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閑章二 海中ダンジョン 11


「もぐもぐ」

「うむ。冷たくて美味いな!」

「オン!」


 氷竜の肉を貪り食う二匹の狼たち――いや、片方はスキュラだが。


 タコのような触手の上に、巨大な海狼の頭部。そして、さらにその上に金髪美女の上半身が生えているという、なかなかインパクトのある見た目のモンスターだ。


 静かなる海が変形した姿だが、この形態で肉を食う場合は狼の頭を使うらしい。だが、喋るのは人間の体の方だ。そのため、氷竜の後ろ足をモグモグしながら、普通に会話することができていた。


『し、静かなる海って、メス――いや、女性だったのか?』

「うん? 気づいておらんかったのか? まあ、同性や同種でなければ見分けは難しいか?」

「?」


 同性のフランも見分けられてないけど……。でも、見た目じゃ全然分からないんだよな。あと、喋り方とか、男性ぽい気がしていたのだ。


 でも、聞こえる声は中性的だったし、男性とも女性とも言い切れない声だったな。イケメンボイスと言われたらそうだし、クール美女と言われても納得できる感じだった。


 カッコイイ狼の外見のせいで、完全に男性だと思い込んでいたのだ。


「まあ、神獣の眷属に性別の概念は薄いからな。仕方がない。我もスキュラの因子が混ざっていなければ性別なんぞなかっただろう。人類種と交渉する時などはその方が親しみを持たれるらしく、重宝しているがな。今回は神獣の関係者同士ということで、一番楽な姿を使わせてもらった」

『な、なるほど』


 スキュラの姿で親しみ? 海狼の姿よりはマシなのか? でも、人によってはスキュラの方が気持ち悪いって人もいると思うが……。


「特にオスの場合は、スキュラの姿の方が歓迎されるのだ。人類種のメスは可愛いものが好きらしく、海狼の方がいいようだがな」


 あー、親しみというか、スケベ心でしたわ。スキュラの姿の時は髪で大事なところ隠れてるけど、普通に美人だったし。鼻の下伸ばしてる男どもがいるってことなのだろう。


 海狼は……まあ、小さければ可愛いか?


「オンオン!」

「はっはっは! 海狼の方がよいとな? イケてる? 世辞を言っても何も出んぞ? 肉を食うか?」

「オンオン!」


 お、ウルシが紳士してると思ったら、普通に餌付けされたな。喜んで肉を食べて尻尾を振っている。紳士狼への道は遠いということか。


「師匠、この肉全然焼けない」

『うん? え? いつの間に?』


 気づいたら、フランは氷竜の肉塊を網の上に乗せて、火で炙っていた。俺が静かなる海と話している間に準備を整えたようだ。


 竜肉は美味いし、我慢できなかったんだろう。でも、この肉は簡単には焼けないぞ?


『氷竜の肉は氷雪属性を帯びてるから、普通の火じゃ焼けないらしいぞ? 魔力の籠った火を使うか、長時間煮込むしかない』


 ルイベ的な感じで生でも食べれるらしいが、大量に食べたら腹を壊しかねん。かき氷とかアイスを食い過ぎた時と同じだ。


『ここから出たら料理してやるから』

「わかった」

『ほら、今はこれで我慢してくれ』

「ん!」


 カレー粉を塗して焼いた、タンドリーチキン風の焼き鳥串を渡しておく。まあ、フランはカレー味食べてたらだいたいのことはどうでもいいから……。


 そして、少しの休憩の後、俺たちは6階へと足を踏み入れた。


「これは、広いな」

「オ、オン」


 静かなる海とウルシが驚いているが、俺とフランも同じだ。6階は、今までとは全く作りが違っていた。


 氷竜と戦ったホールよりも、さらに広い。高さは200メートルくらいだが、広さは圧倒的だ。多分、直径500メートルを超えると思われるのだ。多分と言ったのは、先が完全には見通せないからだ。


 床は水に覆われ、濃い水蒸気が立ち込めているせいで、視界がかなり悪かった。


 しかも、足元の水はかなりの速さで流れている。部屋を回る様に流れる膝丈の水流は、フランであっても油断すれば足を取られるほどの勢いがあった。


 そして、その部屋の中央に鎮座するのは、巨大な影だ。水蒸気の壁の向こう、小山ほどもある謎の影が蠢いている。


「くる!」

『飛ぶぞ!』

「ん!」


 水蒸気を裂いて飛んできたのは、超高速の水の弾丸だった。しかも、一発ではない。空気を切り裂く音を置き去りにするほどの速度の水弾が、無数に襲い掛かってきたのである。


『ちぃ! 威力がヤベェ! 障壁で一発受けただけで、魔力がかなり持ってかれたぞ!』

「し! はぁ!」


 フランが攻撃を回避しながら、当たる軌道の水弾を斬り払うが、俺の耐久値がガッツリ削られた。


 一発一発が相当な威力だ。直撃したら、フランでも相当なダメージだろう。しかも、段々と攻撃が烈しくなっていく。


 ドドドドドドド――。


 弾幕が張られていた。部屋の中を転移と高速移動で逃げながら相手を観察するが、未だに姿が良く見えない。


 攻撃が止まぬせいで、迂闊に近づくこともできない。


 いつまでこの攻撃が続く? もしかして、相手にとっては無理をしているほどでもないのか?


 無理して突っ込むか、様子見をするか。悩む俺たちだったが、すぐに相手の攻撃が止まった。


「我らを忘れてもらっては困るな!」

「ガルルルル!」


 静かなる海とウルシが、攻撃を仕掛けたのだ。密かに相手に忍び寄り、一気に巨大化して噛み付いたらしい。


「オロロオオオオォォオォォォ!」

「ぬぐあ! 小癪な!」

「ガル!」


 自身に噛み付く2体の巨獣を引き剥がすため、全身から魔力を放出したらしい。そのお陰で、周囲の水蒸気も吹き飛んでいた。


 相手の姿が、ハッキリと見える。


『青い、クラーケン? いや、クラゲか?』

「足いっぱい」

『あの足の先から、水を撃ち出していたんだろうな』


 そりゃあ、あれだけ足が多ければ、あれくらいの弾幕は張れるだろう。魔力も相当なものだし、気合を入れなきゃ大怪我する相手だ。


「強そう」


 だが、フランは嬉しそうに、笑う。歯ごたえがありそうな敵と戦えることが、嬉しいのだ。全く、俺の相棒は頼もしいぜ!


呪われ料理人の3巻が9/10に発売予定です。

転剣と同じ、るろお先生のイラストですのでよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
人肉味を知ってる美女の上半身持ち・・・ 良いのか?懸想したオスの面々? ちなみに一人称が"我"ってことは、幼体時は僕っ娘だぁ~ (懸想したオスより)
これ確定… いや、まだわかんないや…
氷竜肉は天然ルイベかぁ。面白い。特殊加熱でとことん調理するも良し。暑い所で涼しくいただくも良し。幅が広がりますね。 そして巨大な青クラゲ。なかなかなフロアボス。 昔みたいに魔石吸収の必要は無いとは言…
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