閑章二 海中ダンジョン 07
地下三階。ここからは罠だけではなく、魔獣の姿も増え始めている。邪人がダンジョンマスターというだけあって、邪気を纏う魔獣もいるのだ。とはいえ、罠メインのダンジョンだから、多いというわけじゃないけどな。
背後から挟み撃ちするように襲ってくることもあり、気は抜けない感じだ。
今のところ襲ってくる相手は雑魚ばかりだから、俺が処理できている。
フランはほとんど戦う機会がないんだが、キリッとした顔で警戒を続けていた。
正直、フランは集中力が長続きする方じゃない。戦闘中ならともかく、暇とすら言える道中でここまで集中力を維持できるのは珍しいのだ。
もしかして、ランクS冒険者となったことで、責任感的なものが芽生えたのか?
「……ふふん」
『どうしたフラン?』
集中力維持どころか、メッチャ楽しそうだ。楽しむ要素、ここまであった?
「師匠が前言ってた」
『うん?』
「シーフードカレーは正義」
え? そんなこと言ったっけ? 記憶にないが、カレーのことを教える時に言った可能性もあるか?
いや、フランがカレーに関する記憶で間違う筈はないし、多分どっかでそんな発言したんだろう。でも、シーフードカレーは何度も作ったことあるぞ?
「師匠は言ってた。魚介からは良い出汁が出ると」
『うん。そうだな』
「だから、海の魔獣をたくさん使えば、色々な出汁が出る。つまり、正義」
結局食欲が理由か。まあ、それで頑張れるならいいことだ。ただ――。
「しーふーどかれー? それは食べ物なのか?」
「ん! カレーは最強の食べ物!」
「ほう? 聞いたことがないが、人の世はいつの間にか進歩しておるからな」
「師匠が作った」
「なにぃ? その神剣が? さ、さすが神剣にしてインテリジェンス・ウェポン! 我の想像を超えてくるな!」
静かなる海が、驚愕の表情だ。この人、やっぱり人間臭いよね。
で、それを見たフランがさらに気分を良くして、俺とカレーを持ち上げる。
「きっと美味いのだろうなぁ」
「ん。カレーは最強。師匠も最強。シーフードカレーはきっと最高」
韻を踏んで褒めてくれてありがとう! でもな、ここまで倒した魔獣のほとんどがシーフードじゃないんだ! 地上で出てくるタイプの魔獣ばっかりなの!
多分、以前の俺が、海で獲れた食材がシーフードだと教えてしまったのだろう。確かにここは海中ダンジョンだから、海ではある。でも、空気がある関係で、普通に獣系の魔獣が多かった。
エビやカニ、タコの魔獣などもいるからシーフードがゼロってわけでもないんだけどさ。とりあえず、道中で出現した魚介類はできるだけ収納しておこう。
「うーむ、まさか新たなる料理を生み出すほどの能力があるとはなぁ。それでいて、強いのだろう?」
「最強」
さっきから最強の大安売り! ただ、静かなる海は真に受けているようだ。
「最強の食べ物を生み出し、自身も最強? そ、それでは最早、歴代最強の神剣ではないか!」
「ふふん。その通り」
「これは、ダンジョンの攻略も期待が持てるな!」
やめて! ハードル上げないで!
『で、でも、俺は邪神の欠片とか相手じゃないと、最大の力を発揮できないから……』
「なに、お主はインテリジェンス・ウェポンなのだ。その知性こそが真価であろう!」
「ん! 師匠は何でも知ってる」
「おお! 凄いな!」
静かなる海さん、キラキラした目っ! ピュアッピュアでイノセントな尊敬の目で見られてるんですが! この人、純粋すぎる!
『が、頑張るよ。でも、何でも知ってるは言い過ぎかな~?』
「神剣でありながら謙虚であるのだな! うむうむ」
「ん!」
あー、ダメだ。神獣の眷属なだけあって、神様関係に対する信頼補正がカンストしてるわ。神獣とか神剣ってだけで、無条件で尊敬されてしまうのかもしれない。
これ以上は何を言っても評価は覆りそうもないので、諦めた。精々、「ちっ! 神剣だと思って期待してれば、ただの駄剣ではないか! 残念神剣め!」って思われないように頑張ろう。
俺の評価は、フランの評価にもつながるし、無様な姿は見せられん。
「オンオン!」
「む? これは――今までよりも強そうな匂いであるな!」
「オン」
話しながら歩いていたら、ボス部屋の前までたどり着いていたらしい。すでに静かなる海たちが前回撤退した場所を過ぎているので、ボスの情報もない。
『初見のボスだ。慎重にな』
「ん」
『いざとなれば、俺も本気を出すぞ』
俺は神剣となったことで、様々な力を手に入れた。しかし、それらはいつでもどこでも使える物ではなかった。
フランと縁を結んだ大勢の人々から力を借りる、足跡の絆。俺の中に封じられている邪神ちゃんを具現化する、邪神の影。
俺のメインの能力であるこの2つは、相手が邪神の眷属などの強敵でなければ使うことすらできない。
まあ、神剣開放することで俺もフランも強化されるから、それだけでもメチャクチャ強いんだけどさ。正直、他の神剣に比べると、通常戦闘力では一歩劣るのは認めざるを得ないのだ。
「では、突入するぞ!」
「オン!」
「ん!」
静かなる海を先頭に、俺たちはボス部屋へと足を踏み入れた。これは、静かなる海がリーダー面してるってわけではなく、むしろ危険があった場合自分が盾になろうとしてくれているのだ。
「ほう? ミノタウロスというやつか? 初めて見たぞ」
「そうなの?」
「うむ。海の中にはいないからな。ゴブリンやオークは、陸地に上がっている時に見たことはあるが、こやつは初見だ」
そりゃあ、普段海中で活動してたら、陸地の魔獣はあまり見ないよな。ミノタウロスなんて、邪神の眷属の中でも珍しい方だし。
海中だと、サハギンやディープワンズといった邪神の眷属が有名らしい。
「オンオン!」
「ほう? 邪気さえ気にしなければ、美味いのか?」
「オン!」
「それはいいことを聞いたな!」
俺やフランからすると、邪気塗れなうえに、半人半牛のミノタウロスは食材には思えない。だが、ウルシは以前倒したミノタウロスを普通に食ってたらしい。まあ、噛み殺してるし、そん時につまみ食いしてたのか? 涎垂らすくらい、美味しいらしい。
「アレは、我らがやってもよいか?」
『好きにしてくれ』
「ん。静かなる海の戦い、興味ある」
「ならば、我とウルシが奴と戦わせてもらおう!」
「オン!」
「ふはは! 久しぶりの牛肉だな!」
「オンオン!」
「……牛肉」
フランはダメだからね! 邪気耐性持ってるけど、アレはダメだから!
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