閑章 フランとクーネ 10
町へと戻った俺たちは、冒険者ギルドで魚を披露していた。
ギルドの近くの広場にラージマウスや他の魔獣が並び、それを野次馬が囲んでいる。
最初は解体所に出そうとしたんだが、ギルマスから住民へのアピールを頼まれたのだ。そのため、こうして少々無理矢理お披露目をしているという訳だった。
冒険者でもないクーネを付き合わせて良いのかと思ったが、むしろ乗り気な感じである。
「すっげー! でっけー! これクーネがとってきたのー?」
「ニャハハハ! そうニャ! あそこにいるフランと協力して釣り上げたのニャ!」
「まじかよー! なあ、あの姉ちゃんもつえーの?」
「強いニャ!」
クーネは子供に囲まれながら、ドヤ顔で武勇伝を語っていた。さすが人気者のクーネ。他の住人たちも彼女の話に興味津々だ。
「どんくらい強いんだよ!」
「悔しいけど、ニャーよりも強いニャ」
「えー! クーネ姉ちゃん負けたのかよー!」
「だせー!」
「負けてないニャ! というか、やるまでもなく実力差がありまくりニャ!」
戦闘狂の気があるクーネだが、彼我の実力差を見極める目もしっかりあるらしい。剣ではフランに勝てないと説明している。剣でと限定する辺り、負けず嫌いが出ているが。
「えー! クーネって強いんだろ! それよりもあのちっこい姉ちゃんが強いのかよー!」
「嘘だー!」
「本当ニャ。フランはニャんと神剣使いなのニャ。それがなくても強いニャが」
クーネが子供たちにそう告げた瞬間、周囲がざわめいた。
「あの子が、神剣使いだって?」
「じゃあ、あの背中の剣が……?」
「すごいのう! 儂、この歳になって初めて見たんじゃが!」
子供たち以外も相当驚いているようだ。そもそも、フランの情報がほとんど入ってきていないらしい。
ここの冒険者ギルド支部が、ランクSの神剣使いが依頼を受けて北部にやってきていると告知しているはずなんだが……。
冒険者ギルド自体の認知度が低すぎて、全く宣伝になっていないらしい。だとしたら、今回のラージマウス解体はいいアピールになるだろう。
まあ、解体はギルドの職員がやってくれるらしいし、あとは任せればいい。
『ちょっと探したいものがあるんだけど、果物を買えるような場所ってないか?』
「果物かニャ? うーん、知り合いの商会に行くのが一番かニャ? 小売りはしてないけど、ニャーがお願いすれば問題ないはずニャ」
『じゃあ、そこ頼む』
食糧不足に陥っている現在、市場なども縮小傾向にあるらしい。市民の食事は半分ほどが配給制なのだ。
ただ、あまりにも統制をし過ぎると市民に不安を与えるため、配給される食材を市民が選べるようになっている。そのせいで、消費食材に偏りが出てしまっているわけだが。
さらに、こちらも市民へ過度の不安を与えぬため、食堂などには優先的に食材が回され、営業も許可されている。
食料にまだまだ余裕があるんだと思わせるわけだ。実際、第二次、第三次支援も計画されているし、ここ数ヶ月を乗り越えれば問題ない水準に戻るようだしな。
俺たちが向かったのは、食堂相手に食材を卸している商会だった。
「師匠、何さがす?」
『できればリンゴが欲しいんだよな。でも、なければこの辺で手に入りやすい果物で代用できそうなものを見つけたいな』
俺が欲しいのは、超甘口カレーの材料である。この国の人の口にも合うくらいの、激甘カレーを作りたい。
ハチミツはすでにある。あとは、リンゴがあれば完璧だ。ない場合、バナナとかマンゴーとか、カレーに合いそうな果物があればラッキーって感じ?
もちろん、地球にあるものとは全然味が違うだろうから、あくまでも似た物ってことだけどね。
「ニャー! メドルはいるかニャ? 話があるニャ!」
「なんだ馬鹿猫? 今度はどんな厄介事を持ち込んできやがった?」
「メドルいたニャ! 話が早くていいニャ!」
「こっちには話すことなんざねーよ!」
厳ついオッサンが、額に青筋を浮かべて怒鳴っている。クーネがお願いすれば頼みを聞いてくれるって言ってたか?
「また頼みがあるんだニャ!」
「やだやだ聞きたくない!」
正確には、お願いを聞かざるを得ないって感じなんだろう。ただ、今日は少し話が違うよ?
「こっちのフランに果物を売ってあげて欲しいのニャ!」
「は? それだけか? その嬢ちゃん、有名な冒険者なんだろ? 香辛料の使い方を指南しにきたって話だが……」
さすが商人。情報をしっかりと仕入れているらしい。そこからは話が早かった。香辛料を使った料理が広まれば商会にとっても利益は大きいし、北征公の客人扱いだからな。
「うちにあんのは、このくらいだぜ?」
「ほほー」
メドルが10種類の果物を持ってきて、並べてくれた。見たことがある物から初見のものまで、色々とある。
そんな中で、特に目を引いた存在がある。形は完全にリンゴだ。色は外も中も葡萄のような紫で、サイズはちょっと小さ目? 温州ミカンくらいだろう。
紫林檎というらしく、この辺では比較的目にしやすい果物だった。味や食感はどうだ?
フランが味を確かめるために齧ってみると、シャリっという林檎特有の硬質な音が聞こえた。
『味はどうだ?』
「甘い。酸っぱさも少し。でも、悪くない」
『これを摺り下ろしてカレーに入れたら、あうと思うか?』
「……あう」
目を瞑って数秒考えたフランは、目を見開いて大きく頷いた。フランがあうと言うなら間違いないだろう。他の果物も試したが、フランがカレーにあうと断言したのは紫林檎だけだった。これは決定かな。
『よし、この果物とハチミツを使って、激甘カレーを作るぞ!』
「おー」
6/29に開催されるサイン会ですが、先日から参加券の配布が始まっております。
ホームページやXで詳しい参加方法が記載されておりますので、ぜひチェックしてご参加を!
「転生したら剣でした Rev:黒猫が最強の剣とレベルアップ」
現在、20話まで更新中です。
https://piccoma.com/web/product/163093?etype=episode




