閑章二 海中ダンジョン 02
リヴァイアサンの眷属である『静かなる海』が、頼みごとの内容を詳しく説明し始める。
「我ら海の神獣の一党は、海中の秩序を保つことを使命としている」
「秩序?」
「オン?」
「うむ。邪神の眷属の討滅、人間たちによる海洋汚染や占有に対する制裁。他にも、神によって定められた海の秩序を守り、保つために働いている」
フランとウルシは海洋汚染という言葉がいまいち分かっていないようだが、俺にはよく分かった。地球では正に、それが問題になっていたわけだし。
神様たちは地球からやってきたという話だから、この世界を作る時に対処するための存在を生み出したらしい。
伝説で語られる、リヴァイアサンに滅ぼされた国って言うのはもしかしたらその辺の禁忌に抵触したのかもな。
「そして、今回のような、危険なダンジョンへの対処も、我らが請け負っている」
「危険なダンジョン?」
「スタンピードを起こした際、海洋への影響が大きすぎると判断されたダンジョンや、邪人などがマスターとなったダンジョンだな。此度は後者、強力な邪人がマスターとなってしまった。さらにダンジョンが育てば、世界の脅威となるだろう」
「なるほど。でも、なんでリヴァイアサンが自分でやらない?」
国をあっさりと亡ぼすことができる、超巨大な神獣なのだ。フランに頼まず、自分でやればいいのではなかろうか?
以前見た凄まじい遊泳速度であれば、海のどこにあったってすぐに到着できるだろう。
しかし、今回のダンジョンは浅瀬に出現したため、リヴァイアサンの巨体では近づくことさえ難しいらしい。
それに加え内部は非常に狭く、罠が大量であるせいで、リヴァイアサンの眷属たちでも難儀しているそうだ。
「普段であれば、魚人の冒険者たちに助勢を頼むのだが……」
魚人というのは、獣人の魚バージョンだ。下半身が魚の、いわゆる人魚という奴だな。鰓呼吸なので魔術を使わねば地上には出れず、俺たちも直接出会ったことはない。
「今回は、それもできぬ」
「なんで?」
「魚人の海中都市の一つが、危機に陥っている。都市の側にある大型ダンジョンがスタンピードを起こし、世界中の魚人冒険者が都市防衛に参加してしまっているのだ」
まあ、魚人からしてみたら、自分たちの都市の防衛の方が重要だろう。
「リヴァイアサンが魚人のこと助けて、その後力貸してもらったら?」
「我らが手助けするのは、海の秩序が失われる恐れがある場合のみ。今回は、それに当たらぬため、動けぬのだ」
この世界にとって、ダンジョンは摂理に組み込まれた当たり前の存在だ。ダンジョンスタンピードも、神からすれば邪悪な現象ではない。言ってしまえば、台風や地震といった災害と同じなのだ。
それによって危機に陥っている人々がいたとしても、リヴァイアサンが救うことはなかった。神獣からすれば、正常なダンジョンマスターもまた庇護の対象なのである。
「海神龍様も魚人も対処ができぬというわけで、代わりに力を貸してもらえる人材を探していたというわけだな。そして、お主たちを見つけたのだ」
「なるほど」
「無論、依頼主はリヴァイアサン様として、冒険者ギルドに連絡も入れよう。達成した暁には、しっかりと報酬も支払われる。金銭だけではなく、現物での支払いでもいいぞ?」
「ほほー」
静かなる海の話を聞き終わったフランが、完全にダンジョンまっしぐらな顔をしている。
(師匠!)
『あー、結構危険そうだぞ? リヴァイアサンの眷属たちが、攻略を諦めて外部に助けを求めてるダンジョンだし』
(それでも、行きたい!)
フランは真剣な顔をしていた。ただダンジョンに興味があると言うだけではないようだ。
(師匠のお陰でランクS冒険者になったけど、私は全然弱い。強くなるために、修業しなくちゃダメ。それに、今回の依頼、ランクSにふさわしい)
フランはまだ高難易度依頼をこなしたことがなかった。そもそも、ランクS冒険者しかできない依頼なんて、そうそう発生するもんじゃない。
それって、世界や大陸の危機レベルの依頼だし。
ランクS冒険者という地位は、冒険者の象徴的なものであり、危険な力を持った人物を持ち上げて暴走を防ぐための枷でもあるのだろう。
ランクSになってせっかくやる気になっていたのに、全くそれっぽい依頼がこず、フラン的にはがっかりしていたらしい。
そこに、今回の依頼だ。神獣から持ち込まれた、高難易度ダンジョンの攻略。確かにランクSっぽい依頼だ。
フランのテンションが上がってしまうのも、仕方がないことだろう。
『まあ、リヴァイアサンからの依頼なんて、断れんしなぁ』
(じゃあ!)
『おう。ばっちり依頼達成して、リヴァイアサンからの報酬とやらをゲットしてやろうじゃないか!』
「ん!」
「オン!」
フランはキリッとした表情で、宣言する。
「その依頼、ランクS冒険者の私が引き受ける!」
「オンオン!」
「ラ、ランクS? お主、ランクS冒険者だったのかっ!」
「? 知らなかった?」
「オン?」
それで話を持ってきたわけじゃないのか? そう言えば、神獣の力を受け継いでるからとは言っていたが、ランクや神剣ということは一切口に出していなかった。
「我らは緊急時に冒険者ギルドと連携することはあっても、普段から密に連絡をとっているわけではないのだ。此度は、お主らが放つ神獣の気配を頼りに、呼びかけたにすぎん」
「ふーん。じゃあ、改めて自己紹介する。私は黒猫族のフラン。神剣の所持者として、ランクS冒険者になった! こっちはウルシ」
「オン!」
「な、なにぃ! し、神剣だと?」
それも知らなかったのか。本当に俺の中のフェンリルさんの気配を頼りに、話を持ち掛けてきただけだったらしい。
ここは、バッチリ挨拶をしてやらないとな!
『おっす! オラ師匠! フランの神剣だ! よろしくな!』
「け、剣が喋ったぁぁぁぁぁ!」
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