閑章 フランとクーネ 11
リンゴとハチミツが存在するとなれば、甘口カレーを作るしかない!
ということで試作を繰り返すこと数日。
『どうだ?』
「ん。美味しい」
「美味いニャ! これニャらみんなも食べれるニャ! 辛くないんだニャ!」
「オン」
フランはいつも通り、クーネはいいリアクションで、激辛好きのウルシはちょっと物足りなそうだ。正直言って、辛味なんてほとんど感じないレベルの激甘カレーだからな。
小学校の低学年の給食に出るカレーを、もう少し甘くした感じって言えばいいか? 甘くはしても甘ったるくはならないように、紫林檎や香辛料の量を相当研究して調整したのだ。
結果、甘いけど爽やかな美味しいカレーができたのである。
これによって、香辛料と米の使い道は何とかなりそうだ。残るは蕎麦と味噌なんだが、まずは蕎麦から着手することにした。
こっちはカレー南蛮蕎麦にするだけだから、簡単だったしね。ネギっぽい野菜もあったし、それとあわせれば終了だ。
で、残った味噌は、魚の味噌煮にしてみることにした。砂糖大量投入の激アマ味噌煮だ。俺からすると甘過ぎだと思うが、レイドスの人の口には合ってくれるかね?
これが受け入れられれば米の消費もさらに進むかもしれないし、是非レイドス人に気に入られますように!
そこからさらに数日。俺たちは冒険者ギルドの前で大勢のレイドス人に囲まれていた。
「さあさあ! 新しい料理のおひろめニャ! こんな美味しい料理がタダニャ!」
「ん。おいしいよ」
「オンオン!」
町の人々に、完成した料理の試食をお願いしているのだ。カレーライス、サバっぽい魚の味噌煮丼、カレー南蛮蕎麦を少しずつ配り、欲しい人にはレシピや材料を袋に一まとめに入れたものも渡す。
そう言う計画だったんだが……。
誰も近づいてこようとはしなかった。クーネの味覚はこの町で知られているらしく、クーネが美味しいと言うってことはつまり――? みたいな状態であるのだ。
こいつの顔の広さが仇になるとは……!
だが、そこに救世主が現れた。
「クーネ! なにやってんだ?」
「クーネ姉ちゃん、これなに?」
「なんかいーにおいするな!」
クーネと仲のいい町の子供たちだ。クーネが何かやっていると聞き、興味を持ってやってきたらしい。
「変な見た目ー!」
「まずそー!」
「ニャ! マズくないニャ! むしろゲキウマニャ!」
「ほんとーかよー?」
「クーネ姉ちゃん馬鹿舌だって父ちゃん言ってたぞ!」
「ニャー! あの野郎なんてこと言うニャ! 今度しめるニャ!」
不信感は有りつつも、クーネの言葉と匂いに釣られたようだ。子供たちはフランが差し出したカレーを手に取って、恐る恐る食べ始めた。
くくく、見た目はあれでも一度食べてしまえばこちらのものよ! 俺の渾身の激甘カレーの虜になるがいい!
「この黒っぽいやつうめー!」
「がふがふ! 無限に食える!」
「これはもう飲み物だ!」
甘口カレーは紫林檎の色のせいか、黒寄りの茶色って感じだ。その見た目のせいか誰も食べようとしなかったんだが、子供たちはもう止まらないらしい。
満面の笑顔でカレーを食べまくる子供たちに触発され、大人たちも近づいてくる。いい客寄せになったのだ。
というか、もうすでにカレーは飲み物というこの世の真理に辿り着いた子供がいるのか! 将来有望だぜ。
「こいつはうめーぜ! この麺、慣れるといい香りだ!」
「やっぱこの魚だよ! こんな濃厚なタレ、初めて食った!」
「このカレーってやつ、白い穀物と相性抜群だ! 毎日これでいい! 感激だ!」
いつも通りの料理に少し混ぜると違和感だが、全く新しい料理であれば受け入れてもらえたわけだ。食の好みっていうのは難しいね。
「ふふん」
フランは渾身のドヤ顔だな。カレーが美味しいと受け入れられて、大満足なんだろう。腕なんか組んじゃって。
『フラン、上手く行ってよかったな』
「ん」
その後、用意した料理とレシピ、材料は全てはけ、試食会は大成功に終わったのだった。レシピはすでに冒険者ギルドにも伝えているので、今後は俺たちがいなくても問題ないだろう。
これで、今回の依頼は無事終了かな?
翌日、職員へのあいさつを終えたフランは、ギルドを後にした。最後まで、ランクS冒険者に頼む依頼だったかは疑問だが、まあ、フランとしては楽しかったようなので、受けてよかったかな?
それに、クーネとも出会えたし。
「フラン! 待ってたニャ!」
「クーネ」
見送りにきてくれた――にしては、少々物騒な気配を身に纏っているな。それを感じ取ったフランも、同様に臨戦態勢だ。
「今回は色々と助かったニャ。料理のことも、ニャーに進化の方法を教えてくれたことも、感謝感謝ニャ」
「ん」
「それで一つお願いがあるニャ。ニャーと、模擬戦してくれんかニャ?」
クーネがそう言って、頭を下げた。いつものクーネと違って、シリアス全開の雰囲気だ。そんなクーネに対し、フランの答えは決まっている。
「わかった」
「ありがとうニャ!」
クーネはどう見ても戦闘狂だし、こうなることはちょっと予想していた。むしろ、ここできたかって感じだ。フランも俺と同じだったらしく、その顔には紛れもない歓喜の表情が浮かんでいる。
「ニャハハハ! それならニャーに付いてくるニャ! 町の外でやるニャ!」
「ん!」
「転生したら剣でした Rev:黒猫が最強の剣とレベルアップ」
本日から1週間、7話まで無料で読めるようです。
https://piccoma.com/web/product/163093?etype=episode
メインビジュアルの耳飾りなんかを見て、え? フラン? なのか? と、違和感を覚えていらっしゃる読者様もけっこうおられるようですね。鋭いです。
本日、GCノベルス様10周年記念のYutube番組が配信される予定です。
フラン役の加隈亜衣さんが出演されるコーナーなどもあるようなので、ぜひご覧ください。