132 リンフォード撃破
ウルシの一撃が致命傷になり、リンフォードは怨嗟の声を残して事切れた。直後、皮膚がボロボロと剥がれ始め、最後には灰の様になって崩れ去ってしまう。
最期は呆気ないもんだな。
「ヒャゥン……」
崩れ落ちるリンフォードの残骸を見ていたら、ウルシが戻って来た。だが様子が変だな。なんか口から血を流している。おいおい、どうしたんだ!
『ウルシ、平気か!』
「リンフォードにやられたの?」
「クゥン……」
ウルシの口の中を見てやると牙がボロボロだった。特に犬歯は完璧に折れており、そこからかなりの出血をしている。
まあ当たり前か。俺だって耐久値がボロボロなんだ。似た様な攻撃をしたウルシだって攻撃に使った牙が破損するだろう。完全なる自爆だった。
『あまり無茶するなよ』
「オフ」
「でも、さっきはかっこよかったよ」
「オン!」
とりあえずヒールをかけてやるか。
〈フランのレベルが上昇しました〉
〈フランのレベルが――〉
ここでアナウンスさん登場だ。戦闘が終わったってことなんだろう。
やはりかなりの経験値が貰えたようだ。フラン、ウルシ、アマンダ、フォールンド、コルベルト、フィリップ、ガムド、ゼロスリード、シャルロッテで9人分割したはずなのに、一気に3もレベルがアップしたぞ。フランのレベルが40になった。
名称:フラン 年齢:12歳
種族:獣人・黒猫族
職業:魔導戦士
状態:契約
ステータス レベル:40/45
HP:450 MP:382 腕力:251 体力:196 敏捷:248 知力:172 魔力:206 器用:170
スキル
隠密:Lv3、宮廷作法:Lv4、気配察知:Lv4、剣技:Lv5、剣術:Lv6、瞬発:Lv5、火魔術:Lv2、料理:Lv2、アンデッドキラー、インセクトキラー、気力操作、ゴブリンキラー、精神安定、デーモンキラー、剥ぎ取り上手、不退転、方向感覚、魔力操作、夜目
〈New〉イビルキラー、邪気耐性:Lv1
固有スキル
魔力収束
特殊スキル
黒猫の加護
称号
アンデッドキラー、一騎当千、インセクトキラー、解体王、回復術師、ゴブリンキラー、殺戮者、スキルコレクター、スキルマニア、ダンジョン攻略者、超大物喰い、デーモンキラー、火術師、風術師、料理王
〈New〉イビルキラー
装備
黒猫シリーズ(名称:黒猫の闘衣、黒猫の手袋、黒猫の軽靴、黒猫の天耳輪、黒猫の外套、黒猫の革帯)力の腕輪+1、身代りの腕輪、髑髏の首飾り
邪気耐性か。邪気によるダメージをくらいまくったからかね? それと称号だ。
イビルキラー:邪神人を倒した者に与えられる称号
効果:スキル・イビルキラー獲得
邪人をたくさん倒すのではなく、強大な敵を倒した場合に与えられるタイプか。もうすぐレベルカンストだし、何が起きるのか。楽しみだ。
この分だとウルシもレベルアップしているだろうな。
名称:ウルシ
種族名:ダークネスウルフ:魔狼:魔獣
状態:平常
ステータス レベル22/50
HP:644 MP:811 腕力:341 体力:290 敏捷:439 知力:282 魔力:511 器用:258
スキル
暗黒耐性:Lv8、暗黒魔術:Lv3、鋭敏嗅覚:LvMax、
隠密:Lv7、牙闘技:Lv6、牙闘術:Lv6、影潜み:LvMax、影渡り:Lv6、空中跳躍:Lv8、恐怖:Lv4、警戒:Lv6、気配遮断:Lv6、再生:Lv5、死毒魔術:Lv1、瞬発:Lv5、消音行動:Lv6、死霊魔術:Lv5、生命探知:Lv7、精神耐性:Lv6、毒魔術:LvMax、反響定位:Lv7、咆哮:Lv8、夜陰紛れ:LvMax、闇魔術:LvMax、暗視、王毒牙、自動HP回復、自動MP回復、毒無効、身体変化、魔力操作
〈New〉邪気感知:Lv1、邪気耐性:Lv1
ユニークスキル
捕食吸収
称号
剣の眷属、神狼の眷属
よし、ウルシもレベルが上がっている。それに新スキルを2つも。邪気感知と邪気耐性か。ウルシはフラン程ダメージを受けたわけじゃないと思うが……。いや、待てよ。捕食吸収の効果か? 捕食相手の力を一部取り込むっていうスキルだ。最後の一撃でわずかだがリンフォードの肉と血を口にしたはずだ。それが何か作用しているかもしれないな。予測でしかないけど。
取りあえずこれ以外に異変はないみたいだし、問題はないと思うけど。邪人を食わせるのは控えた方がいいかな?
『次はゼライセのところに行かないと』
(ん)
でも、居場所が分からん。リンフォードからゼライセの居場所を聞き出せなかったのは痛いぜ。いや、待てよ。まだゼロスリードが残っていたな。
『あれ? ゼロスリードどこだ?』
「? 消えた」
「え? ああ! 狂戦士が居ないじゃない!」
フランの呟きを聞いたアマンダが、周囲を見回して叫ぶ。
いつの間に? 今さっきリンフォードに攻撃をしたばかりなんだぞ?
「認識阻害系のスキルを持っているのかもしれねぇな」
「あ、あそこよ!」
アマンダが指差す方を見ると、50メートル程離れたところにゼロスリードがいた。いつの間にあんなところに。
「今回もその犬っころにしてやられたぜ! とどめは俺がさすつもりだったんだがな! だが、ある程度はジジイの力を喰う事も出来た! 俺はここでおさらばさせてもらう!」
「逃がすか!」
コルベルトが駆け出すが、ゼロスリードの方が一歩早かった。
「はっは! ゼライセは錬金術ギルドにいるぜ! あばよ!」
「え? 転移術なの?」
アマンダが驚くように、ゼロスリードの姿は一瞬で消え失せていた。俺が使う転移術とそっくりだ。リンフォードも使っていたし、邪術には転移系の術があるのかもしれない。頻繁に使わないところを見ると、何か制限があるんだろうが。
「ちっ。さすがに長い間逃げつづけてる賞金首なだけあるな! 今度こそぶちのめしてやるつもりだったのに!」
逃がしたか。いや、アマンダ達に手伝ってもらえば追えるか? いやいや、それよりもゼライセの確保が先だ。ゼロスリードの言葉が本当か分からないが、リンフォードのことも裏切ったような奴だ。ゼライセとも袂を分かっている可能性も高い。俺たちがゼライセを追っていれば、ゼロスリードへの追撃が緩むだろうし。
「まだ邪気が」
ゼライセとゼロスリードのことしか頭になかったが、フォールンドの言葉で思い出した。そう言えば邪水晶が残っていたはずだ。あれって放っておいたらやばいんじゃないか?
「邪水晶が残っているかもしれない」
「それは何じゃ?」
フランが邪水晶のことを説明すると、皆が顔色を変えて瓦礫を漁り始めた。シャルロッテもやってきて、探索に加わる。
彼女は邪気に対してかなり鋭敏な感覚があるようで、あっと言う間に邪水晶を発見してくれた。どれも瓦礫の下敷きになっていたが、ガムドの土魔術で簡単に掘り起こせた。
「これが邪水晶ですか……」
「さっきよりも邪気が薄い?」
そうなのだ。フランの言う通り、リンフォードが変身する前に俺たちが破壊した時とくらべると、邪水晶の放つ邪気が大分薄まっていた。
「これが神殿に置かれていたんですか?」
「ん。リンフォードが儀式してた」
「そうですか……」
「何かわかるの? シャルロッテちゃん?」
「多分ですけど」
シャルロッテ曰く、神殿とは神域と交信するための装置のような物らしい。神の住む神域との道の様な物があり、神託などもその道を使って送られてくる。職業の変更も、その道を使って神域にある世界の理に働きかけ、書き換えることで職業を変更できるのだ。
とは言え、その道を管理しているのは神であり、普通の人間がその道を勝手に利用することは出来ない。
だが、この邪水晶を使い、道を歪めることで、神域に封印されていると言われている邪神に接触ができる可能性があるのではないか? それがシャルロッテの推測だった。
コルベルトなどは疑いの言葉を口にしているが、邪神の力が不明な以上可能性はゼロではないというのがアマンダやガムドの結論だ。
大昔の戦争で神々に負けた邪神は何分割にもされて世界中に封印されたが、その中でも核と言われるような部分は神によって神域に封印され、監視されているらしい。神話ではそう語られているという程度だが。もしかしたら本当なのかもな。
とりあえずこれは破壊しとこう。残しておいても、ろくなことにならないだろうしな。アマンダ達も同意見だったらしく、皆で邪水晶を粉々に砕いた。
さて、これで残るはゼライセだ。
「アマンダ、手伝ってほしいことがある」
「良いわよ!」
「何か聞かなくていいの?」
「フランちゃんの頼みを断る訳ないじゃない! で? 何をすればいいの?」
話がめっちゃ早くて助かるわ。俺はフランを通じて、ゼライセのことを皆に説明した。今回の黒幕の一人であり、まだ捕まっておらず、何か企んでいる様だと。
「錬金術師ゼライセ……まだこの町に居たか。弟たちを謀ってくれた借りはきちんと返させてもらうぞ」
「最近名前を聞かないから、くたばったのだとばかり思ってたぜ!」
「そいつの所に行けば狂戦士の野郎もいるかもしれないな」
「子供たちのためにも、そいつにはお仕置きが必要ね!」
「ああ」
皆やる気のようだった。これだけの面子が居れば、捕縛もあっという間だろう。俺たちは町の地理に詳しいコルベルトを先頭に、錬金術ギルド目指して駆け出すのだった。




