閑章二 海中ダンジョン 13
『くらいやがれ!』
「オロオオォォォ!」
俺が操る5本の分裂体が、全方向からボスクラゲに襲い掛かった。俺も含めた6本の剣が、縦横無尽に宙を駆け巡る。
ボスクラゲはどの剣に対応したらいいのか分からず、やたらに触手を振り回した。だが、俺たちを中々捉えることはできない。
それどころか、分裂体に当たった触手が切り裂かれてしまう始末だ。
神気による傷跡は再生が遅く、ボスクラゲの触手はどんどん数を減らしていった。
ただ、俺にも問題がないわけではない。
分裂体を使った攻撃は非常に派手なのだが、消耗がえげつなかったのだ。魔力がガンガン減っていく。
神域から神気を供給されているうえ、ボスクラゲから魔力を吸収しているのに、減る方が圧倒的に多いのである。
魔力供給スキルを応用して分裂体に神気を送り込んでいるが、これがメチャクチャ効率が悪いらしい。
本来は魔力を供給するためのスキルで、神気を扱っているわけだしね。無理があるんだろう。神剣化したことで得た制御力のゴリ押しだもんな。
俺の分裂体とはいえ、本体からは数段劣る存在だ。様々な負荷に耐えられず、耐久値がゴリゴリ削られていた。それを修復するために神気を消耗し続けているような状態である。
多分、消費した神気を攻撃に使っていれば、とっくに倒せているんじゃなかろうか? 今後この戦法を使うなら、もっと神気の扱いを上手くならなきゃいけないだろう。
まあ、今は戦闘中だし、最後までゴリ押すけどな!
『おおおおぉぉぉぉぉぉ!』
分裂体の耐久があと少しで0になるという瞬間、俺は5本の剣をボスクラゲ目がけて突進させた。
『最後っ屁ってやつだ!』
やつの体に次々と突き刺さった分裂体が、大爆発を起こしていく。どうせ壊れるならと、自爆攻撃をさせたのだ。
そういうスキルがあるわけじゃなく、制御できないレベルの火炎魔術を分裂体を起点に発動させたってだけだが。
触手は8割近くが切り裂かれ、本体にも大きなダメージが入った。自分で言うのもなんだが、いい仕事をしたんじゃないか?
お膳立ては整ったのである。
『フラン!』
「ん。いく」
『おう! ぶちかましてやれ!』
刹那、フランの体が黒雷と化して奔った。
体に力を入れた様子も、魔力を練り上げることもなく、神獣化状態のフランは意識すらせずに呼吸をするように黒雷転動を使いこなせるのだ。
「しっ!」
「オロォォ?」
「はぁ! せい!」
「オルオオォォロォォ!」
ボスクラゲが戸惑っている。フランの動きが見えていないのだろう。フランがやっていることは単純だ。
黒雷転動で移動して触手を斬り、再び黒雷と化して、斬る。それを連続で繰り返しているだけだった。
だが、全てが神速だ。斬る瞬間も足を止めることはせず、影すら捉えられぬ速さで動き続けていた。
ウルシや静かなる海ですら、俺たちの姿を完全には捉えきれていないだろう。しかも、神属性の乗った斬撃によって、触手は再生できない。
これで、全ての触手は消え去った。
「ふむ」
『どうだ?』
まあ、ここまでは慣らし運転みたいなものだ。今の体でどれだけ動けて、どれだけ斬れるか。それを確かめたのだろう。
天井スレスレの高さまで跳んだフランは、眼下を見下ろしながら手をグーパーさせている。その目には、強い歓喜の色があった。
「いい感じ」
フランが笑う。自身と俺の強さに、確信を持てたのだろう。
「いける」
フランはそう呟いて、クルリと身を翻して天地を逆転させる。その足が踏みしめるのは、ダンジョンの天井だ。
俺を構えたフランが、折り畳んだ両足に力を籠める。天井にヒビが入るほどの力を推進力に転化して、フランは一気に真下へと跳んだ。
「てやああぁぁぁぁぁ!」
「ホロオォォォォォ⁉」
突如天から降り注いだ黒雷の光に、ボスクラゲが驚きの悲鳴を上げる。フランの姿を完全に見失っていたんだろう。
黒い閃光とともに、ボスクラゲが一刀両断された。相手は脅威度Aクラスの強力なダンジョンボスだ。
そんな相手が、何の抵抗もなく豆腐のように斬り裂かれていた。
「ふぅぅぅ……」
地面に直撃する瞬間、俺の転移でウルシたちの横へと退避したフランは、残心をしながら深く息を吐いている。
「ん……」
ボスクラゲを完全に倒したことを確認したフランが、静かに頷いた。それは、自身の攻撃の手応えを、改めて実感したゆえの頷きだったのだろう。
最後の一撃は、神獣化していない状態では不可能とも言える一撃だったからな。天断の先にある斬撃に、高密度の黒雷と神属性を乗せた超威力の一撃だったのである。
きっと、普段でも使えるように、感覚を思い返しているんだろう。
「す、凄いなフラン! 何だ最後の一撃は! 鳥肌立ったぞ!」
「オンオン!」
静かなる海さんとウルシが大興奮だ。2匹の狼が尻尾ブンブンで騒いでいる。というか鳥肌って……。毛と鱗のせいで全然分からん。
「さすが神剣使い! 圧倒的だったな! いやー、助っ人を頼んで本当に正解だった!」
まあ、依頼主が満足そうでよかった。
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