錬金術師は誰にも会わずに部屋にこもって研究をし続けていたため、操られずに済んだのだった。
その違法な実験とは魔人化実験。ユージーンの弟子が錬金術ギルドを追われる原因ともなった狂気の実験である。魔石を人に埋め込み、力を得ようという試みだ。
弟子のゼライセが追放されるとともに実験も廃棄されたはずなのだが……。錬金術ギルドの上層部の一部はその研究の廃棄を惜しみ、密かにゼライセを匿うと共に、実験を継続させていたのだった。
実験の成果を国や軍に売れば凄まじい金額となるだろうし、錬金術師としてもこの研究をただ廃棄するのが勿体なくなったのだろう。
「じゃあ、あれは元錬金術師?」
「そうなのです……。冒険者に協力してもらい、魔石を摘出できないか試したのですが……」
浄化魔術、回復魔術、外科手術、スキルによる破壊、どれも成果は上がらなかった。魔石を破壊したり取り外したりすると、魔人となった人間まで死んでしまうのだ。魔獣と一緒である。
「話は通じないの?」
「正気を失っており、暴れるだけですので」
ゼロスリードは正気を失わずに喋っていたけどな。邪人だと魔石を埋め込まれても平気なのか?
「到着した時にはすでに半数が解き放たれた後でしたが……。残り半分をここで押し止めるためにギルドを包囲したのです」
だが、暴れる魔人たちを取り押さえることは難しかった。雑魚であればともかく、魔術も使う魔人を倒さずに無力化しろと言うのは、冒険者に死ねと言っている様なものだ。
魔石を取り外すための試みも、偶然無力化できた魔人を使って行われたという。
「倒すしかないってことね?」
「はい」
ならば仕方ない。哀れだが、仕留めさせてもらおう。放置してリンフォードみたいにパワーアップされても困るしな。
(師匠、魔石を狙う)
『おう。そうだな』
フランが1体の魔人に突っ込み、俺を振り抜いた。魔石を吸収できたのが分かる。
種族名:魔人
状態:破損
ステータス レベル1/99
HP:48 MP:55 腕力:25 体力:23 敏捷:10 知力:27 魔力:25 器用:10
スキル
絵画:Lv1、調合:Lv1、水魔術:Lv2、錬金術:Lv4、魔力操作
ちなみに今倒したやつのステータスはこうだったんだが……。絵画のスキルは入手できなかった。一応魔石値は入手できたが、1だったし。魔人から得られるものは少なさそうだな。
『とっとと片づけるか』
「ん」
アマンダ達に続いて魔人の群れに突入する。だが、どいつからも魔石値は1しか得られなかった。残念。
そう思っていたら、1体だけ他の魔人とは違う個体に遭遇した。
「強い」
『ああ、ステータスがかなり高いぞ。それに状態が破損じゃない』
力も早さも他の魔人に比べて大分強い。それにLv1だが剣術スキルもあるし。フランにかかれば瞬殺だったが、他の魔人よりも強いことには変わりがない。
それに、こいつからは魔石値が3も得られた。もしかして状態によって違うのか?
「もっと強い魔人を探す」
『そうだな』
錬金術ギルドに突っ込むか? だが、敵の本拠地だしな。
「ガムド、建物の制圧はどうするの?」
「いや、制圧というがな、もう人の気配がしないじゃねーか」
アマンダとガムドが話すように、錬金術ギルドからは人の気配がほとんどしなかった。邪気は感じられるが、神殿などに比べれば微々たるものだ。そう思っていたんだが……。
ウルシには何かが感じ取れているらしい。
「グルル」
ギルドの建物を睨んだまま、唸り声をあげている。
「ウルシちゃん、どうしたの?」
「オンオン!」
「何か出てくる」
「?」
「何も感じられないが……」
フォールンドやフィリップも、ウルシの感じているモノを感じ取れていない様だった。この中でウルシだけが持っているのは、邪気感知だろう。
Lv1だが、相当遠くまで邪気を感じ取ることが可能になったみたいだな。ランクA冒険者の感覚を凌いでいるわけだし。
「! 私も感じました!」
「シャルロッテちゃんも?」
「はい。地下から上がってきます。ね? ウルシちゃん」
「オンオンオン!」
「この二人がそう言うなら確かでしょうね」
「迎え撃つ」
「おう! 俺の拳が唸るぜ」
待つこと1分。その頃には他の面々にも邪気を感じ取ることができている様だった。無論俺にも分かる。
思ったよりも強くはなさそうだ。邪気の強さは他の邪人と同じくらいかな? 気になっているのは、そいつらの気配の不自然さだ。生き物としての気配がないのだ。邪気の塊が蠢いている様な感じである。
3分後、ギルド内から現れたそいつらを目にして疑問が解けた。
「あれってゴーレムなの?」
「鑑定が効かん。鑑定遮断をもっておるな」
ガムドの鑑定は3レベルだが、情報が取得できないらしい。天眼を持つ俺にも魔石兵という名前しか鑑定できなかった。
「グルル」
『来るぞ! 構えろ!』
「ん!」




