130 悔しいね
「貫け、剣よ」
百本近い剣が虚空から湧き出し、リンフォードに向かって降り注いだ。間近で見ると分かるが、それぞれが違う能力を有した魔剣だ。
見たことがあるな。食材を取るために行った魔境にいた、あの冒険者だ。
名称:フォールンド・アーノンクール 年齢:39歳
種族:人間
職業:天剣士
状態:平常
ステータス レベル:66/99
HP:718 MP:431 腕力:384 体力:323 敏捷:337 知力:201 魔力:227 器用:349
スキル
壊剣術:Lv7、解体:Lv8、危機察知:Lv6、急所看破:Lv5、気配察知:Lv7、剣技:LvMax、剣聖技:Lv6、剣術:LvMax、剣聖術:Lv7、採取:Lv4、蹴脚技:Lv5、蹴脚術:Lv6、精神異常耐性:Lv4、石化耐性:Lv3、属性剣:Lv8、跳躍:Lv7、投擲:Lv8、毒耐性:Lv3、二刀流:Lv7、魔術耐性:Lv6、麻痺耐性:Lv4、気力操作、ドラゴンキラー、ビーストスレイヤー、腕力大上昇
固有スキル
消費半減・剣技
エクストラスキル
剣神の寵愛
称号
剣神の愛し子、魔境解放者、ダンジョン攻略者、ドラゴンキラー、ビーストキラー、ランクA冒険者
装備
オリハルコンのロングソード、オリハルコンのソードブレイカー、王竜の全身革鎧、剣神の頭環、世界樹皮の靴、竜喰蜘蛛糸の外套、魔力回復の腕輪、身代りの腕輪
フォールンド? コルベルトが名前をあげてたランクA冒険者だ。たしか百剣のフォールンド。なるほど、アマンダ並みに強いな。
それにエクストラスキル持ちだし。一度でも触れた魔剣を複製できるのか。
格上の魔剣は複製できないみたいだけど、俺はどうなるのかね? 俺の分身が出来上がるとか? 複製できても出来なくても面倒なことになりそうだ。フォールンドには出来るだけ近づかない様にしておこう。
後は、コルベルトもいるな。なんか少し強くなっているし。デミトリス流武術? 面白そうなスキルだ。鑑定偽装機能のある装備でも持ってたんだろうな。どうして今は使っていないのかは分からないが。
他の奴らも強い強い。特にガムドっていうドワーフは槌聖術で巨大なハンマーを振り回して、リンフォードの巨体をよろめかせている。なんとバルボラギルドのマスターらしい。そりゃあ強いよな。
フィリップと言う騎士も中々強い。全身を鎧で守りつつ、巨大な騎士槍をブン回している。気になるのはクライストンていう家名だ。まさか領主の長男か? ブルックは隙を見て兄を暗殺するとか計画してたはずだが、これじゃあどうせ無理だったろうな。そこらの暗殺者に殺せるとは思えない。
もう一人は何故か一緒に戦っているゼロスリードだ。敵だったはずなんだけど。まあリンフォードを裏切った様だったし、何か理由があるんだろう。コルベルトもゼロスリードを攻撃する様子がないしね。今は放置しておこう。気になるのは種族が邪人・魔人となっていることだな。単なる邪人じゃないようだ。
それと共食いと言うスキルが何気に凶悪だ。俺やフランでは活用できないが、ゼロスリードには有用だろう。まさか、共食いするためにリンフォードを裏切ったとか? 今はこっちの味方をしているし、攻撃するつもりはないが……。邪人を見逃すのはまずいよな?
「フランちゃん!」
「アマンダ?」
「無事? まさか巨人と戦っているのがフランちゃんだったなんて!」
「何でいるの?」
「手紙を貰ってから、急いできたのよ!」
リンフォードに巻きついて動きを封じていた蛇のような物は、アマンダの鞭だったらしい。それにしても手紙を出したのは3日前だぞ? もうここにいるなんて、凄い行動力だな。
『アレッサは良いのか?』
「大丈夫。ジャンに任せてきたから」
『でも、ジャンはランクBだろ?』
「ああ、あいつは戦争時だけランクA扱いになるから」
アマンダにジャンの逸話を教えてもらい、俺は皆殺なんていう異名が付いていることに納得した。確かにアンデッドを大量に操れるジャンは戦争で活躍するだろうな。
アマンダに介抱されているフランに、恐る恐ると言った感じで一人の少女が近づいてきた。リンフォードが怖いんだろう。そちらをチラチラと見ながら、それでもフランにポーションの瓶を差し出してくれる。
「あの、大丈夫ですか?」
「だれ?」
『あ、月宴祭で踊りを踊ってた子だ』
「シャルロッテと言います。怪我は平気ですか?」
「ん、平気。ちょっと疲れただけ」
体力的にも、精神的にもね。
「本当はフランちゃんともっと話していたいんだけど、まずはフランちゃんに酷いことをしたあの化け物にお仕置きをしないとね」
「気を付けてくださいね」
「大丈夫よ。じゃあ、行ってくるわね」
アマンダはフランとシャルロッテに軽く手を振ると、獰猛な笑みを浮かべて飛び出していった。フランの為に怒ってくれているんだろう。
鞭と風の魔術でリンフォードを攻撃し始める。何かのスキルか? 鞭が何倍にも伸び、アマンダが軽く手を動かすだけで全方位からリンフォードを打ち据える。凄いな、一撃一撃が剣技並の威力を秘めていた。
他の奴らの攻撃も確実にリンフォードにダメージを蓄積させているし。全員が俺達よりも高みにいる。それが理解できた。
こうやって見れば、リンフォードは絶対無敵の存在ではないと分かる。何で俺は逃げる事しか考えなかったのか? 戦う方法は本当に無かったのか?
分かっている。俺はリンフォードに恐怖したんだ。そして、絶対に勝てないと決めつけてしまった。
自己進化ポイントを時空魔術と詠唱短縮に振ったのも、結局は逃げの選択肢だった。どちらもユニークスキルが派生したし、結果としては悪くはなかったのかもしれない。命が助かったんだから。
だが、考えてしまう。あの時ビビったりせずに意地を見せられていたら? 例えば火炎魔術などの魔術や、剣聖技、属性剣などの攻撃スキルにポイントを振っていたら? リンフォードとやり合うことだってできたかもしれない。
(師匠)
『何だ?』
(悔しいね)
『ああ……悔しいな』
戦うアマンダたちを見て、ただ悔しかった。この戦いが終わったら鍛え直さないといけないな。俺はまだまだ弱い。本気で修行の必要性を感じた。
『……いや』
違う。そうじゃないだろう。この戦いが終わったら? まだ戦いは終わってない。悔しい? 戦う術があったかもしれない?
なら今戦えばいい。目の前に敵はいるんだから。今からその悔しさをぶつければいいのだ。俺はまた無意識のうちに逃げようとしていた。あれだけの面子が居れば、楽勝だろうと。俺たちが戦う必要がないと。
馬鹿野郎が!
『フラン、行こう』
(勿論。このままじゃ終わらせない。絶対に一矢報いる)
フランはやっぱり分かってるか。敵わないな。
「もしかして行かれるのですか?」
立ち上がったフランを見て、シャルロッテが気づかうような顔をしている。止められるかな? だが、シャルロッテは激励の言葉と共にポーションを手渡してくれた。
「頑張って」
「ん」
「私は戦えませんが、せめてこのくらいはさせてください」
シャルロッテはそう言って、両手を軽く打ち合わせる。シャラーンという鈴のような音とともに、不思議な光がフランを包みこんだ。
「僅かですが、邪気を祓う結界を張りました」
「もしかして、結界を破ってくれたのは貴女?」
「はい、そうです」
まじか。ステータス低いと思ってすいません。
(みんな凄い)
『そうだな』
ステータスの強弱じゃないのだ。何がやれるか。そして自分の能力を見極めて最善を尽くせるか。それが重要だ。
フランは少し考え込んでいる。きっと何か感じることがあったんだろう。
『どうしたんだ?』
(師匠、私がやる)
『どうしてだ?』
(リンフォードから逃げてた時。私は何もできなかった。全部師匠に任せっきりで。いつもそう。だから、今度は私がやる)
『フラン……』
むしろ俺がフランの言葉を聞かなかったのに。もっと相談するべきだったのだ。なら、今からでもフランと話そう。
『わかった。でも、何をするつもりなんだ?』
(試してみたいことがある)
『試してみたいこと?』
(そう。師匠のオーバーブーストみたいな必殺技をずっと考えてた。私達が今持つ全てを込めた、最高の一撃。私が今できる最善を尽くす)
今、「私達」って言ってくれたな。つまり、俺の力も必要ってことだな。俺の力を引き出して、使いこなす自信があるってことだ。いいね! 剣冥利に尽きるってもんだ! こんなに情けない俺でも、フランが使ってくれれば神剣にだってなれる気がするぜ!
(セットしてほしいスキルがある)
戦闘中にフランからセットスキルをリクエストされたのは初めてかもしれないな。
『おう。全部任せる』
そして俺たちは飛び出した。フランに言われた通りのスキルをセットして。




